36話 本当にいい1日だったよ

「いやーいい1日だった」


 俺は城の一室で今日を振り返った。

 

 異世界人達とはそれなりに打ち解けたとは思ってる。

 流石に全員とはいかないが、それでも最初の様に見下される事は無くなった。

 変わって、畏怖や敬意、憧れなどの視線を送ってくる。

 やたら情熱的な視線を送ってくる子達もいたのだが。


ーコンコン


 ん、誰だろう?


「はいどうぞ」


 入って来たのは、失礼かもしれないけど特に特徴らしい特徴がない1人の少女だった。


「えっと君は?」

 

 目の前の少女には見覚えがない。

 異世界人の子とも思ったが、こんな子はいなかった。

 忘れているだけかもしれないが、異世界人100名の顔は全員覚えてる。

 竜としてのスペックなら、それぐらいの記憶力があるからな。


 少女は無言のまま俺の前まで来る。

 警戒するべきなのだが、敵意や悪意を感じない為、手の届く距離まで少女の侵入を許した。

 一度少女は立ち止まり、俺を上から下まで見た後に顔を俯かせる。

 俯いた後に、全身が小刻みに震える。


「お、おい。どうしたんだ?」


 心配になり少女に触れようとした瞬間、少女は顔を勢いよく上げそれと同時に抱き付いてくる。


「ちょっ」

「会いたかった、!」

「んーー?」


 突如、抱きついてきた少女を引き離そうとした俺は、少女の発した言葉に固まる。

 今この子何って言った?

 お父さんって言わなかった?


「あの〜君は」

「お父さん、お父さん、お父さんお父さん」


 俺はこの子の事が気になり、正体を聞こうとしたのだが、抱き付く力は強まるばかりで離してくれない。

 それにやっぱりこの子は、俺の事をお父さんって言うしな。

 しかも泣きながら言われると、拒絶できないな。

 取り敢えず俺は、少女が落ち着くまで背中を摩り続ける。




「それで君は」

 

 少女が泣き止むまで待っていた俺は、改めて目の前の少女が何者かを聞く。


「私の事本当に分かんない?」


 少女は俺の質問に答えず、逆に聞き返してくる。


「・・・・・」


 ん〜〜〜、ダメだ。

 どしても分かんない。

 俺の事をお父さんって言うのは、一緒に暮らしてきた子供達だけだ。

 

 しかし目の前の少女に見覚えはない。

 一体彼女は、、、っっ!!


「お前まさか・・・」


 いる。

 俺の事をお父さんと言う存在は、でもそれはあり得ない。

 何故なら、少女の姿は俺の知ってる子達の誰にも一致しないからだ。

 でも先程の態度といいこっちを試すような口振り。

 

「イチカ、、、なのか?」

「フフ、正解」


 少女いやイチカは、口元に手を当てながら笑い、闇に包まれる。

 少しして包まれていた闇は消えていき、そこから現れる顔に俺は自分の目が潤むのを感じる。

 目の前にいる顔は、間違いなく生まれ変わる前に俺と暮らしていた子だ。


 大和撫子を思わせる長い黒髪に端正な顔立ち。

 やや高めの身長にスラっとした体。

 モデルなどがよく似合う子だ。

 先程の特徴がない少女より、魅力的に見えてしまうのは、決して見た目だけじゃない。

 イチカから感じ取れる雰囲気は、茶目っ気のあるお姉さんで、見た目とのギャップを感じる。



 この世界に来る前は、まだ高校生に成り立てだった筈なのに。


(本当に見違えた)


 俺の潤む目を見て、イチカは嬉しそうに微笑む。


「お父さんに会いたくって来ちゃった」

「来ちゃったってお前なぁー」


 アレクシオンは、手を伸ばしイチカを力一杯に抱き締める。

 抱き締める力は力強く、されど彼女を苦しめないギリギリの力強さでもって己の胸に抱く。


「俺も会いたかったよ」

「お父さん」


 イチカは、自分を抱き締める父に安心と幸福を感じていた。

 姿形は違えど、この温かさは間違いなく自分の父だ。

 

 イチカもまたアレクシオンの背に腕を回し力一杯に抱きしめるのだった。



 あれから満足するまでお互いに抱きしめ合った俺達は、部屋にあるソファーに座っている。

 イチカは俺の膝の上だが。

 なんならいまだに抱き付かれてるけど。


「イチカお前ががいるって事は他の奴等もいるって事か」

「いるにはいるんだけど」


 うーんと指を口元に当てながら思考するイチカ。

 今からする話を考えているようだ。


「そうだね。お父さん、まず何で私達が此処にいるのか説明しないとね」

「《略奪者》に召喚されたからじゃないのか?」

「違うの」


 イチカは首を振り否定する。


「私達はね、こっちの世界に召喚されたんじゃなくて来たんだよ」

「来たってどうやって?」

「女神?を脅・・・・交渉して?」


 何で疑問系なの?

 それにさっき、脅迫って言いかけたよね?

 女神様、、、脅迫されたのかよ。

 しかもイチカがいるって事は屈したんだな。

 本当になんて言うのか、残念な神様だな。


 まぁ、お陰でイチカに会えたから結果的にいいんだけど。

 でもそうなると不思議な事がある。


「なぁイチカ。お前達はどうやって女神様に会ったんだ?」


 そうなんだよ。

 そもそもからしておかしい。

 魔法があるこの世界なら、何かしらの手段で神様に会うことはできるかもしれない。

 でも、前の世界では魔法は存在しない。


 科学は発展してるが、違う世界に来れる程じゃないはずだ。

 発展して行けるようになった?

 それもありえない。

 俺が死ぬ前のイチカの年齢は16歳で、丁度高校生になっていた。

 でも、今のイチカは大学生ぐらいの見た目で、俺が死んでから3〜4年だよな。


「科学の力だよ!、、、って言えたら楽なんだけど」


 イチカも俺の疑問が分かっている様で、科学での力を否定する。


「ここからは長くなるよ」

「な〜に時間は一杯あるんだ。教えてくれ、俺が死んだ後の事を」

「うん。まずはねーーー」


 それからイチカは、アレクシオンが死んだ後の物語を語るのだった。

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