第54話 トップクラン10
アーク号内の減圧が終わると搭乗ハッチが開放され、キララ達は宇宙空間へと足を踏み出した。
「おお! これは面白いな! 身体がふわふわするぞ!」
手すりが設けられた簡素な足場を伝って、キララ達はリベリオンに向かった。キララの視界の端で、じわじわとHPが削られていく、宇宙空間に居る間に受けるスリップダメージだ。アークからリベリオンへの移動なら、ナナホシの船外活動用アンプルを使うほどの距離でもないため、キララ達はアンプルを使わなかった。
「宇宙空間なのに、声が聞こえるんだね」
「SOOの宇宙は最高の宇宙だからな。声くらい聞こえるさ。早くリベリオンの中に入ろう、スリップダメージが痛い」
アークとリベリオンをアンカーボルトで接続すると、ノアも猫又を小脇に抱えてアークから出てきた。キララ達の向かう先、リベリオンの搭乗ハッチが開き、中から出てきた二人のプレイヤーがキララ達を出迎える。
「惑星級宇宙戦艦リベリオン号へようこそ! ささ、早く入っちゃって~」
「カガミ……はともかく、久しぶりだな。ナナホシ、ノア」
「お久しぶりっス、ライデンさん。クロエさんも」
「久しぶり、ナナホシさん!」
ナナホシにライデンと呼ばれたプレイヤーは、顔の上半分を分厚い鉄の仮面で覆った大男で、赤いボロボロのマントを羽織っていた。クロエと呼ばれた少女は、ツナギの上着側を腰で結んだタンクトップ姿の少女で、パイロットゴーグルを頭につけていた。二人とも、銀華を見ても慌てないあたり、反乱軍には事前に銀華についての説明がされているのだろう。
宇宙戦艦であるリベリオン号の出入り口は二重扉になっており、キララ達が1つ目のハッチをくぐり抜けるとハッチが閉まる。
「"エアロック、第1隔壁閉鎖、加圧を開始します"」
空気の流れる音と共に部屋が空気で満たされていく。
「おいおいカガミ、ノアはいつの間にロリコンになったんだ?」
ライデンはそう言って猫又のほっぺをつっつく。
「おやめくださイ、おやめくださイ」
「ははは、つい先日かららしいぞ」
「……お前ら、後で覚えておけよ」
クロエが壁の操作盤を操作すると、天井からノズルが出てくる。
「"ヒーリングミスト、噴霧開始"」
回復効果のある緑がかった霧がキララ達に噴射され、スリップダメージで減少していたHPがみるみる回復していく。
「あれ、こんな機能ありましたっけ? 改修したんスか?」
「うん、つい最近! ちょっとした船外活動の度にアイテムボックスからヒールアンプル出すのはめんどくさいからねー」
「おお! これは至れり尽くせりだな!」
キララは皆が話している中、壁にもたれかかって部屋の隅を見つめた。
「"加圧完了、ヒール完了、第2隔壁を解放します"」
電子音声と共に内扉が開いていく。キララ達は、クロエに続いて第2隔壁の先に進んだ。
◆◇◆
何枚もの分厚い鋼の隔壁と、入り組んだ廊下を抜けると、キララ達はメインのキャビンににたどり着いた。
広いキャビンの中央にはホログラムの地図が置かれ、その周りで多くのプレイヤーが慌ただしく作業をしていた。窓の代わりに大型のモニターが壁中に設置され、外の様子をカメラで中継している他、様々な情報が表示されている。
「ここはメインキャビン、駅で言うとホーム、家で言うとリビング的な感じ! 全ての廊下はこのメインキャビンに繋がってるから、道に迷ったらメインキャビンに戻ってきてね! ほら、あそこに艦内の地図もあるし」
クロエが指さす先、キャビンの壁には迷路のような艦内の地図が描かれていた。セキュリティとしてそれはどうなんだ、と、キララは思ったが、SOOはゲームであり、反乱軍に所属しているプレイヤーの利便性を考えればこういったものも必要なのだろうと納得出来た。
「凄いなぁ! 船の中とは思えない!」
はしゃぐ銀華をよそに、ナナホシがライデンに問いかける。
「取引場所は艦長室でしたっけ」
「あぁ、ジークが待ってる。艦長室に入れるのは打ち合わせた通り、俺とカガミとナナホシ、そして銀華……さん、だけだ。ノアとそこの……」
ライデンはキララを見つめる。
「キララだよ」
「キララ……ふん……お前達は好きにするといい」
そう言ってライデンは別の方向へ歩いていく。
「ふむ、ここからは別行動のようだな。キララ殿、ではまた後程」
銀華はキララに手を振ると、ライデンについて行った。
「キララ、また後で」
カガミとナナホシもライデンについて行く、が、ナナホシはすぐに戻ってきてキララにジュラルミンケースを手渡した。
「これ、キララさんに預けておくっス。有事の際はご自由にお使いください」
「ん、ありがとう」
そしてナナホシは手を振ると、ライデン達の方へ足早に戻って行った。
◆◇◆
残されたキララとクロエ、そしてノアと猫又は、顔を見合わせる。
「キララさん、初めまして。私はクロエ。リベリオンで整備と砲手を担当してるの。よろしくね!」
「よろしく」
クロエはにこやかにキララの手を取ってぶんぶんと握手をした。
「ノアさん、せっかくだしブリッジの皆に会っていかない? てかその可愛い子は誰? CATタイプのアンドロイドみたいだけど」
そう言って、クロエはノアが小脇に抱えている猫又を見つめた。
「……こいつは猫又、クエストで拾ったポンコツアンドロイドだ」
「猫又でス、こんにちハ」
「可愛いー! え! しっぽ2本もあるんだ!」
そう言って、クロエは猫又をわしゃわしゃ撫でまわした。猫又は、もぞもぞと動いてか弱い抵抗を見せる。
「おやめくださイ、おやめくださイ」
「……他にすることも無いしな。ブリッジに顔を出しておくとするか。……お前も来るか」
そう言ってノアはキララに目線だけよこした。
「ブリッジって艦の中枢でしょ? 私みたいな部外者が入れるの?」
「うーん……基本はダメなんだけど、キララさん、カガミさん達の知り合いなんでしょ? ならオッケーだと思うよ」
「じゃあお言葉に甘えようかな」
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