7話 サンドバックを殴るのって気持ちいいんだよね
「不味いなぁ」
俺は、目の前でひび割れる空間を前に佇む。
今、目の前で起きている現象は先程読んだ現象と一致する。
つまりは、
「『略奪者』、か」
いや〜本当にどうしよう。
えっ、なんか呑気だって?
ははは、何を言ってるんだよ。
現実逃避だよ。現・実・逃・避!!
目の前の現実に目を逸らす俺の前では、少しずつとヒビが大きくなっている。
そろそろ『略奪者』が現れると思った俺は、身構え迎撃の準備を行う。
逃げるつもりはない。
ここで暮らすと決めたのだ。
徹底抗戦だ!!
アレクシオンは、魔力を練り始める。
それと同時に、俺の周りに幾つもの魔法陣が現れる。
魔法陣からは、炎、氷、雷、風などのあらゆる属性の球体が現れる。
魔法の本を読む事で、魔法の理解を深めるに至ったアレクシオンは、数多くの魔法を発動が出来るようになっていた。
数時間前までは、魔法を手のひらから出していたアレクシオン。
本来、体から離れた所で発動される魔法は、熟練の魔法使いでも簡単ではないと言われている。
このドラゴン、どこまでも天才であった。
ービシビシ、パリンッ!
(来るっ!)
瞬間、空間から異形の怪物が現れた。
獰猛なる犬、狼、クマそれぞれの顔の形を模した、3つの首が現れる。
体は、オオトカゲ、足は紫色の筋骨隆々とした四足歩行。
まさに異形だ。
俺は、それを視界に収めた後、魔法を怪物に向けて解き放つ。
「ギャアウアーー!!」
放たれ続ける魔法を前に怪物は、独特な悲鳴を漏らす。
効いてると感じた俺は、魔法を途切らせずに発動し続ける。
一発一発は対した威力ではない。
それでも数十、数百と撃たれていく魔法を前に怪物はなす術なく攻撃を受け続ける。
アレクシオンは、魔法を放ち続けると共に、新たな魔法を行使する。
イメージするのは1匹の動物。
炎を纏いし虎。
「現れろ!『
叫ぶと同時に現れるのは、毛皮に炎を纏わせた赤い虎だった。
エンコは、燃え上がる体を靡かせ怪物に向かっていく。
怪物は、魔法の猛攻に晒されエンコの接近に気づかない。
エンコは、怪物の近くまで近づくと口を大きく開き、その鋭い牙を持って怪物に齧り付く。
「アッウーーー!!」
怪物は痛みに体を震わせ暴れるが、エンコは離れず牙を更に深く沈ませる。
暫くすると、怪物の体のあらゆる所から炎が溢れ出る。
どうやら齧り付いた先から、炎を吐き出していたようだ。
ここまでは、順調に相手にダメージを与えいったアレクシオンだが、相手は『略奪者』。
このまま順調とはいかず、それは起きた。
「?」
アレクシオンは突然の目眩に、放ち続けた魔法の手を緩める。
その隙を見逃さなかった怪物は、エンコを振り解きその巨躯を此方に向かわせた。
アレクシオンは、微睡む意識で迫り来る怪物を捉えるが、体は動かない。
(まずい)
怪物は、3つの顔のアギトを開き迫るが、瞬間怪物の前に放射された炎が通る。
歩を止めた怪物は、この炎を放った存在のエンコを見据える。
怪物に振りほどかれたエンコは、突然魔法の手を緩めた主を見つめる。
主は、首を揺すりながら体をフラつかせてた。
そんな主に迫り来る怪物。
危機感を感じたエンコは、口を大きくあけ高熱の炎を吐き出した。
怪物は、エンコを煩わしいと感じ、筋骨隆々の足を地面に向け大きく振り下ろした。
大きな振動が迫り来る。
怪物の足元には、大きなクレーターが広がる。
地響きは、エンコのとこにまで伝わり、バランスを崩す。
地響きの振動は、暫く続きエンコは体勢を戻すことが出来なかった。
怪物は再びアレクシオンに方を向き、アギトを開く。
アレクシオンは、これから訪れる痛みに恐れ目を瞑る。
そして、噛まれる感覚を感じアレクシオンは叫ぶ。
「痛っーーーーーん?」
筈だった。
アレクシオンは、目を開く。
怪物は齧り付いてはいた。
それでも何故か痛みを感じない。
いや、あるにはあるんだが、なんだろう甘噛みされているような感覚だった。
『侵略者』の怪物は本気だった。
本気で目の前の黒い竜を噛み殺すつもりだった。
しかし、怪物の牙は黒き竜の鱗に阻まれ通らなかった。
竜の鱗は硬い。
だがそれは、この怪物の牙が通らないというわけではなかった。
では何故アレクシオンには通らないのか。
簡単な事だ。
アレクシオンはどこまでも、『規格外』なのだ。
魔法、肉体、そして、、、
「ん?治った?」
耐性も。
本来この怪物に備わっていた力は万物の者を『眠らせる』能力だった。
力を使った瞬間、その者を“永遠“の眠りにつかせる。
実に厄介で危険な力だが、アレクシオンとってはウトウトするだけだった。
それも、少しすれば意識を取り戻す。
この怪物の力が弱かったわけではない。
ただ相手が悪かっただけだ。
アレクシオンは、意識が安定するといまだに齧り付いている怪物を見据える。
その目は、いや顔は、悪ガキを懲らしめようとする顔だった。
「おい、いつまで齧り付いてるんだ?」
アレクシオンは、尻尾を怪物の3つの首に巻き付け持ち上げる。
怪物の体は少しずつ浮き上がる。
アレクシオンは二足歩行になり片腕を振り回す。
そして、、、
「オラァーーーーーーーーーーーッ!」
ドン!!
とても殴り付ける音ではなかった。
アレクシオンは反対の腕を怪物に叩きつける。
ドン、ドン!!
2発3発アレクシオンは、殴り付けるのをやめない。
殴って殴って殴り続ける。
それはまるでサンドバックを殴る様に続く。
その間怪物は抵抗するが、アレクシオンには通用せず、やがては、、、
「勝ったーー!」
俺は、竜の体で持って両腕を高く掲げる。
俺の前では、力無く倒れる怪物。
怪物の体のあちこちは、歪み、焦げ、凍っていた。
あの後もアレクシオンは、殴り続けると同時に魔法を展開した。
アレクシオンの一方的な攻撃に歯が立たず怪物は息絶えた。
こうして、『略奪者』との戦いを無事に終わらすアレクシオンであった。
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