16話 《現代》喧嘩する程仲が良い(ただし人による)

!」


 謎の美女がアレクシオンに抱き付く。

 アレクシオンは、抱き付いてきた女性に対して優しげな眼差しをする。

 口元は引き攣っているが。


「よ、よう、久しぶり

「はい、お久しぶりですお父様」


 俺は久々に会うミラに抱き付かれながら、内心穏やかではなかった。

 なぜかと言うと、


「お父様」

「うん?」

「なぜ私にお会いになられなかったのですか?」

「・・・」


 やっぱりきたー!!

 聞くと思ったんだよ。

 やばいどうしよう。


「お父様なぜ黙るのですか?」


 怖い怖い!

 そんな真っ黒な瞳で見ないで!

 闇しか広がってないから。

 いやもう闇じゃなくて病みだな。


「お父様」


 ミラの抱き付く力がどんどん強くなる。

 あっ、痛い痛い。

 俺竜なのに痛い。

 どんだけ強く抱き付いてんだよ?


「違うんだミラ、それには深い訳があってだな」


 何だろう。

 この浮気現場がバレて問い詰められてる感じ。

 

「深い訳ですか?」

  

 ミラは黒い瞳のまま首を傾げる。

 

「えーとだな」


 どうしよう。

 言えない。

 会いに行かなかった理由を言った瞬間終わる気がする。

 ちなみに終わるのは俺じゃない。

 

「ミラ俺達が会うのはいつぶりだ?」

「101年267日14時間39分41.3秒振りです」

「お、おおう」


 こっわ!

 そんなに詳細に話すとは思わなかったよ!

 というか秒数の所少数付いてなかった?

 マジ度が凄いんだけど!


「そうだ101年振りだな」

「101年267日14時間39分41.3秒振りです」

「はい」


 譲れない所なんだねそこ。


「その間お前は何を思っていた」

「お父様の事です」

「それだ!」

「?」

「ミラ、お前は日々俺の事を考えていたんじゃないか?」

「その通りです」

「その思いは時間が経つごとに強くならなかったか?」

「!!、なりました1秒1秒に思い焦がれました」

「俺はまさにそれを待っていた!」


 俺は一体何を言ってんだ?

 恐怖と焦りで自分が何を言ってるのか分からなくなってきた。

 嫌、言ってる事は分かる。

 分かるんだけど理解したくない。

 だってめちゃくちゃ気持ち悪い事言ってるよ。

 もう少しまともな言い訳なかったのかよ。

 と言うかこれで大丈夫かな言い訳?


「なるほど、流石お父様です!」


 良かったこれでいけたー!

 我ながら酷い言い訳だけど何とかなった。

 嘘ついた事には罪悪感は感じるけど仕方ない。 

 言えば殺し合いが始まる。


 ん?

 殺し合いって何かって?

 実は俺がミラに会えなかったのには本当に訳が合ったんだ。



 

 俺は今から40年程前に小さい竜の状態で目を覚ましていた。

 知らない部屋で。

 周りを見ると和風な装飾品などが飾られており、部屋全体には独特な匂いが立ち込められていた。

 臭いわけでも、強いわけでもないが、嫌な予感のする匂い。

 何だろうと思ったのも束の間、部屋の襖が開かれる。


 襖から現れたのは、黄金という言葉が良く似合う狐人ルナールの女性だった。

 9つの尻尾を揺らめかせながら、女性はアレクシオンに近づいていく。

 

「おーナインか。久し振り」

「長いお眠りの間お待ちしておりました我が君」


 ナインは俺の側まで来ると、両膝をつき頭を垂れる。

 あの時盗賊団を壊滅した後に奴隷から解放した子達の1人。

 出会った当初は、尻尾を1つ宿す少女だった。

 今では、狐人の力の象徴を9つも持ち狐人の頂点に立った。

 

 狐人族は、ナインが現れるまでは尻尾の数は歴史的に見ても最大は6本までだった。

 尻尾は成人すれば2本に、3本で戦士に、4本で族長や長などになり、5本で部族最強になる程だ。

 尻尾は増えていく毎に力を大きく増し、自分の尻尾より数が多い相手にはよっぽどの事がない限り勝つ事が不可能とされる。

 そんな尻尾を9本も持つナインは、まさに狐人の象徴だ。


「ナイン、ここは何処?」

「ここはわたくしの館です」

「館?ああどうりで」


 なるほど、だからこの部屋は和風の見た目なのか。

 狐人は、日本の文化と非常に似通っており、今のナインの格好も着物だ。


「我が君こちらを」


 ナインは、俺の前に水の入ったコップを手渡す。

 

「ありがとう」


 ゴクゴク


 あぁ〜うめぇ・・・んん?

 美味くねぇ。

 何ならドロってしてた。


「ナインこれ何が入ってるの?」

「ふふ」


 妖艶に笑うナインは俺ににじり寄る。

 そう言えばこの部屋の匂いもおかしいと思ってたんだ。


「ナイン?」

「今日は楽しみましょう我が君」


 あ、あああああああああーーーーあっ!!


 そこからアレクシオンは10日程その部屋に監禁されるのだった。 



 思い出したくねぇ〜。

 勘違いしてるかも知れないから言っておくけど、特別な事は何もしてないぞ。(多分)

 なんて言うのかな?

 そうだ。

 猫や犬がいたら撫でたくなるだろ。(撫でられただけだと思う?)

 それと一緒だ。(それより過激な事をした可能性があります)

 ただそれが10日間ともなると。(いやー羨ましい)

 それもずっと部屋の中だし。(いつの間にか人数も増えてた)


 とにかくこの事を知られる訳にはいかない。

 ミラとナインは死ぬ程仲が悪い。

 それこそ、俺が関わる事になると殺し合いをするほどだ。

 だからこそ会いに行けなかった理由を知られる訳にはいかない。

 絶対に!!


 カプッ


 アレクシオンが思考に耽ってる間、ミラはアレクシオンの血を吸い始めた。

 ミアは、アレクシオンの血を吸い続ける事でヴァンパイアクイーンに至った。

 これは、ヴァンパイアの中でも最上位に位置付けられる。

 そんなミラに血を吸われるというのは、大変名誉な事ではあるがアレクシオンにとっては、昔からよくやる行為である。


「満足したか?」

「はぁ〜はい。大変美味でした」


 ミラはアレクシオンから顔を離す。

 その顔には恍惚とした表情をしており、口元に付いた血を舐めとる仕草は大変に艶かしく、同姓でも見惚れる程だ。


「それではお父様向かいましょう」

「向かうって何処に?」

「私の国です」

「えっ!?」


 ミラよ。

 いきなりだな!!

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