36話 遠慮すんな!もう一回やるだろ!?

 問題はあったものの訓練は続いていった。


 エンコに食われた異世界人達の皆は、トラウマになったのか俺の指示には素直に聞き、エンコの裸を見た男の異世界人達は気合いが入っているのはいいが、女性の異世界人達はそれに対して白けた視線を送っているのは気付いているのだろうか?


「ボス〜、エンコ頑張ったよ〜」


 衣服を着たエンコは、自分の生みの親であるアレクシオンに抱き付いていた。

 

「エンコ離れろ」

「や〜〜!」


 虎の状態ではよく擦り寄られたりしていたのだが、今の人間の状態は非常にまずい。

 これが子供の姿ならまだ可愛げあるのかもしれないけど、エンコの姿はグラマラス美女。

 対して俺も今は人間の形態、竜の姿ならまだしも今はな〜。


「エンコ様ご主人様が困っております。離れてください」

「レイレイ、エンコの邪魔しないで〜」

「レイレイ?」


 初めて呼ばれる言われ方に、レイは戸惑う。

 

「旦那様から離れてください」

「ミゥ〜」


 今度はシアがエンコを離そうとする。


「お前は誰〜?」

「私はシア。アレクシオン様の奥さんです!」


 違うよ!!


「ボスの番って事〜?」

「そういう事です」


 何言ってんの!?


「じゃあママだ〜!!」


 エンコは、アレクシオンから離れてシアに抱き付く。


「まっ、ママ!?」

「違うの〜」


 首を傾げながらエンコはシアを見つめる。


ーズキュン!


 シアは今確かに、自分の心臓を撃ち抜かれた感覚を味わった。

 エンコの行動に胸を撃たれたシアはエンコを抱きしめる。


「そうですよー。私は貴方のお母さんですよー!」

「ミゥ〜ママ〜」


 類をシアに擦り付けるエンコ。


「ふ、ふふふふ、可愛い」

 

 恍惚な表情を浮かべながら、エンコの赤い髪をシアは撫でる。

 そんな2人の姿は大変目の保養になるのだが、なるのだが、、、


「嘘をつくな嘘を」


 お前を嫁に貰ったつもりはない!


「嘘じゃないわ、いずれ真実になるもの」


 いずれって事は、少なくとも’今’じゃない。

 従ってお前は俺の奥さんでもなければ、エンコのお母さんでもない。


「酷いわ、私達の子を認知しないなんて!」


 やかましい!



「疲れた〜」

「俺生きてるよな?」

「わ、私頑張ったよ〜」


ーバタリ


 訓練を終えた異世界人達は次々に倒れていく。

 あまりの壮絶な訓練に心身共に限界を迎えたのだ。

 

 本来なら、異世界人達にここまでのやる気はなかったが、アレクシオンの自己紹介(脅し)、命懸けの鬼ごっこ(懸けてない)、姿を変えさせられたケモ耳グラマラス美女(歓喜)などの要因が重なり、異世界人の皆は最後まで訓練を達成する事が出来たのだ。


 見事なまでの三要素が揃ったのである。(鞭、鞭、飴ですね)

 また、エンコの事に関しては男性陣のご褒美になるのだが、女性陣にもご褒美はあったりする。

 アレクシオンの存在だ。


 自己紹介では、確かに恐怖を抱いていたのだが、落ち着いてよく見ると、アレクシオンの顔はこの世のものとは思えない程に美しかったのだ。

 何が言いたかというと、まぁあれだ。

 アイドルや俳優を超える美しさに興奮して、大体の事は許せてしまうのだ。


「さて皆お疲れ様」


 労いを掛けるアレクシオンを、異世界人の皆は見つめる。

 その眼差しには、負の感情や見下す視線はない。

 寧ろ、やってやったぞ!褒めろ!と言わんばかりだ。


 アレクシオンは、笑顔でそれに応え指を鳴らす。

 すると、訓練場一帯に優しい風が流れ出す。

 流れ出た風は、倒れる異世界人達を包み込む。

 風に包み込まれる際、不思議な事に異世界人達はその風から逃れようとは思わず、無防備な状態で包まれる。

 その風に害がない事を本能的に理解したからだ。

 そもそもからして、逃れようとする気力と体力が無かったりもしたからだ。


 異世界人達を囲っていた風は、いつの間にか消滅していた。

 風に囲まれて見えなかった異世界人達の姿が現れ出す。

  

「体が軽い」

「疲れが消えたわ!」

「動ける〜」


 先程まで倒れて動けなくなった異世界人達は、体にあった疲労感が消えた事に驚き喜んでいた。


「よし動けるようになったな」


 皆が起き上がり始め、アレクシオンは喜ぶ。


「はい、動けます!」

「アレクシオンさんがやってくれたんですね!」

「ありがとうございます」


 自分達を包んだ風が、アレクシオンの力だと知り感謝をしていく。

 その顔には、キラキラとした輝きがあるのだが、この輝きは次のアレクシオンの言葉に曇ることになる。


「じゃあ動ける様になったことだしも・う・一・回・訓・練・といこうか」

「「「えっ・・・・・?」」」

 

 アレクシオンの悪魔の一言は、異世界人達を絶望に落とすのだった。



 《肩代わりの癒し風》

 先程アレクシオンが指を鳴らす際に、発動した魔法だ。

 効果は、風を発生させ対象を取り囲み体の疲労を風が奪う魔法だ。

 ここで勘違いしてはいけないのは、この魔法はあくまで体・の疲労感を抜き取ることが出来るだけであり、精神的な疲労は抜けない。

 

 ただでさえ限界寸前まで訓練をして、終わったと思った後に疲労を取ってもらったら、もう一往復訓練をする。


「嫌だーー!!」

「うわぁーー!!」

「悪魔!」

「鬼!」

「ふざけるな!!」


 それを知った異世界人達は、慌てて訓練場から走って逃げ出すのだった。

 その逃げっぷりは、エンコとの鬼ごっこより速く、いかに必死なのか伝わる。


「何だお前等、今度は俺と鬼ごっこか?」


 アレクシオンは、獰猛な笑みを浮かべながら逃げってった異世界人達を見る。

 

「逃す訳ないだろ」


 この日、城の至る所で悲鳴が響き渡るのだった。




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ストックの関係上この先は、週に1〜3話出すことになります。 

引き続きこの作品を読んでいただければ幸いです。

これからもよろしくお願いします。

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