第57話 トップクラン13
「アルセーニャを追ってくれ! 私は警報を出す!」
「っ! 行くぞ!」
ライデンに続いて、銀華達は艦長室を出ていった。ジークはすぐに艦長室にある警報ボタンを押して、デスクの上の内線電話機でブリッジに電話を掛ける。電話はすぐに繋がった。
「"こちらブリッジ、取引を一時中止してください"」
「ブリッジ! ブリッジ! ジークだ! アルセーニャにハート・オブ・スターを奪われた! 全艦隊に通達、アルセーニャを逃がすな!」
「"っ! 了解!"」
◆◇◆
「”ブリッジより通達。艦内に怪盗アルセーニャが潜入、アルセーニャを絶対に逃がすな。繰り返す─────”」
「にゃにゃにゃにゃにゃ」
「待てこら逃げるなァ!」
「撃て────ッ!」
アルセーニャの背に向けて光線銃が乱射される。アルセーニャは、それをひょいひょいと躱しながら廊下を走り抜ける。
「くっ! なんて奴だ!」
アルセーニャの行く先、廊下の曲がり角からライデン達が姿を現す。
「にゃにゃ!」
「逃がさねえぞクソ猫!」
「止まれ!」
ライデンと銀華がアルセーニャに襲いかかる。ライデンの大振りの攻撃の周りを縫うような無数の斬撃。ライデンのハンマーを避けながら前に飛び込むアルセーニャの身体に、銀華の斬撃が命中─────しなかった。
空を切る感触に銀華の目が見開かれる。
「なっ!」
「にゃーん♡ こわーい♡」
「クソっ! スタースキルの『
SOOには数多くのスキルが存在する。所謂『
銀華とライデンを突破したアルセーニャの前にカガミとナナホシが立ち塞がる。
「カガミさんこれを!」
ナナホシが取り出したネットを使って、2人は廊下を封鎖する。カガミが空いてる方の手で光線銃を構える。
「錯乱したかアルセーニャ!」
「もー! 006によろしくって言ったはずだにゃん!」
アルセーニャの
「かかったな馬鹿め!」
ネットを通り抜けた直後、スキルのクールタイム中のアルセーニャに向けてカガミが光線銃を乱射する。偽銀華との戦いで見せた、サブマシンガンタイプの光線銃とは別の、拳銃タイプの光線銃だ。戦闘が苦手なカガミが自衛用に莫大なリソースを突っ込んで特別に作ったもので、極めて強力な麻痺属性効果を持っている。当たれば、どんなに弱体耐性が高いプレイヤーも麻痺してしまう。
しかし、アルセーニャはそれをスキルなどを使わずに華麗な身体さばきだけで避けきった。前転しながら、アルセーニャはカガミに向けて『べー』と舌を出す。
「カガミ君のよわよわエイムでアルセーニャに弾が当たるわけないにゃーん♡ ざーこ♡ ざーこ♡」
「ぐっ! ホントこいつ……!」
「006によろしくにゃーん♡」
アルセーニャが廊下を曲がる。曲がった先の廊下の突き当たりには、防弾シャッターが下ろされた窓があった。
(楽勝楽勝! 後は窓を通り抜けるだけ─────)
しかし、アルセーニャは見えない何かにつまづく。
「に゛ゃっ!?」
アルセーニャの足首に巻き付く細いワイヤー。
(ワイヤートラップ!?)
爆発物を警戒して、反射的に不確定性原理を発動するアルセーニャ。しかし爆発物などどこにもなかった、ワイヤーはフェイントだった。
天井に張り付いていたキララが、光学迷彩を解いてアルセーニャに襲いかかる。
「わ、あっ!? ちょっ!?」
絡みつき、あっという間にアルセーニャを組み伏せたキララがアルセーニャの額にラストトリガーを向ける。それとほとんど同時に、アルセーニャは左手でラストトリガーのスライドを押し込み、銃身を強く握った。
多くの場合、スライド式のオートマチックの拳銃は、スライドを後ろに押し込まれると、銃の構造上、弾を撃てなくなってしまう。ラストトリガーもその例に漏れない。
アルセーニャはキララの赤い瞳を見つめた。
「……お願い、見逃して」
「……」
「居たぞ!」
「キララ!」
曲がり角からカガミ達が顔を出す。キララは黙って、微かに拘束を緩めた。アルセーニャはキララを蹴飛ばして立ち上がり、廊下へ向かって一気に走る。
「逃がすか!」
「どいて」
アルセーニャを追おうとするライデンと銀華の前にキララが割り込み、銃を構える。
轟く3発の銃声。しかし、弾は床や天井に当たるばかりで、アルセーニャには当たらなかった。
「ばいばいにゃーん♡」
アルセーニャは手を振りながら『ばちーん☆』とウインクを飛ばし、壁をすり抜けて行った。
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