7話 王宮の遣い
1
日を跨ぐと思っていたレイだったがロウェオン曰く、
「緊急の案件がある。こんなものは早々に終わらせてしまえ。」
という事らしく、そのままの足で決闘は行われる事となった。
なのでその足で、メリアスを寮まで戻り呼びに行く。
「私が……ですか?」
「うん。お願い。間違いなく、君が一番強いと思う。」
「待ってレイ様。メリアスちゃんは、魔法が使えないのよ。」
主の命令にも関わらずそれに制止をかけたのはサリーだ。
サリーの言う事には一理ある。決闘において、魔法を使わぬ訳がない。しかも前の模擬戦闘試験などと違い、相手は数多くの死線を超えた護衛であり、強化魔法は洗練されている。対しメリアスは首に着いた罪人の首輪により、魔力がをろくに練る事が出来ない。
強化魔法の教師であるテュルバンが言っていた通り、『強化魔法はその者の筋力に応じてその力を増す』。学生が使う強化魔法など比ではない効力があるのだ。
「心配しなくていいよ。メリアスは勝つから。」
「でも!」
食い下がらないサリーに対し、メリアスは優しく諭す。
「サリー。大丈夫だ。レイ様は、ただ私を指名してくれただけでない。ゲイルチュール伯に、私の武勇を見せる事の出来る機会を与えて下さっているのだ。」
「あっ……。」
そうだ。ゲイルチュール伯は、この決闘の立会人になると言った。
この決闘にメリアスが出るのなら、それは否応にも必ずその戦いぶりを見る事になる。
「サリー。行かせてあげようよ。」
「……分かり、ました。」
ツバキにまで諭され、危険性を承知の上で渋々と承諾した。
無理もない話だ。魔法使いでもある彼女は、強化魔法というものの効果の絶大さを理解している。
それを見てレイは改めて、メリアスに問いを投げかけた。
「メリアス。やれるよね?」
「はい。お任せ下さい。」
一切悩みなどない様子で。躊躇いなくメリアスはそう答えた。
2
そしてそれから1時間後。
学院騎士団の修練場にてレイとメリアス、そしてサリーとツバキが付き添いとしてやってくる。
対する相手の男子生徒、マルアード=フォン=ホーアル。従者は鎧に包まれた男だった。
「凄い体格だ。身長もメリアスより頭三つは大きいよ。」
「ちょっと待ってください、鎧なんてありなんですか!?」
マルアードの従者として連れてこられた男を見て声を荒げたのはサリーだ。胸当てをしているだけのメリアスに対して、その鎧は鋼鉄で出来たプレートアーマー。防御力など比べ物になるべくもない。
その疑問に答えたのはレイでもマルアードでもなく、立会人のゲイルチュール伯であった。
「ええ。
従者を用意するのは主の責。それには、従者の装備もまた含まれている。
革鎧しか用意していないのは、それは主の不備であります故。」
「なっ……!!」
その言葉にサリーはカチンと来たような様子を見せる。
当然だ。彼はメリアスの父であるというのに、なんだその態度はと思ったのだろう。同時にレイの事を侮辱するような文言でもあったのだ。
そんなサリーに、マルアードは得意気に畳みかける。
「そうだ。従者を用意できるか、自体がこの競技の肝だ。」
「この僕は一時間で父の部下である王宮騎士を呼び寄せた。ルールで禁止とはされていない。」
「はっ!?」
続けてサリーは憤りを見せる。
王宮騎士団とは、この国における最大戦力である。学生のいざこざに駆りだすようなレベルの人間ではない。即ち、魔物に対して抗ずる事のできる人間を連れて来たのだから。
サリーを意にも返さず、マルアードはつらつらと言葉を並べ立てる。
「卑怯ではないだろう?辺境の英雄、烈氷の剣姫様。」
「ああ。別に構わないですよ。
あと、ひとつ。僕が勝っても先輩を排斥するつもりは一切ありませんので。」
「ふん。」
「魔物を倒したって言うけど、3人とも特別強そうには見えねえなあ。」
その様子を眺めていたバリガンが言った。アルマスは訝し気に見ている。
「バリガン。この試合、見逃すなよ。」
従者である二人が開始位置に着く。
ゲイルチュール伯は立会人として、声をかける。
ルールは模擬戦闘試験と同じ。二本先取制だ。
「では、両者並んで――。」
メリアスは木の剣を、王宮騎士は鉄の剣と鉄の盾を持ちその場に並ぶ。
「試合、開始!!」
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