第3話 風俗嬢と板倉
板倉が、ゆかりの、
「呪縛」
から、何とか逃れられるまでに、もう一年を費やした。
「もし、彼女の死がなかったら、もう少し早くm、呪縛から逃れられただろう」
という思いと、
「いや、そもそも、呪縛などなかったが、死があったことで、復旧にまで、半年以上が掛かったということは、自分でも、
「無理もないことではあるが、ただ、仕方がないという言葉で、片付けてもいいものだろうか?」
ということを考えたのだ。
板倉が、約三年間、彼女がいなかったというのは、少なくとも、ゆかりとの別れが尾を引いているといってもいいだろう。
しかし、
「板倉にとって、この三年間が長かったのか?」
と聞かれると、
「実際のところ、自分でもよく分からない」
ということだろう。
この三年間は、
「なるべく波風が立たないような期間にしたいものだ」
と考えていたが、それは間違いなかった。
板倉にとって、この時に起こった、
「センセーショナルな出来事」
というのは、彼女ができたということだった。
「あれだけ、ゆかりへの思いが残っていたのに」
と思ったが、何かの変化があれば、気持ちも、そして、過ごしてきた時間も、百八十度変わってしまうというのも無理もないことだったのだ。
「ゆかりへの思いが残っていた」
というよりも、
「思いではなく、呪縛と言い換えられないだろうか?」
とも、いえるのだったが、新しい彼女ができたことで、こんなにも、これまで少してきた、あれだけ長かったと思っていたあの期間、まさか、
「あんなにも近く感じられるなんて」
という思いが大きかったのだ。
そんなことを考えていると、
「俺の時間の感覚というのは、意外と他人から左右されることが大きいんだ」
と感じた。
しかも、そのほとんどが女性によるものだ。
そもそも、
「男の自分に時間を左右されてたまるものか?」
という思いが大きかった。
親友とは、今は連絡を取っていない。
少なくとも、ゆかりが死んだことを、すぐに教えてくれなかったのだ。
結果がよかったのか悪かったのか、この際関係ない。自分に教えなかったというのは、明らかに、親友としての権利を放棄したと思えてならなかったのだ。
そんな中において、新しい彼女ができたのは、誰かのおかげでもなく、しいていえば、
「相手が好きになってくれたのだ」
ということで、
「俺自身の手柄」
と言ってもいいだろう。
相手が好きになってくれたことを、自分の手柄にするというのは、どういうものかと思うが、
「それも、自分の日ごろの心掛けがよかったからかも知れない」
と真剣に感じた。
少なからず、ゆかりとのことがあったからだというのは、大げさなことではないだろう。
自分をいかに見つめていくか?
ということが、結果としていい方に結びついたのだろう。
以前に、会社に入った時の同期と、話をした時、急に怒られたことがあった。
その人は、どちらかというと、フェミニストのようで、板倉も、自分では、
「フェミニスト」
と思っていた。
ただ、その二人の間に、何か勘違いとなるようなものがあるようで、話をしている時、しばしば、女性の話題になった時、同期の人間が、急に怒り出すことがあるのだった。
「だったら、女性の話題をしなければいいじゃないか?」
と言われるのだろうが、二人の間に、共通の話題があるわけではなく、そのため、気がつけば、
「女の子の話」
になっているのだった。
それが悪いというわけではないのだが、どうも、友達には、
「キラーワード」
があるのだという。
どこに触れればまずいのか、今のところ分かるわけではない。それを思うと、
「本当は、友達の縁を切りたいんだけどな」
という思いに駆られてしまった。
だが、縁を切れないのには、
「やつには、女の子への大きなパイプがあるようだ」
ということで、彼といると、女の子と知り合える機会が増えるということだった。
以前に連れていってもらったスナックで知り合った女の子がいた。
同僚の知り合いの女の子だということであったが、その子と一緒に来ていた子が、気になったのだった。
見た目は派手そうな女の子で、服もミニスカワンピースが似合う、
「スタイル抜群」
の女の子だった。
今まであれば、そういう派手めの子は苦手だった。
というのも、板倉には、コンプレックスがあり、
「商売女性のような相手だと、バカにされてしまう」
という意識があったのだ。
