5話 女の子に抱きつかれるのっていいよね!

 「気高き黒の竜!アレクシオンよ!!妾の名はーー」


 目の前で、高い声を響かせる少女を前に俺は思う。


 なんでこうなったんだっけ?



〜時は少し遡り〜

 

 ルーさんと別れた俺は、再び泉近くまで来て魔法の練習を行った。

 とは言え、参考書も何もない状態で闘するんだという事になると思うが、そこは不思議な事になんとなく分かるんだよ。

 

 これもまた、特典の効果の『才能』の部分が関係していることを、この竜は知らない。


 「先ずは風の魔法を使ってみよう」


 なんで風の魔法にしたかって?

 空を飛びたいんだよ!!

 翼があるだろう?

 そうなんだけど使い方が分からなく。

 だから仕方ない。

 風魔法で空を飛ぼう!


 イメージしろ。

 風に靡く俺の姿を!

 大地に舞う俺を!!


 少しずつ、しかし確かに上がっていく視野を前に俺は感動をしていた。


 「おお!飛んでる。俺飛んでる!!」


 バサバサ

 

 背中から感じる音すら心地良く感じる俺は酔いしれた。

 ん?

 背中?

 俺は首を後ろに回し自分の背中を見つめる。

 そこには、規則正しく上下に動く俺の翼があった。

 

 「・・・」


 ふざけんなぁ!! 

 なんだったたんだよさっきまでのくだり!

 翼で飛んでんじゃん!

 風魔法使おうとしていた意味がないだろ!


 ま、まぁいい。

 結果オーライだ。

 今は空を飛べる様になったことを噛み締めよう。


 それじゃあ空の旅に行こう!


 

 「うおぉぉーー、早い早い。最高!!」


 猛スピードで変わりゆく景色に、俺は興奮を滲ませた雄叫びをあげる。

 自分で操作の出来るジェットコースターに乗っている感じだ。

 

 左右上下に前後ろ、一回転に急停止。

 様々な動きで、空の旅を楽しんだ俺は元の泉に戻った。


 「楽しかった〜」


 俺は、満足げに頷き余韻に浸っていた。

 そんな時、近くから物音がした俺はそちらの方に視線を移した。


 視線の先には、綺麗な金髪を靡かせたルーさんがいた。


 「アレクシオン様!」


 俺の姿を捉えたルーさんは、笑顔を浮かべこちらに近づく。

 そんなルーさんの後ろには、何名かの人と荷車があった。

 人達は俺の姿を見つめ震える。

 無理もない。

 なんせ今の俺は、彼等の何倍も大きい竜だからな。

 俺だってビビる。

 

 だが、ルーさんは彼等と違い俺に近ずく。

 俺は顔を地面に付けルーさんを待つ。

 やがてあと一歩まで近づいたルーさんは、突然俺の顔に抱き着いた。

 いやなんで!?


 「あ〜お会いしたかったです。アレクシオン様」


 俺に抱きつき嬉しそうにするルーさん。

 喜んでくれるのは嬉しいよ。

 嬉しいんだけど。

 俺と君さっき会ったばっかりだよね?

 別れてから半日も経ってないよ?

 それなのになんだろう、この懐きっぷり。

 うーん、、なんか子供達を思い出すな。

 

 ルーさんの突然の行動に驚いたのは、俺だけではなく一緒に来ていた人達もだ。

 しかし、ルーさんの突然の行動にも不快感を表さなかったのが良かったのか、人達は緊張感が抜けこちらに会釈をする。


 「あれが、ルーさんの言っていた黒い竜」

 「確かにデケェー」

 「俺、竜なんて初めて見た」

 「本当に襲われないんだよな」


 色々言ってる気がするが俺は特に気にせずじっとしている。

 正確に言うと、まだ抱き着いてるルーさんがいる為動けないが正しい。

 どうしようかと悩む俺だが、人達が来た森の奥からキラキラした衣装を着た少女が現れる。


 その少女は、薄い青髪を靡かせ、幼く愛らしい顔をしていた。

 それでいて、身にまとう服装は水色のドレスであり、頭には銀色のティアラが添えられていた。

 まるで、何処かのお姫様みたいだ。

 見た目だけは。


 「おお!!お主がルーの言っていた黒い竜だな!!」


 開口一番甲高い声を上げる少女。

 見た目の可憐さとは裏腹に元気な少女の様だ。

 

