第62話 トップクラン18

 銀華の刀の像が歪む。襲い掛かる光線の束が、赤い光の粒子となって砕け散る。


 帝国軍のパイロットは叫ぶ。


「何ィ!? ばっ、馬鹿なあああ!」


 トリガーを握り込む。無数の赤い光線が宇宙の闇を切り裂きながら銀華に襲いかかる。しかし攻撃は届かない。銀華が刃を振るう度に光線が砕け散る。飛び散った光の欠片が少女の銀髪を赤く照らす。


「防御はこなたに任せるが良い! 急がれよ! 操縦士殿!」


「あ、あぁ! 高くジャンプすると、ボブキャットの重力発生装置の効果範囲外に出てしまうから気をつけろよ!」


 銀華が機銃攻撃を人力で無力化する様をモニター越しに見ながら、ライデンは唖然とした。


(な、なんて奴だ……! あの機銃は、データベース通りなら毎分800発のスピードで光線弾を撃ってるんだぞ!? 秒間約13発だ! 何故捌き切れる! 人間の反射神経であんなこと出来るのか!?)


◆◇◆


 リベリオンのブリッジでは、ボブキャット3番機から送られてくる映像に全員が見入っていた。艦長のヴェロニカまでもが口をぽかんと開けて、一人の少女が機銃の存在意義を否定する意味不明な映像を見つめている。


「……はっ! しまった! じ、状況報告! バリアの状態はどうなっている!」


「あっ……はい! なんとか持ちこたえています! ですが、間もなく1番艦クラレントにも追いつかれます! そうなるとかなりまずいです!」


 3番艦ジャバウォックの主砲攻撃がリベリオンに降り注ぐ。リベリオンは現在、エネルギーバリアの大半を機体後方に集中展開しているため後方からの攻撃になんとか対応出来ているが、敵の数が増えて攻撃が苛烈になれば、その強固なバリアも破られる恐れがある。


 リベリオンのレーダーに映る、数え切れない程の赤い点。対して、味方を表す青い点は圧倒的に少ない。


(数が多すぎる……帝国の船だけじゃなく、傭兵系クランの船も混じっているな)


 帝国は、その圧倒的な財力で、金さえ貰えればどんな仕事でもやる傭兵系クランを雇っていることが多い。今回も、いくつもの傭兵クランを雇っているようだ。


 ヴェロニカは速度計を見る。慣性質量が大きく、しかも三連星の重力のせいで加速に手こずっているリベリオンの速度は中々大きくならない。ハイパーブリッジを起動するにはまだ速度が足りなかった。


(1番艦クラレントは帝国軍の戦艦の中でも無類の攻撃特化型……その攻撃が始まれば、バリアの減衰能が追いつかなくなる……いざとなったらアレを使うしかない……!)


「機関室より入電! 重力炉が爆発寸前だそうです! 緊急冷却せよと!」


「くっ……やむを得ない、第三戦速まで減速! 想定より限界が早いな……ラジエーターの冷却効率を確認しろ」


「全ラジエーター平均冷却効率……平常時に比べてかなり悪いです!」


「三連星から降り注ぐ熱線のせいだな……くそ、ギャンブラー共め」


 ヴェロニカはレーダーに映る敵艦を睨んだ。


 三連星の周辺は重力圏の構造が複雑なため、周辺へ向けての跳躍が極めて難しい。下手を打てば、重力に飲まれて、三連星にそのまま突っ込んでしまう恐れがあるからだ。そのため、大抵は三連星から大きく距離を取った場所に跳躍をする。


 ヴェロニカ達反乱軍も、三連星からおよそ2000万キロメートルの地点に跳躍し(これでもかなり無茶をしている)、そこから移動をして三連星から1000万キロメートルの地点まで近づいたのだ。しかし、帝国の艦隊はそのヴェロニカ達からわずか数千キロの地点に跳躍をしてきた。運が悪ければ三連星の重力圏から脱出出来なくなる危険な跳躍だ。要するに、大博打を打ったのだ。


「1番艦クラレントの主砲射程圏内に入りました! 攻撃! 来ます!」


「衝撃に備えろ!」


 リベリオンの右舷後方十キロの距離に迫る、黒光りする巨大な戦艦『クラレント』、その甲板上に取り付けられた、無数の砲塔が赤く輝く。巨大な光線がリベリオンのエンジン目掛けて降り注ぎ、バリアにぶつかって猛烈な爆発を引き起こす。


「うわあああっ!?」


 轟音が轟き、激しく揺れる艦内。


「エネルギーバリア! 8番、5番、3番が消滅! 緊急復元中!」


「3番艦ジャバウォックより再び砲撃! 着弾まで2秒!」


「機首上げ15度! 緊急回避!」


 リベリオンの機首が上を向く。微かに上昇する機体。ジャバウォックからの砲撃の大半は躱すことに成功したが、数発がバリアに命中し、衝撃が再びブリッジを襲う。


「復元中の8番、5番が再び消滅!」


「絶対速度が落ちています!」


「クラレントより再び砲撃! 着弾まで2、いや1秒!」


「面舵一杯!」


「間に合いません! 被弾します!」


(くっ……アレを使うしかないのか……!)


 ヴェロニカがホログラムウィンドウを起動した、その時だった。


 クラレントから放たれた無数の光線が、リベリオンのエンジンを襲うその寸前。リベリオンを全て覆うほどの白く輝く巨大なバリアが展開される。クラレントの光線はそのバリアに阻まれて霧散する。


 ブリッジに通信が入る。


「"ヴェロニカ様、ここはお任せください。10分間、私が船を守りましょう"」


「ステラ……!」


 ブリッジのそのさらに上、リベリオンの最上部の甲板の上で杖を掲げる白い少女。『ターミナルオーダー』が誇るSOO最強のフォトンロッド使い、『スターゲイザー』のステラだ。

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