第53話 トップクラン9
アークのエンジンが唸りを上げ、青い炎を噴く。ランディングギアが地面を離れ、アークの船体にギアが格納されると、アークは空に飛び上がった。みるみる遠ざかっていくフリードを見ながら、銀華がはしゃぐ。
「おおお!! 凄い、凄い速いぞ! 凄いな! 船長殿!」
「大気圏にいる間は揺れるからな、喋ってると舌嚙むぞ」
アークの高度が上がるにつれて、空の青が濃紺へ、濃紺が黒へ染まっていく。ガタガタと揺れる船内で、猫又がよろよろと立ち上がり、両手を掲げた。
猫又が掲げた両手に猫又の身の丈程もある おぼん が出現し、さらにおぼんの上にマグカップが6個出現する。
「機内サービスでございまス。お飲み物はいかがですカ」
揺れる船内でフラフラと立っている猫又を横目に見て、ノアは口を開いた。
「……ポンコツめ、大気圏にいる間は揺れると、言っているだろう」
ノアの物言いに、銀華は口を膨らませる。
「船長殿! ポンコツは可哀想ではないか! なぁ、猫又殿! よしよし、こなたには緑茶を頼む」
「かしこまりましタ」
すると、マグカップのひとつが熱々の緑茶でみるみるうちに満たされていく。
「ふん……ポンコツはポンコツだ」
そんなノアを見ながら、カガミはニヤリと笑った。
「フッ……ノアはツンデレだからな。きっと、猫又のこともホントは気に入っているに違いないさ。でなきゃ、あの頑固者のノアが船にアンドロイドなんか乗せるわけがない」
「……猫又。カガミのマグカップにデスチリソースを」
「かしこまりましタ」
「おい馬鹿やめろ!」
カガミの分のマグカップが、煮えたぎるマグマのような赤いソースで満たされていく。その様を見てキララはケラケラと笑った。
◆◇◆
キララ達は雑談をしながら猫又の機内サービスを楽しんだ。空になったマグカップが猫又のおぼんに載せられていくと、猫又はおぼんとマグカップを ぽん! と音を立てて消した。なお、カガミは激辛ソースで満たされたマグカップと一人睨み合っていた。
「そういえば、こなた達はそもそもどこへ向かっているのだ?」
「事前に示し合わせたランデブーポイントだ。そこで、反乱軍の宇宙戦艦『リベリオン』号と合流する」
カガミの返答に、銀華が目を輝かせる。
「おお! 宇宙戦艦にお目にかかれるのか!」
「お目にかかれるどころじゃない。中に入れて貰えるぞ」
それを聞いて銀華は手を叩いて喜んだ。
「……お喋りはそのくらいにしておけ。ハイパーブリッジを起動するぞ」
ノアがレバーを引くと、アークの室内灯が消灯し、電子音声が流れ始める。
「"ハイパーブリッジシステム起動、跳躍座標、
エンジンの轟音、座席に押し付けられる感覚。速度計の針が大きく傾く。窓の外の星々が、船の後ろに吹き飛んでいく。
「"絶対速度、規定値に到達、跳躍可能です"」
「跳躍開始」
「"
アークの行く先に光のゲートが開かれる。ゲートに突入すると、船は光の濁流に包まれる。ほんの数秒の跳躍の後に、アークは光の洪水の外に放り出される。すると、窓の外にはそれまでとは違う光景が広がっていた。
「”跳躍成功、ハイパーブリッジシステム停止”」
まるで、太陽が3つ現れたかのようだった。互いに引力を及ぼし合いながら回転する3つの恒星、三連星だ。
「おお! これは凄いな!」
「三連星の周辺は重力圏の構造が複雑で、ハイパーブリッジによる奇襲が難しい。密会をするにはもってこいの場所だな」
そう言って、ノアは三連星の方へ舵を切った。
◆◇◆
さらに5分ほど船で移動すると、アーク号の行く先に小さな黒い影が見えてきた。その影に寄り添うように浮ぶ無数のさらに小さな影。銀華とキララは身を乗り出して、操縦席の隙間から前を覗く。
「見えて来たぞ。反乱軍の艦隊と、旗艦リベリオン号だ」
その大きさにキララ達は思わず目を見張る。全長400mはあるであろう細長い無骨なシルエット。艦後方の、X型の翼に取り付けられた青く輝く12発のロケットエンジン。無数の砲塔と、厳めしいブリッジ。そしていくつものレーダーやアンテナ、カメラが取り付けられている。
翼に描かれた、クロスする青い翼のエンブレムは反乱軍のマークだ。
「おお、なんと壮麗な」
「……おっきいね」
アークがリベリオンに近づくと、リベリオンのその大きさがますます際立つ。ノアがリベリオンの隣にアークを横付けすると、リベリオンから足場が伸びてきて、アークの搭乗ハッチに接続される。
「"ユニバーサルインターゲート接続、搭乗ハッチのロックを解除します"」
「……船外は真空だ。勝手にハッチを開けるなよ」
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