 突然現れる少女に慌てる人達。


 「お嬢様!現れないでください!」

 「大人しく遠い所で見ると約束したではありませんか」

 「ええぃやかましい。妾の道を妨げるな!」


 元気な少女・・・うん。

 違うな。

 お転婆な少女の様だ。

 それにお嬢様と言われてたな。

 やっぱり結構良い所のお嬢様みたいだ。

 そんなお嬢様は、俺の元まで近づき声を上げる。


〜冒頭に戻る〜


 「気高き黒の竜!アレクシオンよ!!妾の名はレミリヤ!レミリヤ・ボーン・ブルク!!」


 おお、ルーさんと違って覚えやすい。

 少女の自己紹介に最初に感じたのはそれだった。

 いや俺もどうかと思うよ。

 女の子の自己紹介に感じるのがそれなのは。

 でもさ、しかないじゃん。

 この世界に来て初めて聞いた名前がルーさんなんだぜ。

 何だったけ?

 ルールールル?

 ああだめだ。

 やっぱりルしか覚えられない。

 ごめんねルーさん。

 ていうかいつまで抱き着いてだよルーさん。


 「ご丁寧にどうも。俺の名前はアレクシオン。見ての通り竜だけど敵意はないよ」

 「その様だの」


 俺の紹介にレミリヤさんは頷き、後方にいる人達に呼びかける。

 

 「おい、お主等いつまでそこにおる。早う荷物を持ってこい」

 「は、はい!」


 レミリヤさんの指示に人達は荷車から物を持ってきた。

 それは俺が、ルーさんに頼んだ本や娯楽その他の様々な荷物があった。

 

 「これは、ルーが頼まれていた品と挨拶の品だ」

 「挨拶の?」

 「そうじゃ。こちらとしては主と友好を築きたいからのう」


 なるほど。

 それでこんなに。

 こちらも俺をしないと。

 俺は自身の鱗を1枚引き抜きレミリヤさんに渡す。


 「これは?」

 「俺の物です」

 「良いのか、これ1枚とではこちらは釣り合わないが?」

 「良いんですよ。これからもお世話になると思いますし」

 「うむ。なるほど、それではこの鱗は有り難く頂こう」


 レミリヤさんは、近くに居る人を呼びつけ1つのケースを持って来させた。

 そのケースに鱗を入れ大事そうに抱え込むレミリヤさん。


 「有意義な時間だった。また近々来るぞ」


 そう言って、人達を引き連れ去っていくレミリヤさん。

 ルーさんを置いて。

 ・・・置いてくのかよ!!


 

 それから暫く経ちルーさんはここに来るまでの事を話し始めた。

 

 どうやら、俺の血で薬を作るために薬師の元まで向かったルーさんは、そこで材料の血を渡したが、受け取った薬師は俺の血に物凄く驚き騒いだようだ。

 そこに偶々現れた、街の領主の関係者が血の出所を聞いた様で、それに素直に答えたルーさんは領主の館まで呼ばれた様だ。

 そこで、俺の事を説明して興味を持った領主は、俺に会おうとしたようだ。

 しかしいきなり領主が会いに行くのはまずいだろうと言うことで、一緒に聞いていた領主の娘が行くことになった様だ。

 領主の娘って、レミリヤさんやっぱりお偉いさんだったのか。

 

 「なるほど、そう言う経緯だったんですね」

 「はい!ご迷惑だったでしょうか?」

 「いえ、こちらとしても友好関係が広がるので助かりました」

 「えへへ」


 ルーさんはだらしなく頬を緩ませる。

 それはとても可愛いのだが、突っ込ませてくれ。

 

 いつまで抱き着いてんだよ!!

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