8話 第二試合
1
「次戦!西方、レィナータ=フォン=カルラシード。
東方、バリガン=シグジル。
前へ!」
「まさか俺達が戦う機会が来るたぁなあ!」
先程、レイへの目を一蹴したバリガンが二戦目の相手であった。
バリガンも同じく、一試合目を勝ち抜いてきたらしい。
「バリガン。君と戦えるなんて光栄だよ。しかし……。」
レイの視線はバリガンの武器に向かう。
馬上槍。馬の上に跨る事を前提とした巨大な槍。蜂の毒針のような形状をし、バリガンの身長よりもさらに長い大槍だ。
それを二つ両手に握っている。
「そりゃまあ、これが一番デカかったからな!
デカい方が強いに決まってる!
『両手に武器、それこそ最強』。俺の師匠も言ってたぜ?」
「は、はあ……。」
馬鹿げた理論だが、それを馬鹿だと切り捨てる事は出来ない。
確かに彼ほどの恵まれた体格があるのなら、武器は大きければ大きいほどにそのリーチは広いし重量もあるというには一理ある。レイピアのような武器では逆に小さすぎるだろうし、本来行軍や戦線であれば必要な武器の輸送の手間もこの舞台での試合には関係が無いだろう。レイは体格こそ悪くなくとも、あくまでも女子であるし、良く見積もっても中の上程度の体格しかない。レイには採れない戦法であった。
ただ文句があるとすれば、その知能指数が著しく低い師匠の言には流石に文句を言いたいというぐらいか。
「なんて師匠だよ。顔を見てやりたい。」
「?」
不思議そうな顔のバリガンに呆れ気味に返すレイ。
のほほんとした雰囲気だが、戦いの火蓋は間もなく切られる。
「では両者見合って。
試合、開始!!」
思案もそこそこに、審判が始まりを告げる。
まず襲い掛かったのは左の馬上槍であった。
「とぅあっ!!」
石畳に叩き付けると、石畳はめきめきと音を立てて割れた。その一撃を見てぞっとした。槍の突くという本懐を一切成していない一撃が、こんな絶大な威力を持っているのだ。
力任せの考え無しな一撃に見えるが、そうでは決してない。ただの腕力だけでこれほどの破壊力を持つはずがない。
「まさか、筋力強化か……!!」
「当たりぃ!」
強化魔法で筋力を強化している。それも、その強化による赤い光が見えぬほど、一瞬だけ爆発的な効力を発揮させる事で魔力消費を最小に抑えているのだ。
魔法を使うまではバリガン自身の腕力であるというのに、馬上槍二本を構えても身体の揺らぎは一切ない。馬鹿の一つ覚えによる技法などでは決してない。
強化魔法の瞬発的な使用、両手に特大武器を持って尚揺るがない体幹。
恐らくこれは、“特大の武器を二つ振るように訓練されている”。
こんな出鱈目な戦法は聞いた事が無い。恐らくは、彼の師はバリガンの体格に合わせた指導を行ったのだろう。それを見抜く観察眼、指導力、共に訳が分からない。
「ああ、なんて師匠だよ……!!さっきとは逆の意味で、顔を見てやりたい!!」
思わず焦って後ろ飛びで距離を取る。
想像以上の難敵である事をあの一槍で感じ取った。
2
レイは、攻めあぐねていた。
大振りな武器とは思えない程に隙が見当たらないのだ。
本来はスタミナ切れを狙う所だろう。だが、このバリガンという男は天性の体格からかそうそうに尽きる生半可な体力はしていないようだ。そこで狙いたいのは魔力を尽きさせ突破口を見出す策であるが、瞬発的にのみ強化魔法を行使する為に消耗は大きく抑えられ、それも難しいだろう。
こちらの素早さを活かして翻弄する事も、あの腕の長さと馬上槍の大きさからあまりにリーチが広すぎる。懐に入ればそれこそあちらの思い通りだ。
(どう……するか。)
レイはバリガンに対して千日手、完全に攻撃を仕掛ける事が出来ないでいた。
観客は退屈し、苛つき始める。そこに一瞬気を取られた。
「っ!!!」
次の瞬間。馬上槍がなんと飛来する!
バリガンはその距離を埋める為、両手に構えている内の右手の槍を投擲・投げつけたのだ。筋力強化の上で投げられたその槍は物凄い勢いを保ったままレイの元へと飛び込んでくる!
武器が手から離れれば一本取られた有効試合とされるが、二本持っているならその限りではない。ましてや槍は投擲もまた戦術とされるもの。
「あっぶ、な!!」
それをすんでの所で躱す。しかしながら、飛来した馬上槍にばかり意識を向けていた為に接近してきたバリガンに気付くのに一歩遅れてしまう。
「取った!!」
「……っ!!」
バリガンは馬上槍を横に薙ぐ。回避が間に合わないと踏んでレイピアを構える。
馬上槍の重さと瞬発的な筋力強化を併用した一撃を直接受けたレイピアは刀身が砕け、レイはそのまま壁面まで吹き飛ばされる。
砕けたレイピアだけがその場に残され、壁面に突撃したレイの元には土埃が舞い散っている。ツバキが急いで、最前列に押し寄せてくるのが横目で見えた。
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