5話 学院騎士団

 1


 初日の授業を終えての放課後。

 この学院においてはクラブ活動が認められている。魔法研究部、料理部、吹奏楽部など様々な部活動が並ぶ。レイの目的であった学院騎士団も、要はただの剣術クラブだ。

 レイ、バリガン、アルマスの3人は入学したばかりでどこか浮足立っている一回生の群れから外れ、学院騎士団の部室へと向かっていた。


「へえ、バリガンも騎士団に入るんだ。」


「当然だろ!なんたって、俺の師匠様が此処に居るんだからよ!元気してるかなあ!」

「……まあ、アルマスが入ろうと思うのはちょっと意外だったけどよ。」


 レイとバリガンに続き、アルマスもまた学院騎士団に加入を希望していた。


「俺は嫡子ではない。三男だ。兄様達はいたく優秀で、俺が家を継ぐ事はないだろうし、それでいいと思っている。自分の為にも、家の力になる為にも今は、少しでも力を磨いておきたい。

 お前達に比べれば不純な動機だが……。」


 そうだ。家を継げず、もしくは分家とならない場合もある。そういう場合でもこの国では戦の為に牙を研げば食うのに困る事はない。大侵攻に備えるのは勿論、大侵攻以外でも小規模な魔物との衝突はあるし、魔物たちを止める前線に敷かれた1700年前に築かれた砦には多くの騎士を駆り出すのだ。


「いやいや!将来の事まで考えてって、凄く良いと思う!」


「そうか。そう言ってくれると有難い。」


 そう言った後に、アルマスは少し遠くを見るような目をするのをレイはふと不思議に思う。だが、まだ今はその意味に気付く事は無かった。




 2


 学院騎士団。

 ハーヴァマール王立学院に設置された部活動の一つだが、実質的な王宮騎士団の前身を担っている。此処に所属している人間は、そのまま王宮騎士団にスライドして加入する事も多いらしい。その為、プライドが高い人間が多く所属するのは必然的な事であり、


「はあ?女が入りたいだと?認める訳がないだろう!」


 と、言い出す人間が一人は居るのも仕方のない事であった。

 一人どころではない。騎士団の内訳のうち、半数はそのまま傍観し、半数が拒絶の雰囲気を漂わせている。



(おい、どうすんだレィナータ!思った以上に歓迎されてねえぞ!)


 バリガンが焦った様子でレイに耳打ちする。

 しかしレイは寧ろ逆に、半数からは受け入れられている事が意外だった。

 模擬戦闘試験にて実力を見せた意味合いはどうやら想定以上に効果的であったようだ。内心、そう提案してくれた兄に感謝する。自分が王と成る為に認められるのはいずれ避けては通れぬ道なのだ。


 また同時にレイはその様子を不思議にも思う。

 同じ騎士という立場に立とうとしている女に対し、脅し付ける様子が一切見られないのだ。彼らが高潔な騎士だからか、と一度思い至ったがすぐにそれを取り消す。この表情には見覚えがあった。


(そうだ。あの時の、アンテノルの表情と同じじゃないか。)


 彼らの根底にあるのは怯えだ。自分達を上回るかもしれない、『年下』の『女』なのだ。負けられない、負ける訳にはいかない対象がすぐそこにあるのはなんとも居心地の悪い事だろう。

 思えば、これはメリアスが追放された時も同じように感じていたのかもしれない。だからこそ、その思惑通りには進ませるつもりはない。

 胸を張る。ひるむ事なくはっきりと答える。


「しかし先輩方。女が騎士団に入ってはいけない、などという規則は無いのではないでしょうか。法律は勿論、校則にもありません。これは推測なのですが、この騎士団内の規律においても存在しないのでは?」


「う……。」


 代表として前に出て来た男子生徒は言葉に詰まる。

 歓迎をしない雰囲気を、或いは慣例を押し付ければ退くと思っていたのだろう。


 これまでに重ねた功績もそれを後押しした。ただのビッグマウスではない、これまで辺境での活躍を経て入学試験の結果、烈氷の剣姫と呼ばれているまでになった。

 魔法すら使わず戦い、そして魔法をも使いこなしているというのは戦いぶりとしては十二分だ。それだけの周知を既に得ているのは、半数弱が様子を見ている事から理解した。


「何事かね。」


 その場を割ったのは、学院騎士団顧問。ゲイルチュール伯。

 その横にはロウェオン=フォン=カルラシードが立っていた。

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