第61話 トップクラン17

「もっと飛ばしてよ! 逃げられちゃうでしょ!」


「ハートハート様、これ以上スピードを上げると、墜落してしまう恐れがあり……」


 帝国軍第3師団が所有する3番艦ジャバウォック。艦長にして師団長のハートハートは、艦長の椅子でジタバタと暴れた。三連星の近くのリベリオン号に急速接近することは、三連星にそのまま墜落していくこととほぼ同義だ。重力が追い風となるおかげで燃料を節約できるが、スピード調節を誤れば重力に飲まれて、表面温度1万ケルビンの火球に突っ込んでしまうことになる。逆に、三連星の重力圏から脱出する方向に移動しているリベリオンは、重力が向かい風となるせいでスピードが出ないが、エンジンをフルパワーで動かすことができる。


「ハートハート様! 間もなく主砲射程圏内に入ります!」


「早く撃って! 一番槍はハートハートのものなんだから!」


「リベリオン号カタパルトより戦闘機の射出を確認! SFスペースファイター-14『ボブキャット』です!」


「やっつけて! 皆で囲んで死刑よ! HH親衛隊! 出撃!」


◆◇◆


「艦長、周辺スキャンの結果、リベリオン号周辺の宙域にハイパーブリッジによる跳躍の痕跡を発見しました。全部で12隻、何者かが宙域を脱出したようです」


 帝国軍第2師団、団長にして2番艦『スレイプニル』の艦長ロキは、それを聞いて静かに目を閉じた。


「ふむ……跳躍のタイミングは?」


「現在解析中ですが、残留空間断層の強度から計算するに、まず2機がほとんど同じタイミングで、その後、我々が跳躍した数分後に10機がまたほとんど同じタイミングで跳躍しています」


 ロキが静かに目を開く。


「……最初の2機の跳躍痕を、総力を上げて早急に解析しろ。ほかの痕跡もだ」


「では、リベリオン号の追跡は?」


「あのボロ船の追跡は馬鹿共に任せておけばいい。痕跡の解析が済み次第、グングニル隊に追跡をさせる。カタパルト射出の用意を急げ」


◆◇◆


「2番艦はどこだ!」


「発見しました! 2番艦スレイプニル! 大艦隊の最後尾です!」


 艦上発着型高機動戦闘機SF-14ボブキャット3番機。そのコックピットでライデン達はモニターにかぶりついていた。


「今更だが、生きては帰れんぞ! 分かっているな!」


「ふふ、望むところだ」


 銀華はそう言って強気に笑った。


「2番艦にはロキが居るはずだ! 奴はべらぼうに頭がキレる! 真っ先に叩き潰さないとマズいことになる! 急げ!」


「敵機第一波を目視! 接触します! 捕まっていてください!」


 ハートハートの親衛隊15機と、8機のボブキャットが衝突する。敵味方が入り乱れる空中戦が始まった。激しく揺れる3番機の中で、ライデンと銀華は手すりに捕まって固唾を飲んでモニターを見つめる。反乱軍の青い光線と、帝国軍の赤い光線が激しく飛び交う。


「おい! 雑魚に構うな! 2番艦のもとへ急げ!」


「無茶言わないでくださいよライデンさん! 敵の数が多すぎます! この包囲網を抜けて2番艦の元に行くだなんて!」


「"こちら4番機! 敵機を1機撃墜!"」


「"こちら6番機! エンジンに被弾! うわあああああッ!?"」


「クソっ……6番機が! このおおおッ!」


 操縦士がトリガーを引き、3番機の攻撃が敵機に命中するが、それとほとんど同時に3番機に敵の攻撃が命中し、機体が激しく揺れる。モニターに火花が飛ぶ。


「ぐっ! 被弾した!」


「頑張れえええええ! 気合いだあああああ! 気合いいいいいい!」


「ライデンさんちょっと静かにしててください!」


 このような戦場は初めて経験する銀華であったが、そんな銀華から見ても反乱軍の劣勢は明らかであった。敵の数が多すぎるのだ。味方の数は数えるほど、対して、今対処している敵の数だけでその倍以上。しかもその後方には、数百はくだらない、おびただしい数の敵機が飛んでいるのだ。


 襲い掛かる弾幕を躱しきれず、再び3番機に攻撃が命中する。


「ぐあああっ!? クソ! これじゃ2番艦にたどり着くどころじゃない!」


 警報が鳴り響く。揺れる機体の中で、銀華が意を決したように口を開く。


「ふむ……ここはこなたが一肌脱ごう、扉を開けてくれ」


「は────?」


◆◇◆


「ひゃっはー! また1機撃墜! ハートハート様! 俺今日だけで3機も撃墜しましたよ────!」


 帝国軍のパイロットはそう言って大きく操縦桿を切る。次に狙いを定めたのは、銀華達の乗るボブキャット3番機だ。


「ヒャッハー! くたばれ────ッ!」


 男が機銃の引き金を引こうとしたその時だった。ボブキャットの天井のハッチが開き、一人の少女が姿を現す。命綱を付けたその少女は、男の機体をまっすぐに見つめながら刀を抜き放つ。


「ギャハハハハハ! こいつ! まさか刀で宇宙船とやり合う気か! 馬鹿が! 死ねええええええッ!」


 男がトリガーを引く。機銃が咆哮し、赤い光線の束が少女めがけて降り注ぐ。しかし、男が目にしたのは信じられない光景であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る