第63話 トップクラン19
────数分前。特別客室にて。
特別客室と言う名の独房の硬い床の上で、キララは銃の手入れをしていた。さっき数発撃ってしまったラストトリガーのマガジンに弾を込めていく。すると、独房の扉が開きカガミとナナホシ、そしてステラが入ってきた。
「キララ、申し訳なかった。あんたの判断は全て正しかったよ。銃を向けたりして、悪かった」
「くすくす、いいんだよ別に。君達の判断だって正しかったんだから」
「銀華さんも『悪かった』と言っていた。本人は今、戦闘機に乗ってライデンと一緒に時間稼ぎに行っている」
「ふーん、じゃあやっぱり今かなりマズいの?」
カガミは、現在の反乱軍の状況を説明した。説明の後に、ナナホシがありったけのヤトノカミ専用弾を実体化させてキララに手渡す。
「こちら、差し上げます。ヤトノカミの弾丸はちゃんと戦艦相手にも効果があるんスよ。虫のいい話かもしれないっスけど、どうかこれで反乱軍を助けてあげてくれませんか?」
ナナホシはそう言ってキララを見つめた。キララはくすくすと笑う。
「別に私怒ってないよ。それに、帝国の奴らは皆悪質プレイヤーなんでしょ?」
カガミとナナホシはうんうんと強くうなずく。
「あぁ、諸悪の根源といって差し支えない」
「いいね。私は、PKしてもいい理由が欲しいだけだからさ。喜んで反乱軍の力になるよ」
それを聞いてステラが微笑む。キララはステラを見つめた。
「うふふ、そういえばきちんとしたご挨拶がまだでしたね。キララ様。私は『ターミナルオーダー』所属のステラと言います、以後、お見知り置きを」
「私はキララ、よろしく。ターミナルオーダーのことはカガミから聞いてるよ」
キララとステラは握手を交わした。
「私も、キララ様のことはノワール様から伺っております。なんでも、あのヤトノカミを使いこなせるとか。是非、私に狙撃のお手伝いをさせてください」
「キララ、ステラさんはSOOで最強のフォトンロッド使いと言われるプレイヤー、つまり、最高のサポーターだ。ステラさんからバフを貰えばヤトノカミの攻撃力を増幅することができる。奴らの戦艦を片っ端から沈めてくれ」
それを聞いてキララはほんのりと笑みを浮かべた。
「いいね、据え膳って訳だ」
◆◇◆
キララはステラと共にリベリオンの最上部の甲板に立った。おびただしい数の敵に追われるリベリオン。激しい砲撃の音が轟き、リベリオンの後部に展開されたエネルギーバリアが大きく損傷する。
「いかがでしょうキララ様、ここなら宙域を一望できます」
「いいね」
そう言ってキララはカラスのぬいぐるみを出して射撃体勢になる。甲板と同じ色の布を被ったキララが甲板に寝そべると、隣に立っているステラが目立つこともあって、かなりの隠蔽効果が得られた。
「宇宙での狙撃は初めてだから、最初10発くらいは適当に撃って勘を掴む。その後からバフをよろしくね」
「はい、お任せ下さい。ですが─────」
1番艦クラレントの砲撃によってリベリオンのバリアが粉砕され、轟音が響き渡る。
「私の出番はもう間もなくのようです」
キララがクラレント目掛けて適当に銃を撃っている間に、ステラは杖を構えた。
フォトンロッド。SOO世界の架空のエネルギー『フォトン』を自在に操ることができる武器だ。光線銃の光線や、エネルギーバリア、SOOの多くの宇宙船に装備されているロケットエンジンなどにもこの『フォトン』は利用されている。
ステラは目を閉じる。
「対高次元干渉、開始、第五軸を固定、高次元立体、自転開始」
ステラの身体の周りに、白く輝く無数の幾何学模様が現れる。
「第三次元へ質量を投影。
突然、ステラの周りの空間から、白く輝くフォトンが噴き出てくる。ステラの視界の端、フォトンの残量を示すメーターが振り切れる。
クラレントの再びの砲撃、深紅の熱線が、リベリオン目掛けて襲い掛かる。ステラが杖を振る。
「『
リベリオンを覆う巨大なバリアが展開され、砲撃を容易く阻む。
その様を見ていたキララは思わずステラの方へ振り向いた。にこやかにブリッジと通信をしているステラを見てキララは唖然とする。
(これが……『ターミナルオーダー』……!)
まさに別格。たった1人で、戦艦の主砲クラスの攻撃を容易く防ぎ切る桁違いのパワー。凄腕のプレイヤーが何百人も所属しているトップクラン達と、わずか3人で渡り合うクラン『ターミナルオーダー』にはSOOの最強プレイヤー候補しか所属していないのだ。
キララの視線に気づいたステラが微笑む。
「準備はよろしいですか? キララ様」
「うん、お願い」
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