8話 世界は貴方を認識するそうです

〜レミリヤ〜


 突如訪れた地震に目を覚ますレミリヤ。

 地震は長く続き、屋敷の侍女、執事は騒ぎ出す。


 「鎮まれ!」


 突如、屋敷に響き渡る声。

 その声の主は、レミリヤの父でありこの街の領主のアランだった。

 

 「父上」

 「レミリヤか」

 「この地震は?」

 「『略奪者』だ」

 「!?」

 

 『略奪者』

 この世界の敵であり侵略者。

 ヒビ割れた空間から現れる巨大な存在。


 この地震の原因が『略奪者』による者と知りレミリヤは動揺する。

 が、聡明な彼女はすぐに冷静になる。

 

 「父上!

 『略奪者』の居場所は?」

 「あの森の中だ」

 

 アランの指し示す方を向き歯軋りする。


 「アレクシオン殿の所か。

  父上今すぐにあの方の元に!!」

 「分かってる。

  兵達よ今すぐに武装の準備。

  他の者達は冒険者ギルドに応援を、そのほかにも住民の避難・誘導をするように!」

 「はっ!」

 

 アランの指示に屋敷の者は慌ただしく動く。



 

 そして向かう先には、倒れ伏す3つの首を持つ異形の怪物がいた。

 怪物の近くには、アレクシオンがいた。


 「一体これは」

 

 アランは目の前の光景に驚きを隠せなかった。

 『略奪者』と思われる怪物は息絶えていた。

 それは良い。

 しかしアランが驚いたのは、黒き竜の方であった。

 黒き竜は、強大な『略奪者』を相手に対して“無傷“であったからだ。

 レミリヤからは、黒き竜アレクシオンの事については聞いていた。

 魔法の才に愛された娘が初めて畏怖した存在であること。

 とてつもなく強いであろうことは予想していたが、これほどとは思いもしなかった。


 「アレクシオン様〜!!」


 アレクシオンの元に耳の長い女性が走り込んだ。


〜アレクシオン〜

 

 「アレクシオン様〜!!」


 勝利の余韻に浸っていた俺の耳に、聞き覚えのある女性の声が聞こえた。

 

 「ルーさん」


 声の主は、金髪碧眼のエルフ美女ルーさんがいた。

 ルーさんは、俺の下まで向かうと体のあちこちを見回した。


 「アレクシオン様どこかお怪我は?」

 「大丈夫ですよどこも怪我をしていません」

 「よかった〜」


 俺の言葉に安心したのか、そのまま俺の方に力無く抱き付いた。

 この子本当に抱きつくよなぁ〜。

 いや、良いんだよ。

 良いんだけど、こんな人前で抱きつかれるともどかしいというか。

 というかなんでこんなに人がいるんだ?


 「『略奪者』はそやつか?

  アレクシオン殿」

 

 声をかけてきたのは、お嬢様のレミリヤさんだった。

 お嬢様だからさんじゃなくて“様“の方がいいのかな?


 「はいそうですよ。レミリヤさ・・・ま?」

 「堅苦しいのは好かん。レミリヤでよい」

 「分かりましたレミリヤさん」

 「レ・ミ・リ・ヤ!」

 「お、おうレミリヤ」

 「うむ」

  

 そうして満足に頷くレミリヤ。

 そしてそれと同時に現れたのは、若い兄ちゃんだった。


 「初めまして。偉大なる竜アレクシオン殿。

  私は、隣の街の領主を務めております。アラン・ボーン・ブルクという者です」


 偉大な竜って照れるな。 

 ん?

 領主?

 とういう事はこの人ってレミリヤのお父さん?

 ・・・・ええええええええ!!

 若っ!!

 見た目大学生ぐらいにしか見えないんだけど。

 兄妹って言われても信じるぞ。

 驚く俺を他所に、アランさんは頭を下げた。


 「アレクシオン殿感謝致します。

  貴方様のお陰で、『略奪者』が現れたにも関わらず街に被害はなかった」

 「いえいえ、俺も自分の家を守る為に戦っただけなのでお気になさらず」


 そうだ。 

 俺は、ただ自分の家を守っただけだ。

 だからお礼を言われるのは照れる。


 「何か礼をしたのだが」

 「本当に大丈夫ですよ」

 「そういうわけにはいきません。

  礼を欠いては、街の者達に示しが尽きません」


 ん〜。

 意志は堅そう。

 ここは素直に礼を受け取るべきなのかな。

 それにしても何を頼めばいいんだろ?

