第55話 トップクラン11

 キララ達はメインキャビンを抜けて、長い廊下や、ほとんど梯子みたいな階段を進んでいく。キララ達を見たプレイヤー達がひそひそと話す。


「すげぇ、あれ、ノアさんじゃね?」

「本物だ……! どうしたんだろ、軍に戻るのかな……」


 ブリッジに続く階段を登りながら、キララはノアに尋ねた。


「ノアさんって昔、反乱軍に居たの?」


「……そうだ」


「ふーん」


 階段を登り切ると、ブリッジに続く二重扉が現れる。キララは、クロエ達に続いてブリッジに入った。


◆◇◆


 分厚い窓ガラスに覆われたブリッジからはリベリオンの甲板上を見渡すことができた。20人程のプレイヤーが操縦席につき、何枚ものモニターの前で複雑な操作盤を操っている。ブリッジの中央には、メインキャビンにあったようなホログラムの地図が置かれている。その後ろ、ブリッジの中を見渡せる少し高い場所に、艦長の椅子と思われる椅子があった。


 椅子のそばでは二人のプレイヤーが話をしている。一人は、キララより、もしかするとノワールよりも小柄な少女だ。身の丈程の長い黄金の髪を揺らし、幾つもの勲章の着いた軍服を着て、制帽を被っている。頭の後ろに付けている、二重のギザギザ線の髪留めが印象的だ。もう一人は、不思議な雰囲気を放つ美しい少女だった。長い白銀の髪と銀色の瞳。美しく、複雑な線を描く白いワンピースのような装備に身を包み、白い大きな杖を握っている。


「艦長、ステラさん、お疲れ様です! お客様をお連れしました!」


 そう言ってクロエは可愛らしく敬礼をしてみせる。二人の少女がキララ達の方へ振り向く。ノアを見た制帽の少女の目が見開かれる。


「ノアさん……」


「……久しぶりだな、ヴェロニカ。ステラ」


 ノアの声を聞いたブリッジのプレイヤー達がざわめき始める。


「ノアさん!? ノアさんじゃん!」

「すげぇ、まさか戻って来てくれるのか!?」

「あれが伝説の……」


「……お久しぶりです。ところで、そちらの方は?」


 そう言って、制帽を被った少女、ヴェロニカはキララを見つめた。凛々しい黄金の瞳がキララを捉える。


「キララだよ」


「……協力者のキララだ。警戒の必要はない」


「キララさん、こちら、リベリオン号艦長のヴェロニカさん。そして、クラン『ターミナルオーダー』のステラさんだよ」


「ターミナルオーダー……」


 ターミナルオーダーのステラ、そう呼ばれた不思議な少女はキララに優しく微笑む。ヴェロニカは目をつむってため息をついた。


「クロエさん、ブリッジに部外者を連れ込まれるのは困ります」


「えぇ!? ……うぅ、ごめんなさい」


「くすくす、そうだよクロエちゃん。もし私が帝国のスパイだったらどうするつもりだったの?」


 キララのシャレにならない冗談に、ノアはため息をついた。ヴェロニカはキララに厳しい目線を投げかける。


「……申し訳ありませんが、当艦は今厳戒態勢です。ご退室願えますか」


「ヴェロニカ様、少しくらい良いではありませんか。私も居ることですし」


 ステラはそう言ってヴェロニカの顔を覗き込んだ。ヴェロニカは首を横に振る。


「そういう訳にはいきません。……ノアさん、申し訳ありませんが、あなたも例外ではありません」


「そ、そんな……ノアさんまで」


 クロエは申し訳なさそうに俯いた。


「……クロエさん、お客様は規定通り客室にご案内してください」


 そう言って、ヴェロニカはキララ達に背を向けた。キララは楽しげに笑う。


「くすくす、正しい判断をする人間は好きだよ。……だからひとつ教えてあげる」


 キララは元来た二重扉の方へ歩きながら続けた。



「────泥棒猫が紛れ込んでる。あ、その子のことじゃないよ」



 そう言って、キララはブリッジを出て行った。ノアの脇に抱えられた猫又は、ぷるぷると震えながらノアを見つめる。


「……お前のことじゃないと言ってただろう、ポンコツめ。……じゃあな」


 そう言って、ノアがブリッジを去ろうとした時だった。


「待ってください」


 ヴェロニカがゆっくりとノアの方へ振り返る。


「……アークの乗員に怪盗アルセーニャは? 打ち合わせの時に提出された乗客リストには名前が無かったはずですが」


「居るわけないだろう。……それに、仮にキララの言うように本当にアルセーニャが紛れ込んでいたとして、何か問題があるのか? アルセーニャとお前達は協力関係のはずだろう?」


「……彼女には、毎回必ず手続きをしてから艦に乗ってもらっています。忍び込まれたことは1度もありません」


 ブリッジの中に沈黙が流れる。


「……じゃあ、まずいんじゃないのか?」


「……内線、艦長室に繋げ。念の為取り引きを一時中断してもらう」


「了解」


 ヴェロニカの指示で、操縦士の一人が艦長室に電話を掛けたその時だった。けたたましい警報がリベリオン中に鳴り響いた。

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