一番の原因が、風俗だった。
板倉は、最初の相手は、風俗で、
「筆おろし」
をしてもらった。
今の若い連中であれば、珍しくもないことで、それだけ、
「草食系男子」
が増えているということだろう。
特に、
「女性にバカにされたりすれば、そのままEDになってしまい、自分に自信を失くしてしまうということが、往々にして起こってしまうだろう。
さらに、風俗というものに、偏見を持っている人もいるかも知れない。
「お互いの癒しになればいい」
と思えばいいのだろうが、なかなか近寄りがたいものがある。
特に一人で行くとなると、度胸もいる。ただ、今はネットやスマホで、女の子を事前にチェックすることもできて、お店も、事前にチェックすることもできる。
昔はそれができなかったので、コンビニで、風俗雑誌を買うか、風俗街にある、
「無料案内所」
に聞くか、
「うろついていると、キャッチに引っかかるか」
のどれかであろう、
さすがにキャッチは、最悪でしかない。言葉巧みに、提携しているお店に誘い込み、
「フリー要因:
の女の子にくっつけることで、女の子にも、店にも売上として面目が立つというものである。
たいていの場合、
「本当はもっと高いんだけど、端数はいらない」
などと言って、誘い込んだりする。
まず、間違いなく、
「後悔することになる」
と言ってもいいだろう。
一度、キャッチに引っかかって、
「ひどい目にあった」
という話を聴いたことがあった。
「せめて、無料案内所がいい」
ということだったので、その日は、本当は、
「風俗街に立ち寄るつもりではなかった」
のであるが、ちょうど知り合いとの待ち合わせで、相手が急に用事ができたということで、時間が空いてしまった。
もう、繁華街まで出てきていたので、一人寂しく、
「どこかで、飲んで帰るかな?」
と思っていたところ、ちょうど正面にある。風俗街が目に付いたのだ。
もちろん、そこが性風俗街だということは分かっていた。
ネオンサインの煌びやかさに、惹かれるように気が付けば、怪しい界隈に入り込んでいた。
最近では、昔のような、
「客引き」
はいないという。
ただ、少しはいるようで、もちろん、しつこく付きまとうなどということはなく、店の入り口の前で、
「にいちゃん。これからかい?」
などと言って声を掛けるくらいであった。
昔なら、黒服のような人がいて、ほぼ強引に近い形で、気の弱い人だと、負けてしまうような感じだったが、今は、そんなことをすれば、一発で検挙になると分かっているのか、本当に店の前から声を掛けて程度であった。
キャバクラや、昔のポン引きなどであれば、
「可愛い子を表に立たせておいて、客が中に入ると、まったく違う、年齢も相応な女性が出てきて、サービスの欠片もないようなひどいところもあったという」
いわゆる。
「ピンサロ」
などというところの悪質なところは、
「ポッキリ、三千円」
と言って引き込んでおいて、すべてがオプション、
「ビール一本五千円」
などという法外な値段で客を吊るのだ。
今はそんな悪徳な店があるのかどうかも分からないが、そんな店に引っかかるくらいなら、最初からキチンと値段が決まったシステムの店に行く方がどれだけいいことか、
「特殊浴場と呼ばれる性風俗は、風俗営業法に守られた、市民権を持った商売だ」
だということなので、今はまだあるのかどうか分からないが、昔は、
「ぼったくり」
と言われる、
「悪徳性風俗の店」
には、近寄りたくないというものだ。
そういう意味で、そんな店に引っかからないようにするために、
「無料案内所」
なるものが、風俗街の至るところにあったりするのである。
そういう店であれば、案内所の人が、
「どういうお店?」
「予算は?」
「時間がどれくらい?」
と、必要事項を聴いてくれるので、それに合わせて、話をするので、てっとり早い。
しかも、パネルらしきものもあるので、そこで女の子の写真を見て決めることも
できる。
さらには、案内所特典としての、割引もついていたりするので、初心者で、一人で理揺するような人には、おすすめだったりするかも知れない。
さらに、案内所の人は、女の子や店のスタッフなどと仲がよかったりするので、案内所から来ると、それが話題になったりして、緊張がほぐれていいかも知れない。
女の子にとっても、客にとっても、案内所は、意外とありがたいものだったりする。
