3話 騙す方が悪いのか、騙されるのが悪いのか
「うっ、うーん。ここは?」
目を開いて最初に見えた景色、辺り一面に広がる木々とその中央に広がる湖。
女神の奴〜こんな所に転生させやがって。
俺は“首を伸ばし“女神に悪態をつける。
うん?
そう言えば景色が高いような?
あれ?
首を伸ばす?
・・・俺は嫌な予感がして、恐る恐る自分の体を見る。
・・・・・・・・・・・・・は!?????????
「はあぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
なになにどう言う事どう言う事なの!?
見た先にある俺の体は黒い鱗に覆われていて、爪先は鋭く尖っており、尻尾まで付いてる。
俺は近くにある湖で自分の顔を確認する。
顔も黒い鱗で覆われており瞳も猫の様な形をしていて黄金色だった。
「はあぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
本日2度目の叫び声を上げる。
イヤイヤおかしいだろ!!
何これ?
人間じゃないじゃん!!
竜じゃん!!
何やってるんだよあの女神!
確かに《最強転生》って人間とは書かれてないけど。
オススメしてただろ!
まさか人外転生と思うわけないだろ!
それからも俺は暫くの間、女神に対して文句を言い続けるのだった。
♢
「まっ、なったもんは仕方ない。前向きに考えよう」
竜って事は、強いんだよな。
《最強転生》と書かれるぐらいだから。
よし、そうと決まれば食料探しだな。
水はここにあるから、ここを拠点として周りを見てみようか。
ドスンドスン
ドラゴンの体で歩いてみたけど、あまり違和感を感じなかった。
四足方向だから勝手が違うのかと感じたけど、人間の頃と変わらずに歩いているようだ。
それにしても、食料を探してから大分経つけど見つからないなぁー。
そんな事を考えている、
カサカサ
近くに草木から音がして、その方向を見る。
草木から飛び出てきたのは、でっかいツノと牙が付いている巨体の猪だった。
それにしてもデカいな、地球にいる猪の何倍だろう?
おっ、目が合った。
「・・・・」
暫く見つめ合ってると、猪が突っ込んで来た。
やばっどうしよう。
俺は慌てふためいたが、それとは別に体が勝手に動いた。
残り数センチの所で、俺の右前足が猪の側頭側を殴り付ける。
殴られた猪は、木々を薙ぎ倒しながら数十メートル程ぶっ飛ぶ。
おぉ〜〜強えー
自分の事ながら他人事の様に感じてしまう。
俺は、飛んで行った猪の元まで向かう。
猪は死んでいた。
初めて動物?を殺したけど特に罪悪感などは感じなかった。
これが竜になったからなのか、元々の性分なのかはわからないけど、何はともあれ、
「食料ゲットたぜ!」
♢
猪を湖近くまで運んだ俺は、改めて猪の死体を見つめる。
「今の俺ならこのままでも食えるかな?」
いや違うよ!
俺別に人間辞めた訳じゃないからね!
分かるよ!
そのまま食うなんてお前は獣畜生に堕ちたなって!
そう言いたいんだろ!
フッフッン、ざーんねんでした。
今の俺は竜なんだよ!
あっ、、、人間辞めてた。
1人で、バカな事をして楽しんでる竜って、他の人からすればどう見えるんだろう。
「さて、ものは試しだ。いただきます」
俺は口を大きく開け猪の体を頬張る。
グチャボキボリグチュグチユ、、ゴックン
「・・・」
正直に話そう。
普通に美味しかった。
えっそれだけかって?
他にどう表せと?
