11話 乱気流の切れ間から
1
「ああああああ――――――!!!!」
レイ達は悲鳴に反応し振り向いた。
「マルアード先輩の声だ!!」
尤も素早く反応したのがレイだった。レイが叫び、後方へ飛び出すのと同時にメリアスとツバキもそれに連れだって共に駆けていく。
「先に行く!!」
「お気をつけ下さい!!」
メリアスの声に手を挙げ返しながら振り向かずに飛び出す。
レイは氷魔法で足元を凍らせながら滑り、坂道を下っていく。
レイの並程度の魔力と体格では二人を背負って降りるなど出来はしない。単身一刻一秒でも早くマルアードの元へと駆け付ける。そうしようともメリアスが激励は送れど心配はしなかったのは、レイに対する信頼の証だ。
目視で見える程に近付いてやっと分かる。マルアードと何かが戦っている。
マルアードは腰に下げていたショートソードを抜き、軽装ながら革鎧を着込んでいるというのに、相手はろくに装備をしていない。しかし強い乱気流が周囲に発生して視界が悪く、それ以上はよく見えない。
「マルアード先輩!!」
レイはそこに割り込み、氷魔法で氷壁を作り出し真空の刃による攻撃を防ぐ。
マルアードを見ると、革鎧は真一文字に裂けている。胸からは出血し、顔にも眼球に達する程に深く傷が入っている。
今この瞬間まで、レイは何故“鎌鼬”を捜索するのか、頭で理解はしていてもぴんと来ていなかった。盗賊団から助け出したというのに。しかし、どれほどの明確な殺意があればこれほどの傷を初対面のマルアードを相手に負わせられるというのか。確かに、コイツはこのままにはしておく訳に行かないんだ。そう決意し、乱気流に包まれる敵を氷の壁ごしに強く睨み付ける。
「お前……!!」
乱気流の切れ目から、レイと“鎌鼬”の目が合った。
その瞬間、レイは目を見開いた。
「え?」
それは、その姿がおぞましかったからでもない。
恐ろしかった訳でもない。
知っていた。
レイは、その人物を知っていたのだ。
それはその人物もまた同じであった。レイと目が合った瞬間にその場から風に乗り飛び上がり、山の上へと逃げていった。
2
考えを振り切る。今はマルアードの容態が先決だ。
「レィ……がは、ナータ!」
血を吐きながらマルアードはレイに話しかけた。その血の量は口の中が切れている程度のものではない。恐らくは内臓か喉に損傷がある。
メリアスとツバキも合流する。多少医療の心得があるツバキが、即座に止血を試みる。
「お前に……頼むのは……癪だが……!!」
「アイツは危険だ、きけ、んすぎ、る!!頼む、アイツを、倒してく、れ!!野放しにすれば、何人殺されるか分からない!!」
マルアードがレイを認めないのは、騎士という物を重く見ているからだ。
大侵攻を止め、国を守り、民を助ける。
それを遂行するには強化魔法が必要不可欠であり、それには男社会であるのは正当性がある。女を虐げる者も居ないとは言えないが、マルアードは女を守る対象の内に入れているのだ。だから、そこを超えて出て来られると守れない。
今はその信条を超えてでも、あの“鎌鼬”は倒さねばならないと思ったのだ。
それを制止したのはメリアスだ。
「駄目です!貴方、このままだと死んじゃいますよ!それに、もう奴は飛んで逃げてしまいました。この悪路の中どこに行ったのかも分からないのに追えません。」
「追う手段、な、ら、ある。肩に、傷……!!」
そう言うマルアードが握っていた剣を見ると、剣先に僅かに血痕が残っている。
逃げた後に血痕が残っているなら、ツバキなら追う事が出来るだろう。
重体でも気力だけで繋いでいたのか、それだけを言い切ると意識を失った。
「……レイ、様。私は、人命を優先すべきだと思います。」
メリアスの言う事は一理ある。
マルアードが死んでいるならばまだしも、まだ生きているのだから助ける事を優先すべきだ。だが、レイは鎌鼬についてどうしても気になる事があった。マルアードの言葉も一理ある。
「だったらメリアス。マルアードを連れて下山して、第四砦跡に向かってくれ。僕はツバキに血痕を手繰って貰いながら“鎌鼬”を追う。」
「なっ……。」
メリアスが重傷のマルアードを抱えて下りるのはマルアードの身を考えれば最適な判断だ。だが、それでは追跡するツバキは居てもロクに戦える人員はレイ一人になってしまう。
「それは……レイ様!」
「大丈夫だ、メリアス。実は……。」
メリアスに、マルアードが朦朧とした意識の中聞こえていても耳に届かぬようにそっと耳打ちする。
「…………!!」
「分かりました。でしたら、レイ様にお任せします。」
言葉を訊いたメリアスは渋々、という風にそれを承諾する。レイはツバキと共に“鎌鼬”を追い、メリアスは重傷のマルアードを背負い下山していく。
血痕を手繰りながら移動する中、ツバキはレイに問う。
「ねえ、レイ様。さっきメリアスに何を言っていたの?」
「鎌鼬が誰なのかってこと。」
「!!」
「すぐに分かるよ。血痕をツバキが辿ってくれればね。」
裏山の頂上、“鎌鼬”はそれ以上逃げる事もなく待っていた。
その、人物とは――。
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