5話 異変

 1


 三ヵ月が経った頃、カルラシード家別邸では主であるオルトゥヌス=フォン=カルラシード。つまりこの家の主人、カルラシード伯が従者と話していた。

 レィナータの父にあたる人物であり、王侯貴族筆頭格でもあった。


「首尾は上々か。」


「はっ。」


「あれに仕込んだ毒薬は消えよう。そろそろ、死せど身体から毒物は検出されぬ頃合いよ。」

「謀りで死ぬにはあまりに高い身分よ、我ながら。」

「だが、レィナータの能力も、レィナータの身分も、全て厄介であるのだ。分かるな?」


「はっ。」


「殺せ。」

「魔物を放て。」

「おおよそ人が扱いきれぬ存在よ。人の手なぞ誰が思おうか。」

「ウズの村には衛兵もおらん。あの屋敷には私兵もおらん。」

「村ごと食い殺してくれよう。」




 2


 その夜のウズの村は盛況だった。

 一月に一度、恒例となりつつあったサリーの手料理を振る舞われる日であったのだ。

 その実としては、カルラシード家より遣わされる食材があまりに多いから村人に振る舞う、というものだった。カルラシード家としては、食物が少ないなど王侯貴族の恥であるからだ。

 王都でも名を馳せる料理人が、王都から来た豪華な食材で料理をするのだから村人にとっては本来死ぬまで食えぬような食事だろう。

 浮かれた笑い声が夜遅くまで響き渡っていた。


「ねーねーレィナータさまー!おにごっこだよおにごっこ!」


「あはは、良いよ。じゃあ私が鬼だ!」


「わー!」


 レィナータの体調がここの所すこぶる良く、死ぬどころかめきめきと回復に繋がっている事実にメイドの三人は驚愕の色を隠せなかった。


「見て。レィナータ様、鬼ごっこしてるよ。私も混ざろうかな。」


「あらあら、微笑ましいわねえ。」

「ああしていると、まるで十歳の少女のよう。」


「まるで、じゃなくて十歳だよ。」


 ツバキとサリーは微笑ましくそれを見守っていた。

 一方で、メリアスは檄を飛ばす。


「我らレィナータ様にお仕えする者がそのような腑抜けた態度でどうする!」

「レィナータ様は我らの主人であるぞ!」


「メリアス。なんか元気になった。」


「あらあら、どうしてかしらね~。」


 メリアスは、あれから木剣を腰に差すようになった。

 正当な騎士ではなくとも、『ままごと』の騎士である。


 そうして宴は終わり、皆帰路に着く。

 それはレィナータ達も例外でなく、郊外の屋敷へと帰っていく。


 不穏の足音はすぐ傍まで近寄り、安寧の喉元で舌なめずりをしていた。

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