5話 女の子に抱きつかれるのっていいよね!
「気高き黒の竜!アレクシオンよ!!妾の名はーー」
目の前で、高い声を響かせる少女を前に俺は思う。
なんでこうなったんだっけ?
♢
〜時は少し遡り〜
ルーさんと別れた俺は、再び泉近くまで来て魔法の練習を行った。
とは言え、参考書も何もない状態で闘するんだという事になると思うが、そこは不思議な事になんとなく分かるんだよ。
これもまた、特典の効果の『才能』の部分が関係していることを、この竜は知らない。
「先ずは風の魔法を使ってみよう」
なんで風の魔法にしたかって?
空を飛びたいんだよ!!
翼があるだろう?
そうなんだけど使い方が分からなく。
だから仕方ない。
風魔法で空を飛ぼう!
イメージしろ。
風に靡く俺の姿を!
大地に舞う俺を!!
少しずつ、しかし確かに上がっていく視野を前に俺は感動をしていた。
「おお!飛んでる。俺飛んでる!!」
バサバサ
背中から感じる音すら心地良く感じる俺は酔いしれた。
ん?
背中?
俺は首を後ろに回し自分の背中を見つめる。
そこには、規則正しく上下に動く俺の翼があった。
「・・・」
ふざけんなぁ!!
なんだったたんだよさっきまでのくだり!
翼で飛んでんじゃん!
風魔法使おうとしていた意味がないだろ!
ま、まぁいい。
結果オーライだ。
今は空を飛べる様になったことを噛み締めよう。
それじゃあ空の旅に行こう!
♢
「うおぉぉーー、早い早い。最高!!」
猛スピードで変わりゆく景色に、俺は興奮を滲ませた雄叫びをあげる。
自分で操作の出来るジェットコースターに乗っている感じだ。
左右上下に前後ろ、一回転に急停止。
様々な動きで、空の旅を楽しんだ俺は元の泉に戻った。
「楽しかった〜」
俺は、満足げに頷き余韻に浸っていた。
そんな時、近くから物音がした俺はそちらの方に視線を移した。
視線の先には、綺麗な金髪を靡かせたルーさんがいた。
「アレクシオン様!」
俺の姿を捉えたルーさんは、笑顔を浮かべこちらに近づく。
そんなルーさんの後ろには、何名かの人と荷車があった。
人達は俺の姿を見つめ震える。
無理もない。
なんせ今の俺は、彼等の何倍も大きい竜だからな。
俺だってビビる。
だが、ルーさんは彼等と違い俺に近ずく。
俺は顔を地面に付けルーさんを待つ。
やがてあと一歩まで近づいたルーさんは、突然俺の顔に抱き着いた。
いやなんで!?
「あ〜お会いしたかったです。アレクシオン様」
俺に抱きつき嬉しそうにするルーさん。
喜んでくれるのは嬉しいよ。
嬉しいんだけど。
俺と君さっき会ったばっかりだよね?
別れてから半日も経ってないよ?
それなのになんだろう、この懐きっぷり。
うーん、、なんか子供達を思い出すな。
ルーさんの突然の行動に驚いたのは、俺だけではなく一緒に来ていた人達もだ。
しかし、ルーさんの突然の行動にも不快感を表さなかったのが良かったのか、人達は緊張感が抜けこちらに会釈をする。
「あれが、ルーさんの言っていた黒い竜」
「確かにデケェー」
「俺、竜なんて初めて見た」
「本当に襲われないんだよな」
色々言ってる気がするが俺は特に気にせずじっとしている。
正確に言うと、まだ抱き着いてるルーさんがいる為動けないが正しい。
どうしようかと悩む俺だが、人達が来た森の奥からキラキラした衣装を着た少女が現れる。
その少女は、薄い青髪を靡かせ、幼く愛らしい顔をしていた。
それでいて、身にまとう服装は水色のドレスであり、頭には銀色のティアラが添えられていた。
まるで、何処かのお姫様みたいだ。
見た目だけは。
「おお!!お主がルーの言っていた黒い竜だな!!」
開口一番甲高い声を上げる少女。
見た目の可憐さとは裏腹に元気な少女の様だ。
突然現れる少女に慌てる人達。
「お嬢様!現れないでください!」
「大人しく遠い所で見ると約束したではありませんか」
「ええぃやかましい。妾の道を妨げるな!」
元気な少女・・・うん。
違うな。
お転婆な少女の様だ。
それにお嬢様と言われてたな。
やっぱり結構良い所のお嬢様みたいだ。
そんなお嬢様は、俺の元まで近づき声を上げる。
♢
〜冒頭に戻る〜
「気高き黒の竜!アレクシオンよ!!妾の名はレミリヤ!レミリヤ・ボーン・ブルク!!」
おお、ルーさんと違って覚えやすい。
少女の自己紹介に最初に感じたのはそれだった。
いや俺もどうかと思うよ。
女の子の自己紹介に感じるのがそれなのは。
でもさ、しかないじゃん。
この世界に来て初めて聞いた名前がルーさんなんだぜ。
何だったけ?
ルールールル?
ああだめだ。
やっぱりルしか覚えられない。
ごめんねルーさん。
ていうかいつまで抱き着いてだよルーさん。
「ご丁寧にどうも。俺の名前はアレクシオン。見ての通り竜だけど敵意はないよ」
「その様だの」
俺の紹介にレミリヤさんは頷き、後方にいる人達に呼びかける。
「おい、お主等いつまでそこにおる。早う荷物を持ってこい」
「は、はい!」
レミリヤさんの指示に人達は荷車から物を持ってきた。
それは俺が、ルーさんに頼んだ本や娯楽その他の様々な荷物があった。
「これは、ルーが頼まれていた品と挨拶の品だ」
「挨拶の?」
「そうじゃ。こちらとしては主と友好を築きたいからのう」
なるほど。
それでこんなに。
こちらも俺をしないと。
俺は自身の鱗を1枚引き抜きレミリヤさんに渡す。
「これは?」
「俺の物です」
「良いのか、これ1枚とではこちらは釣り合わないが?」
「良いんですよ。これからもお世話になると思いますし」
「うむ。なるほど、それではこの鱗は有り難く頂こう」
レミリヤさんは、近くに居る人を呼びつけ1つのケースを持って来させた。
そのケースに鱗を入れ大事そうに抱え込むレミリヤさん。
「有意義な時間だった。また近々来るぞ」
そう言って、人達を引き連れ去っていくレミリヤさん。
ルーさんを置いて。
・・・置いてくのかよ!!
♢
それから暫く経ちルーさんはここに来るまでの事を話し始めた。
どうやら、俺の血で薬を作るために薬師の元まで向かったルーさんは、そこで材料の血を渡したが、受け取った薬師は俺の血に物凄く驚き騒いだようだ。
そこに偶々現れた、街の領主の関係者が血の出所を聞いた様で、それに素直に答えたルーさんは領主の館まで呼ばれた様だ。
そこで、俺の事を説明して興味を持った領主は、俺に会おうとしたようだ。
しかしいきなり領主が会いに行くのはまずいだろうと言うことで、一緒に聞いていた領主の娘が行くことになった様だ。
領主の娘って、レミリヤさんやっぱりお偉いさんだったのか。
「なるほど、そう言う経緯だったんですね」
「はい!ご迷惑だったでしょうか?」
「いえ、こちらとしても友好関係が広がるので助かりました」
「えへへ」
ルーさんはだらしなく頬を緩ませる。
それはとても可愛いのだが、突っ込ませてくれ。
いつまで抱き着いてんだよ!!
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