獣を血抜きも毛皮も剥がさずに食べる奴なんていないだろ。
少なくとも俺はしらねぇ。
つまり何だ。
言語化できないから、お前らも試してみろって話しだ。(※人間でこんな真似をしてはいけません)
♢
猪を食べ終わった俺は、引き続き森の探索を行なった。
猪は途中までそのまま食べていたが、やっぱり俺も感性などは人間なので、焼いて食べました。
火のでどころとしては、ドラゴンだからブレスを出せるだろうと口を開けて、俺は思い止まる。
火を出す為にブレスはやり過ぎだろうと。
そこで俺は、魔法を使ってみる事にした。
やり方はわからないので、頭の中で火をイメージして指先に力を込めると・・・なんか出来た。
意外と簡単に出来たと喜ぶ俺は、火力を調節し猪を焼いた。
本来この世界での魔法と言うのは、呪文を唱えるか、式や文字を介して、発動させるのが常識だ。
これが、熟練の魔法使いなどであれば短文、無詠唱などを可能にするが、初めて魔法を使う者では不可能とされる。
これには、"最強転生“に合ったあらゆる《才能》が関係する。
女神が言う、この《才能》があまりにも常識外れだけである。
そんな事を知らない竜は、この世界の魔法は難しくないなと感じるのだった。
俺は森の中を歩き続けていると、遠方から何者かの叫び声が聞こえた。
竜になってから、五感が冴え渡っており、普段聞き流す音でもちゃんと拾えた。
「誰か、助けて!」
俺は声のする方に向かって走る。
ちなみに空は飛ばない。
翼の動かし方がいまいちよく分からなくて。
助けの求める場所に向かってみれば、案の定エルフの女性が、蜘蛛の見た目をした魔物に襲われていた。
俺は蜘蛛の魔物に体当たりする。
蜘蛛の魔物は宙に浮かび上がるが、器用な事に一回転して、バランスを取り着地した後に、突然現れた俺に威嚇をしてくる。
俺は、蜘蛛の魔物からエルフを庇うように前に立ちはだかり蜘蛛の魔物に向けて先程使った魔法を打ち込む。
手の先から放たれる業火に蜘蛛は横に飛ぶ事で回避する。
が、避けた先にもう一つの業火があり、流石の蜘蛛もこれには回避できずに直撃を喰らう。
「残念だったな。今の魔法だったら連続で放てるんだよ」
「すごい」
蜘蛛の魔物を倒した事で満足した俺は、エルフの女性に向き直る。
エルフの女性は先程の俺の魔法を見て、驚いているようだった。
しかし、俺が向き直る事によって、食われるのかと思ったのか、顔を恐怖で引き攣らせた。
「大丈夫ですか」
「ひっ、食わ・・・っえ?」
自分を心配する声に、驚きの声を上げるエルフの女性に対し、俺は腰を落とし顔だけを近づける。
「大丈夫ですよ。貴方を食べるつもりはありません」
なるべく怖がらせないように、優しい声を意識した。
女性もその言葉に少し安堵するも、いまだに警戒は解かない。
そりゃそうだ。
目の前に自分よりもデカい生物がいれば恐怖や警戒ぐらいする。
まずは、警戒を解く為にも自己紹介からしよう。
「俺の名前・・・は」
やべ!よくよく考えてみれば、名前どうしよう。
地球にいた頃の名前を使うのも違う気がするし、えーとえーと。
「アレクシオンと言います」
悩み抜いた末に考えついた名前は、地球にいた頃の息子がよくゲームに使っていた名前を借りる。
(そういえば、あの子はゲームが好きで、プロゲーマーになるとか言ってたな)
俺はなるべく子供達のやりたい事を尊重して応援をしていた。
昔を懐かしみ遠い目をしていた俺に、エルフの女性が自身の名を言う。
「助けていただき感謝いたします。私の名前はルールーフ・フルベル・ルクレルオンと申します」
ん?
なんだって?ルしか聞き取れなかったぞ?
えっ!?異世界の人達ってみんなこんな感じの名前なの?
どっどしようやっていけるかな?
「えっと、ルーさんとお呼びしてもよろしいでしょうか」
「はい、構いません」
ルーと呼んだ際、長い耳元がピクと動きダメだったかと感じた俺だが、大丈夫だったようだ。
ルーさんは、ザ・エルフという感じの見た目をしていて、金髪碧眼であり髪は背中まで伸ばされており、スレンダーながらも、その肌は白く艶があった。
「ルーさんはここにはなにし?」
とりあえず、会話を広げる為にも俺は、ルーさんに質問をする。
「薬草をとりに来ました」
ルーさんの話を聞くと、どうやら依頼で病気の子の為の薬草が必要で、それはこの森の奥側の方にしか生えていないらしく、こうしてとりに行こうとした時に蜘蛛の魔物に襲われたみだいだ。
「そうですが。それは災難でしたね」
「いえ、こうして助けていただきましたから」
そうして、俺に改めてお礼をしてくる。
そして少し長い沈黙が起きた。
沈黙の間、なぜかルーさんは瞳を忙しなく動かしていた。
心なしか体全体もソワソワし始めて落ち着きがない。
やがて、意を決したように顔を俺に向けて言う。
「貴方の血を頂けませんか!」
「は!?」
どうやら、俺はルーさんからとんでもない事を頼まれるのだった。
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