特に、飲み歩いて、朝を迎えて人、数名の団体など、早朝を狙ってくる人もいるので、コンビニ以外はどこも開いていない状態での、案内所は、有難かったりする。
ただ中には、早朝はやっていない案内所もあるので、注意が必要だったりする。
店舗型の特殊浴場というのは、風俗営業法で、
「営業時間が制限されている」
のであった。
同じ性風俗の中にある、
「デリヘル」
などという業種は、
「24時間受付」
というところもあるので、
「性風俗のお店は、24時間大丈夫なんだ」
と思っている人もいるかも知れないが、
「24時間大丈夫なのは、店舗を構えていない、デリバリーのようなお店」
だけであった。
だから、店舗を構えている、
「箱系」
のお店は、風営法で営業できる時間が決まっている。
その時間というのが、
「深夜時間帯以外」
ということになる。
では、
「深夜時間帯というと、いつになるのか?」
というと、法律では、午前0時から、午前6時までのことをいうのだという。
だから、店舗型のお店は、
「午前6時から、午後23時59分まで」
が、営業時間ということになるのだ。
店舗は、その決められた時間内であれば、基本的に営業してもいいことになっている。
ただ、朝の9時くらいまでは、いわゆる、
「早朝時間」
と言われ、
「短い時間で、割引が利く」
というのである。
早朝の客というと、
「前の日から数人で飲み歩いて、早朝サービスを受けよう」
という、団体客。
あるいは、
「仕事に行く前に、軽く気分転換」
という客。
「夜勤明けの客」
などが多いだろう。
彼らは、ゆっくりとした時間というよりも、短い時間で、癒しを求めるという人が多いだろうから、
「サービスよりも、短い時間での割引を狙って」
ということが目的だったりする。
だから、早朝は、格安店、大衆店が多い。
何も、高級店がそのようなサービスをする必要はないのだ。
逆に、高級店のように、
「サービス第一」
ということで、それに見合う金額を貰っているのだから、早朝サービスのようなことをすると、店の品格が落ちてしまい、せっかく、
「高級店で遊ぶのがトレンドだ」
と思っている人に対して、失礼だというものだ。
「高級店は高級店らしく、サービスというのは、値段に似合ったものを、キャストが提供するもの」
という路線なのである。
その日、確かに、板倉は、
「最初から決めていた」
というわけではなかったが、予定がなくなったことで、時間を持て余し、時間的にも十分であり、お金も、ボーナスが出たばかりで、気分的にも余裕があった。
十分に、高級店を利用できるだけの、体制は整っていたのだ。
しかも、
「最初は、やっぱり高級店だな」
と思っていたこともあって、その日は、来店には実にいいタイミングだったといってもいいだろう。
ネオンサインに惹かれるように、風俗街に入っていった。
基本的に、風俗街でも、
「特殊浴場」
と呼ばれるところは、都道府県の条例によって、決まっている。
だから、特に、性風俗と呼ばれるところが店を構えることができるところは、条例で決められている。それ以外のところでの営業はできないのだ。
というよりも、
「新規開拓ということで、新しく開業することができない」
ということが、風営法で決まっているので、どのみち、他の地区で開業するということ自体が無理なのであった。
しかも、店も、大規模な改修はできない。基本的には前の店を建て替えるなどもってのほかで、前の店を基礎にして、内装をコンセプトによって変えることくらいはできるが、大規模な改造工事のようなものはできないと決まっていた。
今の風俗街は、
「何かのコンセプトで差別化しないとやっていけない」
と言えるだろう。
「コスチュームに特化した店」
「シチュエーションに特化した店」
などというものが、主流になってくる。
また、地域によって、特化する部分があるということもあり、
さらに、コスチュームの充実もあったりするのだ。
そんな店の中で、板倉が考えていたのは、
「老舗」
と言われるような高級店だったのだ。
ただ、それも、無料案内所において、女の子のパネルと、案内所の人の話を聴いて決めようと思っていた。
店の方も、
「利用するかどうか迷っている」
という人よりも、
「利用は決まっているが、店の選択が分からない」
と思っている人の方が、案内しようがあるというものではないだろうか?