 さっきもレミリヤから物を受け取ったしな。

 そういえば、あんなに暴れたけど品物はどうなったんだろう。


 アレクシオンが向ける視線の先には、焼け焦げた本と、割れた酒樽、草原に散りばめられたスパイス。

 ・・・・・・・・。


 それからアレクシオンは、アランに礼の品物を頼むのだった。

 エルフの女性に抱きつかれながら。


〜天界〜


 光り輝く宮殿には、1人のいや、一柱の神がいた。


 「オーレン様」


 神に話しかけるのは従者と思わしき男が話しかける。

 

 「なんだ」


 低く重圧の籠った声が届く。

 従者の男は、姿勢を低くしながら要件を伝える。

 

 「『略奪者』が地上で現れました」 

 「・・・」


 『略奪者』が現れるのは、珍しい事ではない。

 特にこの神オーレンは、今まで何度も『略奪者』を倒してきた。

 今更『略奪者』が現れた所で大きく反応する事はない。

 仮に強大な『略奪者』が現れようと自分が対処すればいい。

 そう考えていたオーレンだったが、次の従者の言葉に驚く事になる。


 「『略奪者』が現れ直ぐに討伐されました」

 「何?」


〜魔界〜


 「ん?」

 「どうしました魔王様」

 

 とある城にて、玉座に座る1人の女性は勝気な目を細め天を見つめる。

 そんな彼女を1人の魔族が心配する。

 

 「今とても強い奴の気配がした!」

 「・・・・」

 

 またか。

 辺りにいる魔族は一斉にそう思った。

 それも仕方がない事だろ。

 なんせ彼女は、魔王メル・エーミリアは戦闘狂であるからだ。

 今までも何度となく強敵が現れる度に戦いを仕掛けているほどだ。

 そんな彼女は、瞳をキラキラさせてまるで新しい玩具を見つけたようだ。


 「行ってくる!」


 そんな言葉共に玉座から姿を消す魔王メル。

 突然いなくなる魔王に唖然とする魔族達は、それから暫くして突如大声を上げる。


 「「「「また消えやがったあの魔王!!」」」」


〜とある協会にて〜


 祭壇の前で手を組み目の前の像にお祈りをする1人の女性がいた。

 女性は閉じられた瞼を開く。

 開かれた瞼からは金色の瞳が現れる。

 輝く瞳は、威厳に満ちていた。


 「禍々しき魂が消えた」


 小さい声だった。

 だか不思議と耳に残る優しき声。

 女性が先程感じた禍々しい魂の揺めき。

 しかしどういう事だろうか?

 その魂は突如消えた。

 

 「それにあの・・・」


 大きく偉大な魂は何だったのだろう。

 

〜⁇〜


 「それで、お父さんはその世界にいるんだね」

 

 女性が話しかける先には、正座をされている女神がいた。

 女神は考える。

 どうしてこうなったのかと。


 「ねぇ」

 「ひっっ」

 「早く答えてよ」

 「いえあの転生させた者の詳細を教えるのは神としてですね!」

 「は?」

 「ハイソウデス。アナタガタガサガシテイルモノハコノセカイニイマス」

 

 機会の様にカタコトと話す哀れな女神。

 女神の言葉に目の前の女性、そして後ろにいる男女は瞳を輝かせる。


 「その世界に私達を連れて行って」


 ただ一言。

 その一言にどれほどの想いが込められているのだろう。

 しかし、死者でもない者達を連れていくなど出来るはずがない。

 それが神のルールだから!


 「ハイワカリマシタ」


 ダメだった。

 女神は、目の前で圧を飛ばしていた女性に完全降伏してしまったのだ。

 女神は彼女含める10人の男女を異世界に飛ばす事になるのだった。


 「待っててねお父さん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る