6話 剣闘従士

「フン。来たかレィナータ。随分と遅かったが。」


 ゲイルチュール伯と並んでいたロウェオンがレイを見て言う。

 ロウェオンが気難しい人間であるのはどうやら周知されているようで、その言葉にはどよめきが走る。内容ではなく、自ら話しかけている事についてだ。


「兄上の仰った通り、こちらへ参りました。

 それとも、最後に魔法を用いたのはよろしくなかったでしょうか?」


「魔法?……ああ、あの最後の氷か。

 知らん。三人全てを魔法を抜きで勝ち抜いた事実を俺は評価する。」


 あれほどの騒ぎになったというのに、ロウェオンはそれを意にも返さない。

 彼にとっては自身の期待に応え、武を以て返礼した事実こそを是とする。王族という資格を持ち、なんなら王に二番目に近い地位を持つ彼は政争も、慣例も伝承も風説もなんら意味を持たず、剣の腕こそを至上とするのだろう。


 ほんの僅かな間での関わり合いだが、レイはロウェオンをそう評価していた。

 気持ちの良い人物である反面、国を左右できる立場なのだから少しなり興味を持った方が良いのでは?とも思わずには居られないが、それはそれとして。


「ロウェオン様。貴方ならば分かるでしょう。騎士団に女は不適切ではありませんか。」


「マルアード。」


 先程の男子生徒・マルアードがロウェオンに掛け合う。バリガンとアルマスは咄嗟に声を挙げたげな表情をしているが、レイはその返答がどういうものなのか、既に分かっていた。


「一理ある事だ。弱者は必要ない。」


「だ、だったら!」


「ならば騎士として剣にて語るしかあるまい。」


「は、はい?あの?」


「異のある人間から順にレィナータと決闘でもすれば良いのだ。そして、負けた者は去る。これ以上に平等な答えはあるまい。」


「―――――っ。」


 マルアードは言葉に詰まっていた。

 ロウェオンが意味もなく妹の肩を持つような人情味あふれる男でないのは周知の事実なのだろう。それでも、実力以上に女を受け入れないのもまた当然であると思っていたようであったようだ。


 だが、マルアードは引き下がらない。ロウェオン相手に


「だ、だったら!剣闘従士では如何ですか。」


 剣闘従士。本来、大陸の中央で行われていた文化だ。

 自らの従者を剣闘士グラディエーターとして戦わせる。つまりは自らの果たし合いを自らの部下に代理させるのだ。

 それにはどうやらロウェオンの気を引いたらしい。

 ロウェオンは元より、屋敷にてレイのメイド達の実力に興味を持っていたのだ。


「ほう!面白い。レィナータ、やれるか?」


「分かりました。先輩方がそれで納得が行くというのなら喜んで。」


 ゲイルチュール伯は眉をぴくり、と動かした。

 その意味を分かっていたのだろう。その上で、


「顧問としても許可しましょう。ただし、授業外での学院内の私闘は本来禁じられています。私を立会人として置く事。いいですね?」


「分かりました。」


 ゲイルチュール伯のその言葉は一体どこまで真実なのだろう。

 きっと、彼には分かっているはずだ。レィナータという王女が出す従者とは、一体誰であるのかを。

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