第60話 トップクラン16

 リベリオンのブリッジに警報が鳴り響き、赤い警告灯が点滅する。


「艦長、緊急事態発生です! 当艦より後方約3000kmの宙域に、宇宙戦艦4隻を含む帝国の大艦隊が侵入! 現在も、時速5万キロメートルで当艦に向けて接近中! 3分後にエンゲージします!」


 どよめきが走るブリッジ。間髪入れずにヴェロニカが指示を出す。


「作戦変更、これより当艦は当宙域を離脱する。。跳躍可能速度に到達し次第、全力跳躍を行う。なお、チームα全機はこれからただちに各自ランダムな方向に跳躍。アルセーニャの跳躍の痕跡を、帝国に追跡させるな」


「前進一杯!? 艦長、重力炉が爆発しますよ!」


「敵戦力は当初の想定の4倍以上だ。追いつかれれば勝ち目はない。炉心を酷使してでも距離を取るんだ。機雷を1番から5番まで展開、エネルギーバリアをエンジンとラジエーターブレードに集中させろ」


「くっ……! 前進一杯────っ!」


 『一杯』のランプが12個点灯し、リベリオンの12発の巨大なロケットエンジンが轟音を立てて青い炎を噴く。


 ライデンがハンマーを実体化させる。


「ボブキャットで時間を稼いでくる! 俺のことは置き去りにしろ!」


「ライデン殿、こなたも同行しよう。カガミ殿、キララ殿に『悪かった』と伝えておいてくれ」


 そう言ってライデンと銀華はブリッジを出ていった。


「ナナホシさん! 猫又ちゃんをお願い! 私持ち場に戻らないと!」


「了解っス」


 ナナホシに猫又を預けて、クロエもブリッジを飛び出す。カガミは一人歯ぎしりをした。


(くそ……俺がもっと早く006からのメッセージに気づいていれば……!)


 カガミの知り合いには、帝国軍に潜入しているスパイ、コードネーム『006』が居た。30分ほど前にその006から『帝国の大艦隊がランデブーポイントに向かって来ている』との連絡が入っていたのだ。スパイである006はフレンド欄を検閲されても大丈夫なようにカガミとはフレンド登録をしておらず、特別な通信端末を使って連絡を取り合っている。しかし、カガミが通信端末を闇雲に人前で確認すれば006の正体が露見してしまうリスクがあるため、カガミは端末を確認していなかったのだ。


(だからアルセーニャはあんな独断専行をしたんだな……! 当初の俺達の想定を、遥かに上回る規模の艦隊が来ることを知っていたから、ハート・オブ・スターを逃がすためにあんなことを!)


 帝国のスパイがそこら中に居る以上、ハート・オブ・スターの取り引きは必ず帝国に気づかれる。従って、帝国が取り引きの邪魔をしてくるのはカガミ達も分かっていた。しかし、まさか戦艦を4隻も動かしてくるとは想定していなかったのだ。


 それは単純に、戦艦を4隻も動かせるだけのプレイヤーをすぐさま動かすことが極めて難しいからだ。SOOはゲームであり、帝国軍もプレイヤーの集まりに過ぎない。リアルの都合や、単純なやる気の問題などでプレイヤーが必ずしも指示に従ってくれるとは限らない。大勢のプレイヤーを統率するのは困難を極めるのだ。帝国軍のリーダーの恐るべきカリスマ性が伺える。


 ジークがカガミに話しかけてくる。


「どうやらアルセーニャはこれを予期して居たようだね」


「あぁ、おかげでハート・オブ・スターの行方は俺達にすら分からない。帝国の連中がハート・オブ・スターを追跡するのは困難を極めるだろう」


「キララ君……だったか、彼女を解放しよう。これを」


 ジークは、『キララを解放するように』という旨が書かれた紙をカガミに渡した。紙にはジークのサインがされている。


「これを見せれば彼女を解放してくれるはずだ。私は万が一ブリッジが吹き飛ばされた時に代理の指揮を執るために司令室に移動し、ついでに個人的な知り合いに応援の要請をする」


 そしてさらに、ジークはカガミに1000万クレジットがチャージされたカードを20枚手渡した。


「カガミ、君も知り合いに応援を要請してくれ。報酬は、このカードを使って払ってくれて構わない」


「分かった」


「ナナホシ君、特別客室は色気のない部屋だが、艦内でもかなり安全な場所にある、猫又君を匿うなら利用するといい」


「了解っス」


「キララ様のもとへ向かわれるのですか?」


 カガミとナナホシが振り返ると、そこには『ターミナルオーダー』のステラが立っていた。


「あぁ、そのつもりだ」


「うふふ、では私も同行させてください」

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