38話 不思議がい〜ぱい!

「なるほどそんな事が」


 イチカの話を聞き終え俺は息を吐く。

 最後の化け物を倒す為に、自分達の命を燃やしたって聞いた時は凄く心配したけど、“世界の意思“という存在が助けてくれてホッとしていた。

 俺に会う為に、死ぬんじゃあ本末転倒もいいところだろ。

 

「本当にお前等は」

「怒ってる?」


 イチカは抱きついた状態のまま、上目遣いで俺の事を見てくる。


「何をだ?」

「私達が命を掛けたこと」

「分かってるじゃないか」

「ごめんなさい」


 しょんぼりと項垂れるイチカに、俺は溜め息を吐き頭を撫でる。


「俺はお前等に生きて欲しくて、幸せになって欲しくて頑張ったんだぞ」

「うん」

「それなのに自分達の命を捨てようとするなよ」

「でも・・・・・」


 俯いていた顔を上げ、イチカは俺の瞳を真っ直ぐに見つめる。


「私達は、お父さんが一緒にいないと幸せになれないよ」


 声を震わせ、涙で濡れる瞳を見て俺はそれ以上の事は言えなくなった。


 この世界に、俺を転生させてくれた女神様は俺が死んだ後、子供達は成功を収めたと教えてくれて満足してた。

 だからこそ俺は安心してこの世界で生きてきたんだけどな。

 女神様、化け物達の事は言ってくれなかっただろ。

 

「お父さんがいなくなってから本当に辛かったんだよ」


 愚痴るように、悲しむように、寂しそうに、イチカは語る。


「兄妹がいたから幸せな日々を送れた。でもよく思うんだ、お父さんがいてくれたらって」


 イチカは、父の服を強く握り締める。


「どうして死んじゃったの」


 非難を交えた声でイチカは呟く。


「なんで私達を置いていったの?」


 俺はそれに対して何かを言う資格はない。

 子供達の為に頑張ったんだから仕方ないだろ。

 仕事をいっぱいしてたからしょうがないだろ。

 休む暇すら俺にはなかったんだ。

 俺だって過労で死ぬとは思わなかったんだ。


 言い訳ならいくらでも思いつく。

 でも、俺が子供達を置いて死んでしまったのは事実だ。

 お前達を残して死んでしまった。


「分かってるよ。お父さんが私たちの為に無理していたことを。本当は私達がいなかったらお父さんは今も・・・・・」

「それは違う」


 いつの間にか、涙で溢れていたイチカの顔を俺は両手で包む。


「お父さん?」

「それは違うよイチカ、俺はお前達がいたから生きてこれたんだ」


 子供達に会う前の俺は生きる目的がなかった。

 決して、人生に絶望していた訳でも死のうとしてた訳でもない。

 ただ毎日仕事をして、金を貯めて、ご飯を食べて、寝るといった生活を続けていただけ。

 趣味もなく、目標もなく、退屈な毎日だった。


 クズ野郎(前の世界の兄)が死んで、子供達を引き取る事になって俺の生活は変わっていった。

 忙しさが増し毎日が大変だったが、家に帰った時の子供達の笑顔に救われた。

 成長していく子供達を見てとても嬉しかった。

 仕事をして、子供達の面倒を見て、みんなでご飯を食べて寝る。

 幸せだった。

 家・族・と一緒に暮らす毎日は、本当に幸せだったんだ。

 これかも家族と幸せに暮らすのが俺の生きる理由になった。


「だから自分達がいなかったらよかったなんて言うな」


 イチカを優しく胸に抱く。

 慈愛を持って、慈しむ様に頭を撫でる。

 先程の力強く抱きしめていた時とは違い、優しく何処までも優しく抱きしめる。


「うん」



「にしても前の世界がそんな事になってるなんてな」


 ほんとびっくりだよ。

 

「この世界の事を学んだから分かったんだけど、あの化け物達って《略奪者》だったと思うんだ」


 イチカの話を聞いて、俺もそうなんじゃないかなとは思っていた。

 魔物とかがいない前の世界で、突然現れる化け物。

 《略奪者》という事なら色々と説明が付く。

 《略奪者》、いまだにはっきりとした正体が分からない、謎多き世界の敵。


「でもよく《略奪者》を倒しきれたな」


 強さに違いがあるとは言え、一体でも大きな脅威になるはずなんだけどな。


「それが前の世界の《略奪者》達は、この世界で聞いた《略奪者》より弱かったと思う。その証拠に《略奪者》が沢山いても世界が滅びなかったからね」


 l世・l界・によって強さが変わるのか?

 ・・・・・・ダメだいくら考えても分からないな。

 それに他にも気になる事がある。


「"世界の意思"って存在も気になるな」

「あっ、やっぱり気になる」


 "世界の意識"

 前の世界限定の存在なのか、それともこの世界含めて"世界"全部に関係する存在なのかな?


「世界、世界か〜」


 話のスケールが大きくなってきたな。

 だって文字通り世界だからな。


「私的にはね、この世界に来た時の女神が管理者って言われてるのが驚いたんだ」

「管理者か」


 ダメだ。

 あの女神様に対しては、どうしても駄女神って言うイメージしかわかねぇ。

 管理者が何を指しての言葉なのかは分からないけど、あの女神様に似合わないのは確かだ。


「分からない事だらけだな」


 イチカの語る内容は衝撃的なものばかりであり、謎も多くある。

 それを解き明かすのは、今の俺には無理そうだ。

 それに今1番気になっていることがある。


「イチカ、他の子供達はどうしたんだ?」


 他の子供達もこの世界に来てるのに姿が見えない。

 一体何処にいるのだろう?


「ああそれがねーーー」

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