4話 あの魔法
「当然よ。私が認めた魔法使いですもの!」
「あ、あはは……そうかな……。」
シーニャ=クルスが的に当てた事に驚いているレイを余所に、ラミュマはさも当然という風に答えた。どうやら、ラミュマはシーニャを高く買っているらしい。
庶民は名字を持たない。彼女、クルスという名も村の名前だ。そもそも庶民が名字を必要とする事がない為、入学に当たって名字を仮名としてクルスとしている。貴族とは名からしてそもそも身分が大きく違うのだ。
にも拘わらずラミュマは分け隔てなく、どころか一人の友としてシーニャを見ている。これは中々に凄まじい事だ。学院生活を経て雪解けするように親睦を深める場合こそあれど、この入学初日からそう接する事の出来る人間はそうは居ないだろう。
「と・こ・ろ・で!」
ラミュマの価値観とシーニャの腕前に感心していたレイに、ラミュマがずずいと近付いて来る。
「貴女、魔法が使えないから模擬戦闘試験に逃げたと思っていましたが中々ではないではありませんこと。」
どうやら有難い事にレイもお眼鏡に敵ったようだ。
「まあ、それなりには。」
「その青髪である以上は、この程度はやってくれませんと。」
「髪?」
ラミュマがレイの銀髪に混じる青髪を指すのを、不思議そうにシーニャは見ている。
「シーニャもすぐに分かりますわ。貴女には素質がありますもの。」
3人で話していると、アウロラが話しかけてくる。
「貴女達には簡単すぎましたか。
では、自習とします。折角氷魔法に土魔法の使い手が揃っているのですから、彫刻でも作っているのはどうです?シーニャさんにとっては見ているだけでも参考になります。」
それだけを言うとアウロラはまた皆の方に戻ってしまった。
まるでこれだけなら生徒に献身的な先生にも見えるが、そのニヤついた顔が放っておけば面白い事をするだろう、という期待に満ちていた。
3
氷の彫刻を作る。
遊び心に見えて、氷塊をぶつけたりするでなく緻密な操作を求められる。そして、この晴れた日に氷魔法を維持するのは非常に困難だ。魔法を解除すれば氷は数秒と経てばじわじわと熔けていってしまう。
「むう……。」
氷とにらめっこするレイに比べ、ラミュマは好調であるようだった。
ざくざくと土くれを人型にしたり、ミニチュアの馬のような形に切り出したり。土魔法なら晴天ですら関係ないという事を差し引いても、純粋に彼女の卓越した技術に依るものだ。
「あらあらレィナータ。情けないですわね。」
「晴空が……とは、言い訳出来ないな。温度関係なく、たぶん君ほど上手くは作れない。」
「おほほ、よく分かっておりますわね。それとも謙遜のおつもりで?」
「いや、素直な感想だ。これほどまでの緻密な造形は僕には出来ない。この馬などとても可愛らしい。」
レイはそう言うと、ラミュマの生成したミニチュアの馬人形をひょいとつまみ上げた。
魔法で生成したものなのに、見てくれだけでなくきちんと土がこの形に形成されているのだ。魔力を維持している間はどんな魔法でも消えないが、それが失せると油の無くなった明かりのように瞬く間に消えてしまうのが魔法というものである。
だがラミュマの土人形は、今現在は魔力を込めていないというのに土くれとしてぼろぼろと崩れていくことなく、その形を維持している。
魔力のみでない維持の難度は非常に高い。その材質を理解せねばならない。魔力のみに依らず、その土を凝固させ、乾かせ、土を粘土のように固める事に成功しているのだ。
この技術は高難度であるが、使いどころはある。サリーがかつて壁猪を相手していても炎で怯ませられたのは魔力を極端に減らす事で軽減をさせない離れ業を行ったというのもある。未成熟な幼体かつそれでも尚、ダメージは跳ね飛ばす程度に軽減してしまうのだから恐ろしいことこの上ない。
レイが感心していることに気分を良くしたラミュマはふふん、と鼻を鳴らしレイの持っているミニチュアの馬に手を添え、その瞬間に瞳と髪のメッシュが金色に輝く。
すると、馬がなんと動き始める。
「魔力を再び込めたのか。いや……。」
違う。これから、魔力を感じられない。
「ひとりでに、動いている……?」
「ええ。これが私の至った芸術ですわ!可愛らしいでしょう?」
レイがそれにほほうと眺めていると、隣でシーニャが目を輝かせて見つめている。
「ラミュマさん!こんな魔法があるんですか!?」
「シーニャは見どころがありますわね、では続けてお見せしましょう!」
ラミュマは良い気になったのか次々と土人形を作っては動かしていく。シーニャはそれに、ぱちぱちと手を叩きながら感嘆していると授業の終わりを告げる鐘が鳴る。強化魔法の側は筋力強化の上で大岩を動かす事を強いられ、出来なかった者はひたすら腕立て伏せをやらされていた。こちらに来て良かったかもしれない。
授業終わり、ラミュマに話しかけられる。『あの魔法』をあれほど使ったというのに、肩で息をする程度で済んでいるのは流石アーグリード家であると言えるだろう。
「シーニャは私と共に魔法研究会に入りますわ。私が一番なのは勿論のこと、シーニャと貴女も中々見る目がありましてよ?」
「ああいや、僕は学院騎士団に入るから。」
「はああ!?」
その言葉に対する反応は、ラミュマが声を始めて荒げた瞬間だった。
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