特に、話も早いだろうし、条件も最初から決まっているのだから、話は早いだろう。
風俗街を入って少し行ったところにある案内所に入ってみたが、そこで聞いてみることにした。
案内所の人は、さすが毎日、風俗を利用しようとする男性を見てきたのだから、雰囲気だけで、何を求めているかということが分かっていたりするのだろう。
「この店にしよう」
と、すぐに決まった。
老舗として、以前から名前は知っていたというのと、案内所の人が聞いてくれた好みの女の子と、ちょうどパネル写真で一致し。その子がちょうど空いているということだったので、ちょうどよかったのだ。
その時、案内所から店に直接連絡が行き、その情報に間違いないということだったので、
「交渉成立」
ということで、
「今から、店のスタッフが迎えに来るということなので、少々お待ちください」
と言っていると、その喉の乾かぬうちに、
「こちらのお客さんです」
と、案内所の人が、店のスタッフらしき人に挨拶をした。
そのスタッフは、燕尾服を来ていて、まるで、バーテンダーのような雰囲気があった。
「こんなにきちっとしているんだ」
と少しビックリするくらいに、正装として、パリッとしていた。
「こちらにどうぞ」
と言って、スタッフの後についていくと、他の店の前にいる人はこちらを見ても、当然のことながら、何も声を掛けてこない。
「これだけの人が声を掛けてきたら、結構緊張するだろうな」
というほどであった。
執拗な勧誘はないとはいえ、やはり声を掛けられて、断るというのは、気を遣うというものだ。
店は、大きなビルの三階にあった。エレベーターで向かったが、隣にも同じような店があり、そこも聞いたことがあるような名前の店だった。
店に入ると、まず、受付が行われ、待合室に通された。
ソファーもフカフカで、まるで、大きな会社の応接室のような感じだった。
「何かお飲み物は?」
と言われ、よく見ると、テーブルの上にメニューが置かれていた、どうやら、ドリンクサービスのようだった、
「さすが高級店」
と思ったが、それくらい当たり前といってもいい。
さすがに、受動喫煙禁止法が施行されたので、室内の喫煙は禁止なのが嬉しかったが、昔であれば、テーブルの上に、シュガレットケースがあり、高級タバコや、葉巻が置かれていたのではないかと思うのだ。
待合室には、誰もいなかった。結構暗めであったが、その調度の感じからいくと、
「昔は、バーカスナックだったんだろうな?」
と思うようなところだった。
さすがに酒は飲むわけにはいかないので、コーヒーを頂くことにした、
緊張が残っているので、コーヒーはちょうどよかったのだ。
待合室では、スマホをいじっていると、時間的にはちょうどよかった。
今頃、スマホに誰かから連絡がくるはずもなく、ネット検索をするくらいだったが、昔のように、マンガやテレビを見ているような待合室に比べると、時間的には、そんなに待ち遠しくて、苦痛なくらいになることはなかった。
「番号札は、3番だった」
しかし、他に誰も客もいないのに。3番というのは?
