33話 アバターは最強、操作は下手くそという事ですね

 自己紹介も終わり、アレクシオンは異世界人達に訓練を施す。

 訓練をするのにあたり、異世界人達の中で反対する者はいなかった。

 反対できる筈がなかったのだ。

 アレクシオンの存在が怖くて・・・




「ほらほら、走れ走れ!!じゃないと喰われるぞ!!」


 訓練所にて異世界人達は、アレクシオンに召喚された炎を纏った|炎虎《エンコ》と鬼ごっこをしていた。

 ただの追いかけっこじゃないぞ。

 捕まったら食べられるんだよ。

 こうパックとね。

 エンコのお腹の中に。


 エンコのお腹は大丈夫かって?(いや、異世界人の方の心配は?)

 大丈夫だよ。(だから異世界人・・・)

 なんとエンコのお腹は異空間に繋がっていて、自身の体のサイズを超えて食うことができるのだ。(それなら異世界人の心配は大丈夫・・・なのかな?)

 

 そんな事を知る由もない異世界人達は、全力でエンコから逃げている。



「我も我も参加したいのじゃあ!」

「ダメですよリバライちゃん」


 リバライは、この鬼ごっこに参加したいようで、今にも飛び出しそうだ。

 ルーはそんなリバライをなんとか宥めている。


「ご主人様何故このようなことを?」

「ああそれはね」


 俺は、レイの疑問に答えていく。


 まず異世界人達には、この世界の魔物を知ってもらう。

 エンコは、俺が創造し召喚した生物だが、それを知らない異世界人達にとっては魔物と変わらないだろう。

 そんな魔物に追い掛けられる恐怖を味わってもらいたいのだ。


 勿論、エンコから逃げ回るだけではなく攻撃する者もいるが、相手はアレクシオンに創り出された存在。

 そんな存在が、異世界人の攻撃を受けようとびくともしなかった。

 いくら異世界人達に特別な力があろうと関係ない。

 特別という意味では、アレクシオンは誰にも負けていないのだから。

 

「なるほど、そういった意味が」

「それ以外にも意味はあるぞ」


 基礎的な事にはなるが、体力作りにもなる。

 走り込みでも体力は作れるが、それは意欲がある者達だけだ。

 意欲がなければ手を抜いたり、サボったりもするだろう。

 でもこれなら、嫌でも走り続けなくちゃいけなくなるだろう。

 命が掛かってるのだから。(掛かってないよ)


「いつまでも逃げ回ってると思うなよ!」


 おっ、ヒロ君がエンコに立ち向かうぞ!!


「喰らえ!!」


 《絶対切断》の光を帯びた剣でもってエンコに切り掛かる。

 エンコはそれに対して、避ける素振りを見せず口を大きく開けるだけ。

 そしてーーー



 パクッ



 ヒロ君はエンコにあっさり食われるのだった。



「分かりきっていた結果ですね」

「何だったんじゃさっきの奴は、情けない奴なのじゃ」

「お前達、、、」


 レイ達の悪辣の言葉に、俺はヒロ君に同情するのだった。


「ヒロが食われたぞ!」

「マジかよ。ヒロって俺達の中でも強い方だったろ」

「どうするのよ!」

「そっそうだ!ハルカお前魔物を人間に変えられるんだろ。あいつを人間にしろよ!!」


 その提案に、多くの者達がハルカに視線を向ける。


「む、むむ、無理ですよ!人間にするって言っても、時間とか掛かりますし〜!」

「俺達が時間を稼ぐから準備しろ」

「は、はいぃー」


 どうやらハルカちゃんの能力を使うようだな。

 後で聞いてみたところ、ハルカちゃんの能力の名前は《形状人化》みたいだ。

 俺みたいに、生物を人にする能力だ。


 でも、エンコって俺が創った生物だけど、実際は魔力の塊みたいなものだ。

 魔力の塊を生物として捉えていいのか分からないけど、エンコの人間化は見てみたい気持ちがあるな。


 エンコは、異世界人達が何かを企んでいる事には気が付いていたが、問題ないだろうと思い気にしない事にした。

 それよりも目の前の異世界人おもちゃをどう遊ぶかに思考を巡らせる。

 先程、光る剣を持った少年を食べたのだが失敗した。

 もっとあの少年と遊ぶべきだったと。

 次はあの少女と遊ぼう。



 今度の相手は、ミライちゃんか。

 

「彼女大丈夫でしょうか。見たところ戦いに慣れていないようですが」

「ミライ様でしたら大丈夫ですよ」


 いつの間にか、俺達の所に来ていたシア。


「大丈夫と言うと?」

「ミライ様の能力はですねーー」



 ミライは、迫り来るエンコの攻撃(食事)を能力を使い避け続ける。

 

 避け続ける姿は、お世辞にも優雅とはいえなく、兵士や戦士が見ようものなら無様だと思う事だろう。

 しかしこれが、一流や達人の戦士達がその姿を見たら違和感に気付くだろう。


 ミライとエンコの実力には歴とした実力差がある。

 赤子と大人、蟻と象、いやそれ以上の実力差が。

 では何故、そこまでの実力差があるミライが、エンコの攻撃を避け続ける事が出来るのか。

 それはーー




「《未来視》ね」

「はい。見える先は幅広く、数秒先から数年程にも及ぶ程です」

「数秒先はともかくとして、数年先って言うのは凄いな」


 成る程、だからミライちゃんは俺と初対面なのに、俺の名前を知っていたんだ。

 多分会った時に《未来視》を使ったのだろう。


「凄いのじゃ!」

「そうですね」


 ヒロ君と違い、ミライちゃんは素直に褒められると、可哀想だなヒロ君。


「ええ、確かにミライ様の能力は凄いのですが問題があります」


 シアは、視線をミライに向ける。

 そこでは、エンコの攻撃を避け続けていたミライちゃんだったが、避けた先の石につまづく。

 その隙をエンコは見逃さず、口を大きく開ける。


 パクッ


「ミライ様自身がそこまで強くない事です」

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