3話 レィナータとツバキ
ウズの村にやってきて、一ヵ月が経った。
村人が興したという宴では手厚く歓迎されたし、サリーの作った料理には村人皆で舌鼓を打った。
とはいえ、自治を任せている以上、この家でする事は無い。
本来礼儀作法や初歩的な魔法の基礎を勉強するものだが、もうすぐ死ぬであろうレィナータには必要のない事であり、自ら書庫に籠って本を読む以外には彼女には特段趣味も無かった。
「レィナータ様。外、行かない?」
ある日、ツバキはそう言ってレィナータを連れ出した。
ウズの村のすぐ近くの草原。小川がせせらぐ、一面の花畑。
まるで御伽噺のような光景に、レィナータは思わず歓喜の声を漏らす。
「わあ……!!」
「ふふ。
「わっ、童だもの、私。」
照れくさそうにツバキからの指摘を一蹴する。
それは先日の貴族然とした態度ではない、年相応の少女の顔がそこにはあった。
「レィナータ様。身体、だいじょうぶ?」
「ええ、ありがとう。」
「この自然のお陰かしら。身体がずっと楽なの。」
そう言って、身体をぐぐっと伸ばす。
王都に居た頃には考えられないだろう。青空の下、何にも縛られずにただゆっくりと過ごしているなど。
「お父様は、もしかして私を最期にこうしてゆっくり過ごさせてくれるためにこちらへ寄越したのかもしれないわね。」
あまりにも晴れやかな気分からそう漏らす。
貴族であるサリーやメリアスであれば否定しただろうが、ツバキは違った。
「そう。きっと、そう。」
「だって、これほど素晴らしい場所は中々ない。」
「何もないけれど、食べ物が豊かだし、環境は安定してて、村には小さいけれどお店や薬師まで揃ってる、何より平和。」
「とても、素敵。」
そう言うツバキを見て、レィナータはえへへと笑う。
「本当は、少し心細かったけれど、貴女達で良かった。」
「サリーは優しいし、ツバキはまるで姉のよう。いや、姉って言っても姉上みたいって訳じゃなくてね。」
「普通の家に生まれて、普通のお姉ちゃんが居ればこんな感じかなって。」
「お嬢様。」
「メリアスには、ちょっと悪い事したかなって思ってる。でも、私はメリアスも好き!かっこいいもん!」
「そう、だね。」
レィナータは十歳らしいニコニコとした顔をして三人のメイドを褒める。
ツバキにとってはそれが誇らしいし、くすぐったかった。
ツバキは片手間に、花で冠を作り上げ、それをレィナータの頭に載せた。
「わ、かわいいねそれ!」
「ふふ。まるで、王女様。」
「王女かあ……。私には遠いけど、ツバキからくれた王冠はもっと嬉しい!」
故郷を捨てて流れ着いた王国で、妹のように愛くるしいレィナータに仕えられている。元来貴族の身分であった、夢破れた二人には少し悪いけれど、ツバキはそれがとても充実して、楽しい日々だった。
「ずぅっと、お守りします。レィナータ様。」
そうゆっくりと呟いた。
いつもぶっきらぼうに話すツバキが、感情を載せて話したのを聞いたレィナータは少し驚いて、その後に嬉しそうに答える。
「ありがとっ、もう少しだけよろしくね。」
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