35話 エンコ、お前〇〇だったのか!!

「ふっ、みんな情けないな」


 次にエンコに挑むのは、アレクシオンを見下す目で見ていた少年だ。


「今度は、透明人間になった俺を見つけた少年か」

「「チッ」」

「ん?」


 今俺の近くで舌打ちする子が2人いたような。

 気のせいだよな・・・


「ご主人様に無礼な視線を送った餓鬼」

「異世界人だからと、数々の無礼は見逃しましたが旦那様にまで真似た真似をしたゴミが」


 気のせいじゃなかった。

 

「な、なんじゃ。体が震えるのじゃあ」


 レイとシアの怒気に恐れたのか、リバライが俺の後ろに隠れる。

 隠れたいのは俺もだよリバライ。


「「いきなさいエンコ!あの餓鬼(ゴミ)を始末しなさい!!」」


 その声が聞こえたのか、エンコは体を一瞬震わせた後にまるで遊びは終わりだ、と言わんばかりに目の前の少年に襲いかかる。

 少年は、突如勢いよく襲いかかって来るエンコに対応できずあっさり食われるのだった。


 パクッ


「「よし」」


 グッ

 

 少年が食われた姿に満足したのか、2人は拳を握り喜ぶのだった。

 

 

「まだかハルカ!」

「も、もう少しです」

「お前等聞いたな!もう少しだ!」

「「「おう!」」」


 ハルカの《形状人化》発動の為時間を稼ぐ異世界人達は、もう少しの辛抱だといわんばかり気合いを入れる。

 あの異世界人達は、なかなかに気持ちのいい奴らだな。

 容赦はしないけど。

 

「うわー!」


 パクッ


「くそったれ!」


 パクッ


「アイツらの仇だ!」


 パクッ


 気合いを入れようが、実力差が埋まる訳ではなく無情にも食われ続ける異世界人達。


「なんか罪悪感を感じてきたな」

「それはあの子達に食われても大丈夫だと伝えてない事かしら」


 シアは俺の気持ちがよく分かってらっしゃる。

 まぁ俺の心が読めてるだけだろうが。


「そんな事ないわよ」


 ほら!

 そういう所だぞ!


「聡い子達は気が付いているみたいですよご主人様」


 レイは、ある場所を指差す。

 指された場所には、小学生ほどの子供達が集まっていた。


「僕達食われるんだ〜!」

「お家帰りたいよ〜!」

「大丈夫だよ」


 座りながら泣く子供達の前で、1人の少女が立ち上がる。


「アレクシオンさん言ってたでしょ。これは訓練だって、だから死ぬことはないよ!」

「でも・・・」

「信じよう、お城の人達はみんな優しかったでしょ。そんな人達の紹介できた人だよ。だから大丈夫!」

「うん」


 へぇー、泣く子供達を立ち直したな。


「シアあの子は?」

「ヒカリ様です。能力は《勇希者ゆうきもの》名の通り、勇気と希望を与える者ですよ」

「勇気と希望か」


 面白い能力だな。

 一見大した事ない能力だがとんでもない。


 例えば、自分より強い相手に相対した時に、人は本来の力を出す事は難しい。

 萎縮したり、恐怖で動けなくなり勝つのが難しくなる。

 そんな時に勇気があれば、格上相手にも問題なく戦えるようになる。


 戦争の時に必要なものは、兵士の数、物資、作戦など多岐に渡るが、最も必要なものは兵士達の士気だ。

 相手の数に負けようが、物資が尽きようが、作戦で押されようが、結局の所戦うのは兵士だ。

 そんな兵士達に希望を与えてこそ士気が上がるというものだ。


 ヒカリという少女は、能力でその2つを可能にする。

 でもそれは、、、


「シア」

「分かってるわよ。心配しないで旦那様、ヒカリにそんな事をさせないわ」


 俺の考えを読んだのだろう。

 ヒカリの能力は、戦争の時などに大きく役に立つ。

 兵士の士気を上げる事ができ、格上相手だろうと萎縮せず戦う事が出来る。

 ヒカリの存在が、兵士達の力になるのだ。


 でもそれは、幼い少女のヒカリを戦争に利用するという事だ。

 あんな幼い少女を、、、


「戦争が起きそうなら教えろよ。全力で止めるから」

「ふふ、相変わらず旦那様は子供に優しいわね」


 シアは嬉しそうに笑いアレクシオンを見つめる。

 子供に優しく甘い、自分の旦那様を。




「じゅ、準備が出来ました!」


 どうやらハルカちゃんの準備ができたようだな。


「よしお前等あの化け物を取り押さえるぞ!」

「おお!!」


 エンコの周りに異世界人達は集まり、少しずつにじり寄る。

 エンコはそれに対して様子を見るだけで動かない。

 

「いまだ!」


 合図とともに、異世界人達はエンコに抱き付き動きを封じる。

 エンコの纏う炎をいにも介さず抱き付く。

 しかし不思議な事に、異世界人達の誰もエンコの炎に当てられても燃える事はなかった。

 異世界人の誰かの能力かな?


「やれハルカー!!」

「はいいいーー!《形状人化》!!」


 ハルカは、取り押さえられているエンコに近付き能力を発動する。

 能力の発動と同時に、エンコの体が輝きだす。


「おおぉーあいつ等やるな」

「なんじゃ何が起きるのじゃ?」


 リバライは、ハルカの能力を知らない為これから何が起きるのか知らないようだ。


「面白い事が起きるんだよ」

「ほーー!それは楽しみなのじゃ!!」


 はたして、俺が創造した魔力の塊であるエンコにハルカちゃんの能力が通用するのかどうか、その結果が今分かる。


 エンコを中心に輝いていた光は、徐々に小さくなっていき、やがて人1人分のサイズになっていく。

 光は収まっていき、そこから1人の女性が現れる。

 皆の視線は、その女性1人に注がれていた。


 光沢のある赤髪、顔は野生的ではあるがそこには確かな美を宿していた。

 頭と尻の部分には、虎の耳と尻尾がある。

 しかし皆の視線はそこにはいかない。

 何故かって?

 

 女性の体は、グラマラスでありその肢体は男の劣情を刺激するには十分な破壊力がある。

 それが衣服を纏ってないとすると尚更に。

 


 お気づきだろうか?

 その女性は全裸の姿で佇んでいるのだ。





 


 

 アレクシオンおれもその姿を目に焼き付けていた。

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