14話 死ねばいい
その言葉に驚いたのはツバキだけでない、シーニャも同一だった。
「何を、言ってるの?」
「レイさん。同情なんて要りませんよ?」
「同情なんかじゃないさ。君の力は捨てるにはあまりにも惜しい、殺したくない。
ラミュマも悲しむしね。」
単なる理論だけじゃシーニャを納得させる事は不可能だと悟ったレイは、自分もまた彼女に本心を曝す必要があるように感じた。
「僕は、メイド達3人と結婚する。5年前にそう決めた。」
「……はい?」
「側室じゃない。この国で、3人を正妻にする、この国で最も幸福にする。
それもまた、本来同性じゃ不可能だ。だから僕が王になり、その法を変えるんだ。」
「あなたも、もしかしておかしいんですか?」
「否定はしないよ。こんな理由の為に王になろうとしているのだからね。
けれど、王となる者として恥じないだけの力は身に着けたいと考えている。
その責務の重さを理解した上で、僕は3人と結婚する意志に変わりはない。」
「……。」
シーニャは、自分を利用しようとしている訳でない事は分かっている。自分が社会からあまりに外れた存在である事は重々理解しており、また確かに並外れた魔法の才を持つ事も理解している。が、それに対しての費用対効果が見合っていない。王になりたいのなら、どうしようもない亀裂を擁する意味がない。
その言葉が嘘かどうかを断じる必要はない。本当であれば言葉の道理に受け取ればよく、嘘であればそれはシーニャを慮った言葉だ。
シーニャがそこまで思案を巡らせたところで、レイは言った。
「行き場のない人間達の救いになれるとしたら、他の5人の王位継承者でない。
それは僕だ。僕も同じく、行き場のない人間なんだからね。父に暗殺されかけたあの日から、僕の行き処は王であると決めた。」
「本当は、大侵攻で戦いたいと考えているんじゃないのかい?
魔物との死闘において、それ以上のものはこの世にはない。
そしてつい二十数年前には最大規模の被害を出したんだ。次の大侵攻が何年後になるかは分からないが。
次の大侵攻ではその死闘は苛烈を極めるだろう。」
「大侵攻は死闘ですが、それと同時に武勲を挙げられる場でもあります。『戦貴族』として名字を頂く事もあり、最前線に出ればその栄誉は並大抵のものではない。
もし仮にこの国でも女が戦う事が認められても、最前線に農家上がりの平民の人間を置く事は不可能なのではないでしょうか。」
咄嗟にこの言葉を切り返す。やはり、シーニャは間違いなく知恵者だ。より惜しい気持ちが増す。それと同時に、必ず手に入れるという気持ちもだ。
「しがらみなんかは関係ないね。それまでに僕が王になる。王自らが定めた指揮官には誰も逆らえない。」
「そこまでして私を引き込む価値があると思うのですか。その戦場においても、私は好き放題して死ぬでしょう。」
「構わないよ。死ねばいい。でも、死ぬ事を引き留めはしないけれど遅れさせる。
今よりももっと強くなり、最高の死闘の果てに死ねばいい。君の願いは果たされるが、同時に多くの人間を守るんだ。僕は君を、死後英雄として称えるよ。」
「そう……ですか。」
シーニャは言葉の上では戸惑うが、くぐもった声の中にはそれ以上に歓びの感情が混じり込んでいる。
それもそうだろう。本来なら大侵攻で最前線に出る事など叶うべくもない。
女で、魔法使いはまず前線にも出られず、先程シーニャが言っていた通り大侵攻で活躍する事はこの国で名を挙げる一番の方法なのだ。それを他の騎士たちが譲る訳もない。
その上で、そもそも大侵攻はこの上ない脅威でもある。前線が瓦解したなら国が滅び、いずれ人類そのものを左右する。
そんな失敗は許されない中であればやはり騎士が戦略の上で優先される。強化魔法の頑強さがあまりにも大きい。騎士達は1700年守り続けた誇りと、そしてこれからも守り続けなければいけない重圧がある。それはただ糾弾されるべき事ではなく、誉れ高く貴いものだ。
だからシーニャが騎士達以上の力を持っていても、それを周囲が知らなければ何を莫迦なことを、で終わる。
だが、それを鶴の一声で薙ぎ払えてしまうのが王という立場だ。
彼女個人では絶対に無理だったろうそれは、レイの部下となれば王直属の精鋭であり、周囲の目も変わる。王が認めた直属の部下と共に出撃するのならば、騎士の尊厳も守られる。
「本当に、それが出来るんですか?」
「僕が王になる、という事が前提だけどね。
しかしなれたなら可能だ。どうだい?」
答えは、決まっていた。
「ええ、是非お受けさせてください。貴女に仕えさせてください。その死に方の方が、きっと美しい。」
「ですが。」
「貴女が王の器であるのか測りたい。私と、死合いませんか?」
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