第58話 トップクラン14
「……下手くそが、クロウなら外さなかった」
ライデンはキララの方を見ずにそう言った。
「くすくす、もしやと思ったけど、君、クロウ君のファンだったんだね。道理でわたしへの当たりがキツいわけだ」
キララはそう言ってラストトリガーをガンホルダーに収めた。
突然、銀華がキララの首に白刃を突きつける。
「……そなた、先程わざと拘束を解いたな。それだけでは無い、こなたとライデン殿の前にわざと身を出して追跡の邪魔をし、しかも─────」
銀華は、アルセーニャが逃げていった廊下の壁を見つめた。
「……仕掛けた鋼線を自ら切ったな?」
カガミ達の目が大きく見開かれる。ナナホシは壁に駆け寄った。
「……ホントだ、切られたワイヤーがぶら下がってる……これ、私がキララさんに渡した奴っスね」
「うん、光学迷彩もありがと。ワイヤー、よく分かったね。ワイヤーが千切れる時に照明で照らされたのかな」
キララは弾を外したのではなかった。事前に廊下に仕掛けていた何本ものワイヤーを、アルセーニャの逃走の妨げにならないよう弾丸で切っていたのだ。カガミもキララに銃を向ける。
「……どういうことだ。最初はアルセーニャを捕まえるつもりだったが、気が変わったということか? いや、それ以前に、どうやってトラップを仕掛けたんだ。警報が鳴って、艦内放送でアルセーニャの存在を知ってからじゃトラップを仕掛ける時間は無かったはずだ」
「そもそも何故あるせーにゃの逃走経路を知っていたのだ。……答えてもらおう」
キララはくすくす笑った。
「いいよ、けど、ブリッジに行こうか。その方が色々早い」
◆◇◆
キララ達はブリッジにやってきた。ブリッジでは、艦長のヴェロニカ、反乱軍のリーダーであるジーク、『ターミナルオーダー』のステラ、そして、猫又を抱っこしたクロエが待っていた。
操縦席に着いているプレイヤーの一人が、ヴェロニカの方へ振り向く。
「艦長、申し訳ありません。アルセーニャの宇宙船に逃げられました。ハイパーブリッジを使用された模様です」
「逃げ足の速い奴め……跳躍の痕跡を解析しろ、跳躍地点の特定作業、急げ」
「了解です」
キララは反乱軍のプレイヤー達に銃を突きつけられたまま、猫又を抱っこしたクロエに問いかける。
「猫又ちゃんだ。ノアはどこに行ったの?」
「アルセーニャを追うためにアーク号に……」
「ふーん」
ヴェロニカがキララの前に歩いてくる。
「凡その事情は聞きました。貴女は、アルセーニャの存在にいち早く気づいていながら、あろう事かアルセーニャの逃走の手伝いをしたそうですね」
「うん。最初は捕まえるつもりだったんだけど、気が変わった。でも内通してたわけじゃないよ。アルセーニャが忍び込んでるのに気づいたのは偶然」
そう言って、キララは猫又を見つめた。猫又は首をかしげる。
「ナナホシさん、銀華さん、覚えてるかな。アークの機内サービスで猫又ちゃんがおぼんに出したマグカップの数を」
ナナホシは目を見開く。
「そう言えば……6個だったような……!」
「アークの乗客は私、ナナホシさん、銀華さん、カガミ、そして船長の5人。なのにマグカップは6個準備されてた。最初は、猫又ちゃん自身の分かと思ったんだけど、猫又ちゃんは結局何も飲まなかった。つまり、アークにはもう一人乗っていた、或いは、機体の上か下に誰か張り付いていたんじゃないかな。それを考慮すると、銀華さんがフリードの発着場で感じた気配の正体も分かる」
NPCである給仕アンドロイドの猫又が、プレイヤーの人数をカウントする原理は、プレイヤーのそれとは大きく異なる。プレイヤーが、目に映る人間の数を数えるのに対し、NPCである猫又は、周囲の空間にある『プレイヤー属性のオブジェクト』の個数を数えるのだ。見える見えないは関係ない。客室の中に居ようが、アークの外壁に張り付いて居ようがプレイヤーはプレイヤー、どこに居るかは関係ないのだ。
「あの気配は猫又殿だったのではないのか?」
キララは首を横に振った。
「ううん、私もその気配は感じていたから。アレは猫又ちゃんに罪を擦り付けただけ」
猫又はびっくりした様子でぷるぷると震える。銀華は怪訝な顔をした。
「ならどういうことだ。敢えて気づかないフリをして、尾行者をわざとアークに乗せたと?」
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