と思ったが、
ひょっとすると、時間帯で区切っていて。ちょうど自分が三人目で、前の客はちょうど自分が来店する前に、お部屋の方に入ったのではないかと感じたのだ。
その感覚がほとんど当たっているというのは、その後何度か通った時に分かったのだった。
「3番の番号札お客様」
と、スタッフは、他に客が誰もいないにも関わらず、そういって、待合室の前で声をかけた。
そんな当たり前のことであっても、礼儀正しく行わなければいけないということで、
「従業員教育が行き届いている」
といっていいのではないだろうか。
それを思うと、
「はい」
と言って、こちらも、形式に沿って、番号札を渡すことで、礼儀を示したのだ。
すると、
「お待たせいたしました。こちらにどうぞ」
と言って、廊下に出させた。
そして、
「ご指名は、○○さんで間違いございませんね?」
と言われ、さらに、その場で、禁止事項を読み上げ、確認を促しているのだった。
それを聴いていると、もうすでに、興奮状態は、マックスに近づきつつあった。
「それでは、カーテンの向こうに女の子がいます。どうぞ、お時間まで、ごゆっくりお過ごしください」
と言われたのだ。
「ごゆっくりというのも、おかしなものだ」
と思ったが、基本的には。
「お風呂屋さん」
なのだ。
こちらも、癒しを求めてきているのだから、
「ごゆっくり」
というのも、ありがたい言葉だった。
カーテンが開き、女の子と対面すると。
「ああ、想像以上の美しさ」
というものを感じたのだ。
元々、今までの経験から、美しさよりも、可愛さという方が好きだという板倉だったが、その日は、高級店という意識もあってか、かわいらしさよりもきれいな雰囲気を感じる人がよかったのだ。
その子は、源氏名を、
「つかさ」
と言った。
つかさは、可愛い系というよりもキレイ系の女性で、今までであれば、
「俺の好みは可愛い系だ」
とずっと言い続けてきたのに、どうした風の吹き回しなのか、今回は、
「キレイ系のオンナの子」
である、
「つかささん」
を指名したのだった。
実際にあったつかささんは、想像していたよりも、さらにスリムだった。
そもそも、スリム系よりも、まだぽっちゃり系の方が好きだった。
「健康的な女性が好きだ」
ということで、どちらかというと、つかさという女の子は、見た目としては、
「不健康」
に見えたのだ、
しかし、それは、あくまでも、勝手な思い込みであって、
「はじめまして」
と、ニッコリと笑ってくれた笑顔を見ると、
「ああ、結構健康的じゃないか」
と、最初のイメージが、勘違いであったことを悟った。
それなのに、どうして彼女を指名したかというと、
「自分が、風俗経験もない男なので、いろいろ教えてくれそうな、お姉さんタイプがいい」
と感じたからであった。
実際に、プレイに入ると、さすが高級店。そのサービスはさすがと言えるほどであり、とても体力のない人には務まらないだろう。
それくらいのことは、知識としては知っていたので、見た目、か細そうな、
「つかさ」
で大丈夫なのだろうか?
