2の中2「ドラゴン 産地直送する!」
ドラゴンの朝は早い。日の登る前から街を出て、ガストとタツは近くの森へと向かっていた。背中には重たそうな狩りに使う武器や解体道具を背負っている。街を出て数刻ほどたっただろうか、
「ガストさんは、ドラゴンなんでしょ?ドラゴンの姿になって飛んでいけばすぐじゃないですか?」
実際その通りでガストは純血のドラゴンだ、今は人の姿に変身してはいるが変身を解けば全長20mにもなる立派なドラゴンの姿に成れると聞く。
「あんた狩りは初めてかい?ドラゴンが上を飛んでいたんじゃどんな獣だってすぐに隠れちまう。だからこうしてテクテク歩いて狩場まで行くのさ。あとガストじゃなくてガストレドって呼びな」
「なるほどそうなんですね・・・」
名前の件には触れないでおく。という事で今日は近くの森へ食材の調達に来ていた。狙うのは肉・・・野生の獣を狩るのである。
猟場の近くへときたら不要な道具を地面に置き、武器だけをもった身軽に狩りができる態勢を整える。
タツの獲物はギルドから支給された両刃の西洋剣。日々の鍛錬の甲斐あって、愛刀の村正とまでとはいかないもののそれなりには扱えるようになっていた。対してガストさんはというと武器を持たずの素手ごろ、さすがドラゴンだな―と奇異な目で見るタツの視線に気づいたのか・・・
「あたしはこの拳があれば十分さ!」
やっぱり拳で殺るんですね、ガストさんは拳を突き出しガッツポーズをきめる。分厚い鱗のあるドラゴンの手は刃も通さないような堅牢さで、その下の筋肉は言わずもがな太さに見合わない膂力をありありと感じさせる。あんた一人いれば俺の手伝いなどいらんでしょ・・・、などとは口が裂けても言えない、飯を食わせてもらった恩もある。
藪の中をガサゴソとかき分けながらさらに歩くとそこには
クマがいた。
しかも元居た世界よりも倍ほどデカい。ガストさんが狩りの手はずを指示する。
「アタシが先に出て注意をひくから、あんたは隙をみて急所をついて仕留めてくれ」
ドラゴンの拳で殴ればあんなクマなんてイチコロでしょうに。しかし彼女が言うには
「殴って仕留めると内臓出血して肉がまずくなるんだ」
だそうだ、どうやらタツも覚悟をきめる他ないらしい。
手筈を整えるとタツはクマの後ろ側へと回り込む。タツが配置に着いたのを確認するとガストはクマの前へさっそうと飛び出す。驚いたクマは咆哮とともにガストさんへと飛び掛かる
「子供たちの為だ、あんたには美味しい料理になってもらうよ」
クマの薙ぎ払うような爪の猛攻を易々といなしガストさんはクマの頭や分厚い脂肪に覆われた腹めがけて拳を叩き込む。1発2発、本気ではないのだろう、しかしボディブローの様なじわじわ効いてくる嫌な攻撃だ。的確にクマのHP・・・体力を削っている。
「グォォォオン・・・」
クマが悲鳴の唸り声をもらす。勝てないことを悟ったのか、クマはくるりとその身を翻し一目散に逃亡をしようとする。しかし逃げた先にはタツが剣を構えていた。
四足で体を倒してタツめがけて全力で走ってくるクマ。急所はどこか?ノドか心臓か?四つん這いの相手ではどちらも的確に狙うのは難しい。
考えている間にもクマはその距離を詰めてくる。狙うべき急所は・・・目だ!
タツの剣がクマの両目を鋭く切り払う。両目をつぶされたクマは混乱して怯み、身を大きく上げタツを威嚇する。立ち上がった隙をつき、タツはクマへ飛び掛かる。そして無防備な喉元めがけて剣を突き立てる。
やったか?クマの体から力が抜け剣を伝いズシリとその重さが伝わる。
「ハァハァ・・・」
クマの死を確認しタツもようやくから体の緊張を解く。
「おい油断するな!」
ガストがタツに向けて叫ぶ。その瞬間、クマの手が大きく振り上げられタツの胸元へ一気に振り下ろされる。完璧に油断していたタツはよける余裕も無く袈裟斬りのようなクマの一撃をもろにその身に受けてしまう。
最後の抵抗だったのか、その一撃と共にクマは脱力し地面に倒れこむ。
風が優しく肌を撫でている・・・。今日も空は晴れ渡り気持ちの良い天気だ
「起きたかい?」
ガストさんが声をかける。ベッドの上にでも寝かされているのか?それにしてはゴツゴツとしてお世辞にも寝心地が良いとは言い難い。周囲を見回すとタツは空の上にいた。そして寝ていたのはベッドではなく、ドラゴンの背の上。タツと一緒に並ぶのは先ほど仕留めたクマだ。タツとクマは他の荷物と一緒にロープでドラゴンの背に括り付けられている。
「初めての狩りにしちゃ上出来だよ。いやー無能のクセになかなか腕がたつじゃないか」
ドラゴンは呑気な声でタツを労う。
「警護団の嬢ちゃんが言うとおりだったね」
警護団の嬢ちゃん・・・、先日俺に首を申し付けたベル・ディントンか。ベルの顔が頭に浮かぶ、どうやら俺の事を気にかけてくれていたらしい。まあおかげでこんな無茶もさせられたわけだが・・・。タツは起き上がろうとすると胸に鈍痛が走る。
「・・・!?」
「おっと動くんじゃないよ、大事はないと言え、胸当てが無ければ即死だったんだ」
タツの横にはクマの爪痕がついたデカデカとついた銀色の胸当てがぶら下がっている、結び紐は衝撃で切れたのかちぎれるように切れてクマの最後の一撃の衝撃を物語っている
なるほどこの胸当てには助けられたな。さすがは警護団の支給品だ、クビになった腹いせに拝借してきて良かったぜ。心の中で警護団に感謝の言葉を述べてタツは残りの空旅を呑気に楽しむ。空の上から眺める異世界っていうのも乙なものだ。はるか遠くにはスタートアップの街が望める、しかしこの速度ならあと半刻もすれば着くのだろう。
クマはしっかりと血抜き処理がされている。帰ったらこいつで子供たちに料理を作ってやらねば・・・また手伝わされるんだろうな。まったく人使いが荒いドラゴンだぜ。
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