第65話 トップクラン21

 激しい爆発音と共に、ライデンと銀華の立っている場所が大きく揺れる。


「……ボブキャットが爆発したようだ」


「操縦士殿……」


「行くぞ、ブリッジに居るロキを倒せば少しは戦況が好転するはずだ」


「あぁ」


 二人が道を急ごうとしたその時だった。再び船が大きく揺れ、二人は身構える。


「今度は何だ!」


 次の瞬間。目の前の廊下が真っ二つに割れ、。銀華は目を丸くする。


「なっ!」


「しまった! やられた! ロキの野郎、この区画ごと俺たちを始末する気だ!」


 銀華とライデンのいる区画を残して、スレイプニルは急降下していく。


「くっ!」


 さっきまで廊下があった場所が宇宙空間と入れ替わったせいで、外に向けて暴風が吹き荒れる。二人はやむを得ず廊下の壁にしがみつく。


「いかん! 逃げられる!」


 廊下の切り口から下を覗くライデン。どんどん遠ざかっていくスレイプニルの砲塔が回転し、一斉にこちらを向く。ライデンは銀華の方へ振り向いた。明らかに疲れた様子の銀華と目が合う。スレイプニルの砲口が赤く輝き、ライデンの脳裏にボブキャットの操縦士の姿がよぎる。


「……このままでは示しがつかねェな、それに────」


 ライデンは、遠くで砲撃の雨に晒されるリベリオンを見つめた。


「ライデン殿?」


 ライデンは銀華の方へ振り向くと、強気に笑った。


◆◇◆


 ライデン達を切り離したスレイプニルのブリッジに、警報が鳴り響く。ロキは心底忌々しいといった顔で口を開く。


「……今度は何だ」


「じ、上空に超巨大エネルギー反応! これは……まさか……!」


 ロキの目が見開かれる。モニターの画面が切り替わり、先程切り離した区画がズームアップされる。


 モニターに映し出されるライデンの姿。赤熱したハンマーを高く掲げ、髪が黄金に輝いている。その身に纏う雷の白い輝きは、スレイプニルのブリッジを明るく照らすほどだ。



 時を同じくして、リベリオンのブリッジでも警報が鳴っていた。


「2番艦スレイプニル付近の座標から巨大なエネルギーを検出!」


 スレイプニルの上空で眩く輝く光の点がモニターに写し出される。ヴェロニカは目を見開く。


「ライデン……!」



 スレイプニルのブリッジでロキが叫ぶ。


「トールウウウウウ! 貴様あああああああああッ!」


 レベルMAXまで育成されたスターレアの大剣系武器と、自身の経験値1億及び全HPを犠牲にすることで発動できる禁忌のスタースキル。ハイパーブリッジを使っても回避できない絶対命中属性と、エネルギーバリア貫通属性及び防御無視属性を持ち、攻撃力換算で1000万相当の絶大なダメージを与えることが出来る必殺の一撃。


 ────『破壊雷槌トール・ハンマー』だ。


「逃がす訳ねぇだろ馬鹿があああッ! 破壊雷槌トール・ハンマーアアアアアアッ!」


 ライデンがハンマーを投擲する。雷の軌跡を引きながら亜光速で飛翔するハンマーは、スレイプニルのブリッジの天辺から船底までを一気に貫き、ポリゴンの破片となって霧散する。一瞬の静寂。直後に、大爆発が起こった。


 スレイプニルを眩く輝く爆炎の柱が貫く。ライデンの視界の端に、キルログが濁流のように流れる。轟音が一帯に木霊し、爆発によって放たれた強大な電磁波が、宙域中の機器のモニターにノイズを走らせる。


「俺たちはいつから道を違えたんだろうな……ロキ……」


 銀華はライデンの方へ手を伸ばす、しかし、ライデンは輝く塵となって静かに消えていった。銀華の視界の端に、ライデンのデス通知が流れた。


◆◇◆


 警報が鳴り響く、炎に包まれたブリッジで、ロキはよろよろと立ち上がった。間一髪、破壊雷槌トール・ハンマーの直撃は免れたが、攻撃の余波だけでHPの9割を削られてしまったのだ。ブリッジの至る所に散らばった帝国兵の死体を眺めて、ロキは戦闘続行は不可能だと判断した。


 戦艦の心臓である重力炉は何とか破壊されずに済んだが、頭脳にあたるブリッジと、その下の司令室までもが破壊されてしまっては、このスレイプニルは最早ただの鉄の箱だ。


「……全艦隊に通達、2番艦スレイプニルは戦闘能力を喪失したため撤退する」


 ロキは通信を終えると、ボロボロになった艦長の椅子にどっと座り込んだ。穴の空いた天井から覗く星空を見ながら、ロキは静かに笑う。


「まぁいい……すでに跳躍先の解析は終了して、グングニル隊は追撃を開始している……一歩遅かったな、トール」

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