と考えはしたが、実際には、
「ここまで体力が持つとは」
と思っていたのである。
実際に、お相手をしてもらうと、
「マットのようなところで崩れ落ちたりしないだろうか?」
と思ったがそんなことはなかった。
彼女を見ていると、
「テクニックには、力などはいらない。力の入れ具合とタイミングが分かっていればいいんだ」
ということであった。
その日が、風俗が初めてだということを正直にいうと、つかさは、素直に喜んでくれた。
「ありがとう。私を選んでくれて嬉しいです」
と、本当に喜んでいたのだ。
「私ね、姐御肌に見えるらしくて、そのおかげで、童貞さんが結構来てくれるんですよ。嬉しいんだけど、童貞キラーというように言われるのが、正直恥ずかしくて」
といって、はにかんでいたのだ。
心底恥ずかしそうにしているその笑顔には、
「私、本当は、このお仕事大好きなの。ただ、お客さんによっては、私の宣材写真を見て、何か事情があって、この仕事をしているように見られることがあって、本当はそれが嫌なの。別に宣材写真では、真面目な顔をしているので、面白くなさそうに思っているんでしょうけど、そんなことはないのよね」
というのだった。
「つかささんは、どうしてこのお仕事が好きなんですか?」
と聞くと、
「昔から、人を癒すことができればいいと思っていて、もっともっとこの業界を目立たせたいと思っているんだけど、一人じゃどうしようもないので、とにかく真面目にすることでお金をためて、自分のお店を持って、好きなような経営ができれば、それに越したことはないと思っているのよ」
というのだった。
「私が、お店を持った時。このお仕事が好きな女の子と、癒しを本当に求めてこられるお客さんに楽しんでほしいと思っているの」
というではないか。
板倉は、つかさの常連客となった。
「毎月はさすがにきついが、2カ月に一度くらいは、いいのでは?」
と思うようになった。
板倉は、自家用車を持っていない。都心部では、車を必要としないし、下手に都心に車を乗り入れると、渋滞に巻き込まれたりするからだが、一番の問題は、
「駐車場があい」
ということであった。
車で通気しても、会社があるビルには駐車場がない。
となると、会社の周りの月極め駐車場に止めるしかないのだが、そうなると、従者城代がバカにならない。
それを思うと、その分が浮くわけだし、さらには、維持費などにどうしても、お金が掛かったりする。
そういう意味で、
「車に興味がない」
ということは幸いだと言ってもいいだろう、
嫌でも仕事をしていれば、会社の車での移動は避けられない。会社でも嫌というほど車に乗るのに、プライベートでも乗るのは、いい加減嫌気が差してくるのだった。
それでも、
「車が好きだ」
という人がいるが、
「そういう人はそれで構わない」
ということであった。
会社から、風俗街までは、結構近かったりする。歩いても行ける距離で、通勤途中と言ってもよかった。
会社が終わってから、軽く食事を済ませて、立ち寄るというのが、パターンになっている。
もう二回目以降は、予約をして行っている。
ネットで予約をするのであれば、彼女の予定が出る頃に合わせて、自分の予定を確認すればいいわけだ。
今は、ちょうど、そんなに残業もないので、予定は普通に立てられる。そういう意味では、ありがたかった。
つかさは、店の中では、いうほど、予約で埋まるというようなことはなかった。
さすがに、終わってみれば、
「空き時間はなかった」
ということはあるだろうが、その日の朝には、半分近くの時間が余裕がある状態だったりする。
当日でないと、予定が分からない人もいるだろうから、
「基本的には、当日予約」
という人もいる。
板倉も、今は暇な時期だから、数日前から予約を入れることができるが、当日予約しかできなければ、
「予約も簡単に取れないかも知れないな」
と思うのだった。
それでも、埋まらなかったら、お客さんの中には、
「フリーで」
という客がいれば、その客をあてがわれる。
彼女の方も、別に、
「ナンバーワンでないといけない」
というわけでもなく、
「私は、自分のお店を将来持ちたいとは思っているけど、だからと言って、ナンバーワンにこだわることはないの。計算しているお金が稼げれば、ランキング上位である必要はないし、それよりも、一人一人の常連のお客さんを大切にしたいと思っているというところかしら?」
というのだった。
「それは立派な考えだと思うよ。ナンバーワンよりも、オンリーワンでいいんじゃないか?」
と、以前どこかの看板で見た宣伝文句をいうと、
「そう、その通りなのよ」
と、感激していたのだった。
そんな板倉だったが、しばらくして知り合った女性が、元風俗嬢であることを、しばらくの間、板倉は気づかなかった。
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