第64話 トップクラン20

「頑張れ! あと少しだ!」


「あんた凄いな! ぜひ反乱軍に入ってくれよ!」


「……ふふ、考えておこう」


 5分間もの間、銀華は絶えず降り注ぐ光線の雨からボブキャットを守り続けた。さすがの銀華と言えど、著しく集中力を消耗しており、顔には疲れの色が見えた。しかし、2番艦スレイプニルはもう目の前だ。


 大きな8枚の翼を有する宇宙戦艦、スレイプニル。帝国軍が保有する戦艦の中でも随一の高速艦にして万能艦で、多種多様な武装を搭載しており、状況対応能力が極めて高い。


「どこでも構わん! スレイプニルに近づけ!」


「了解です!」


 スレイプニルの甲板上にならぶ砲口という砲口がボブキャットに向けられる。


「銀華! 戦艦の大砲は爆発属性を持っているから、あんたの刀じゃ防ぎ切れない! 船内に戻れ!」


「しかしそれでは!」


「大丈夫です! ここまで近づけば後は────!」


 操縦士のプレイヤーが、ガラスカバーに覆われた『OVERDRIVE』と書かれたボタンを見つめ、拳を振り上げる。


「リアクターをオーバードライブします! 後は頼みましたよお二方!」


 ガラスカバーを打ち砕き、ボタンを押す。エンジンが轟音を立てて輝き、ボブキャットの像が歪む程の分厚いバリアがボブキャットの正面に展開される。


 船内に戻ってくる銀華。ライデンはハンマーを実体化させる。操縦士は、アクセルペダルを限界まで踏み込んだ。


 降り注ぐ砲弾の雨を突き破ってスレイプニルに突進するボブキャット。スレイプニルの甲板がみるみるうちに近づいてくる。操縦士はトリガーを握り込み、ありったけの光線を甲板に撃ち込む。


「衝撃に備えろォ!」


 轟音と衝撃、船内に激しく火花が飛び散る。甲板を突き破るボブキャットのコックピット。モニターがダメージで消灯し、船内に警報が鳴り響く。


「リアクターが爆発します! 早く外へ!」


「ああ! 後は任せろ! うるああああッ!」


 歪んで、開閉できなくなったハッチをライデンがハンマーで破壊する。ハッチから飛び降り様に、銀華は操縦士の方へ振り返った。


「かたじけない!」


 操縦士は無言で笑い、親指を立てる。銀華は頷いてスレイプニルの中に飛び込んだ。操縦士の両足は、著しいダメージ判定によって切断されていた。


◆◇◆


 銀華達が突っ込んだ船室は滅茶苦茶に破壊されており、数人の帝国兵達が死体になっていた。


「急いでここを離れるぞ! と、その前に。────承諾ボタンを押せ!」


 ライデンは銀華にパーティー招待を送る。銀華がそれを承諾し、パーティーに加入する。


「行くぞ! 俺以外のプレイヤーは全員叩き斬れ!」


「うむ」


「うるあああッ!」


 そう言ってライデンは船室のドアを叩き壊し、廊下に飛び出た。


 廊下では帝国兵達が二人を待ち構えていた。


「撃て────ッ!」


 襲い掛かる弾丸の雨を銀華が全て叩き斬る。


「な、何ィ!?」

「分隊長! あの女、無差別PKerの銀華です!」

「こいつが!?」


「どけええええッ!」


 ライデンは腕を盾にしながら帝国兵達に突っ込み、ハンマーの一振りでプレイヤー達を木端微塵に粉砕する。勢い余ったハンマーは廊下の壁をも破壊し、その衝撃で廊下の照明がちらつく。


「ぐああああッ!?」

「ば、馬鹿な!? 通常攻撃一振りだと!?」

「ライデンだ! 戦神のライデンだ!」


 ライデンがハンマーを振る度に帝国兵達はポリゴンの破片となって砕け散り、衝撃と轟音がスレイプニル中に響き渡る。赤いハザードランプの点灯と共に警報が鳴り響き、分厚い鋼の隔壁が天井から降りてきて廊下を閉ざそうとするが、その隔壁すらもライデンを止められない。


(なんという戦い方だ……まるで鬼神だ)


 ライデンの戦い方はまさに滅茶苦茶。ステータスの暴力による脳筋ゴリ押しであった。


「クソ! この狭い廊下じゃどっちか一人しか戦えんな! ここは俺に任せて、ブリッジにつくまで少し休め!」


 銀華は少し驚いたようだったが、穏やかに微笑んだ。


「そうだな、そうさせて貰うとしよう」


◆◇◆


「クソ……ライデンだな」


 警報が鳴り響くスレイプニルのブリッジで、ロキは忌々しげに吐き捨てた。激しい戦闘の音と振動が、このブリッジにまで響き渡っている。


「"ブリッジ! ブリッジ! 至急応援求む! 至急応援求む────ッ!"」

「"うわあああッ"」

「"────ああ────ロキイイイ! ───こだあああ!"」

「"ぎゃああああッ!"」


「まずいです! 侵攻を止められません!」


 その時、一際大きな爆発音がして、スレイプニルの甲板に爆炎が立ち上った。船が軋み、大きく揺れる。


「甲板に突き刺さっていたボブキャットが爆発しました。やはり、リアクターをオーバードライブさせていたようです」


「だろうな、そうでなければスレイプニルの主砲攻撃に耐えられるはずがない。しかし、まさかあの包囲網を突破して俺の船にまでたどり着くとは……」


「報告によると、どうやら何者かが剣で光線を弾いてボブキャットを守りながら包囲網を突破したようです」


 ロキは呆れてため息をつき、やれやれと首を振った。


「……十中八九、銀華とかいう無差別PKerだろう。光線を剣で弾いた……という逸話を聞いたことがある。そうでなければ『サムライニンジャ』のムサシか、或いは『ターミナルオーダー』のルミナか……ライデンだけならともかく、ライデンと互角の化け物が二匹となれば、我々では対処の仕様がない」


「では、いかがなさいますか」


、緊急潜航用意」


「はっ!」


 ロキの命令に、帝国の操縦士達はテキパキと操作盤を操作する。


「区画B-4からB-18までの接続ボルト、分離!」


「同時に急速潜航を開始します!」

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