第52話 トップクラン8

 キララと銀華は、カガミの指示に従ってフリードの中にある、とあるワープポイントへワープし、そこからしばらく歩いた。すると、フリードの宇宙船発着場にたどり着いた。


「おお、これは壮観だな!」


 大多数のプレイヤーは乗り物を持っていないとは言え、自由に空を飛べる宇宙船は一定の根強い人気があり、発着場は大小様々な色とりどりの宇宙船で賑わっていた。


 発着場の隅の方に一台の宇宙船が停まっている。無骨な鋼の機体には2発の巨大なロケットエンジンと、機体の正面と真後ろにそれぞれ1つずつ機関銃の銃座が取り付けられていた。


 その宇宙船の搭乗ハッチの前では、カガミとナナホシが雑談をしているようだった。キララ達に気づいたカガミが小さく手を挙げると、ナナホシは携帯灰皿でタバコの火を消した。


「来たな。紹介しよう、今回俺たちをランデブーポイントまで運んでくれる宇宙船『アーク』号と、その船長のノアだ。キララは確か、乗るのは二回目だよな」


 そう言って、カガミは船内の操縦席に座っている男を親指で指さした。


「うん」


 以前、鉄靴の魔女の館までキララを送ってくれた宇宙船こそが、このアークなのだ。鉄靴の魔女の館は僻地に建てられているため、最寄りのワープポータルから歩いて行くよりも、アークのような宇宙船で直接フリードから飛んだ方が早い。


 キララは搭乗ハッチからアーク号の中を覗き込み、操縦席でしかめっ面をしている無精ひげの男に話しかける。


「くすくす、久しぶりだね、運び屋のおじさん」


「……お前か。早く乗れ」


 ナナホシは携帯灰皿をしまいながら口を開いた。


「ノアさんには銀華さんのことは話してあるので、その点はご安心くださいっス」


「そうか、感謝する。よろしくお願いする、船長殿」


「ふん……」


 キララやナナホシに続いて、銀華もアークに乗ろうとしたその時だった。


「ッ!? ────誰だッ!」


 振り向いた銀華の目が見開かれ、毛が逆立つ。柄に手を掛けたまま、銀華はゆっくりと視線を動かす。迸る殺気に、ナナホシとカガミの鼓動が早まる。


「ど、どしたんスか銀華さん」


「……こなたの近くに何かいる」


 そう言って、銀華は搭乗ハッチの周りをゆっくりと歩く。その様子を黙って見ていたキララが、静かに口を開いた。


「もしかして、この子かな」


 そう言って、キララは操縦席の下から、もふもふした何かを引っ張り出す。キララに首根っこを掴まれたそれは、キララの膝より少し背が高いくらいの、小さな猫耳の少女だった。グレーの猫耳と、グレーの猫しっぽ、しっぽはなんと2本も生えている。みすぼらしいが可愛らしいメイド服を着ており、もぞもぞと……これは抵抗しているのだろうか。


「おやめくださイ、おやめくださイ」


「ん、ごめん」


 キララは猫耳メイドの少女を、アーク号の床に下ろす。すると少女はぺこりとお辞儀をした。


「おやめいただキ、ありがとうございまス。ワタシは、給仕アンドロイド、CAT-F07、個体識別名『猫又』でス」


 猫又を見た銀華の表情がぱっと明るくなる。


「おお! 可愛らしいな!」


「CAT系統のF07番! 大人気モデルじゃないっスか! しかもしっぽが2本も生えてるレア仕様! どうやって手に入れたんスか?」


 ナナホシは猫又の頭をよしよしと撫でた。ノアはため息交じりに答える。


「……一昨日、クエストをクリアしたら勝手に船に住みつきやがったんだ。いいから早く船に乗れ」


◆◇◆


 カガミはノアの隣の助手席に、キララ達はその後ろの座席に3人並んで座った。ノアはアーク号をテキパキと操作してエンジンを起動する。銀華は窓に張り付いて今か今かと飛ぶのを待ちわびている。


「あぁそうだ、キララさん」


 ナナホシは、一冊のボロボロの書類の束を取り出して、それをキララに手渡した。


「SOO宇宙空間での実弾射撃に関する分析です。大昔に知人に貰ったんスけど、私が読んでも仕方ないので……よろしければどうぞ」


「え、いいの? ありがとう助かるよ」


「一通りの弾薬、ガンパーツ、その他アイテム類も持ってきてあります。必要になればお申し付けくださいっス。あ、あとこれも。これは皆さんもどうぞ」


 そう言って、ナナホシは青く光るアンプルを3本ずつ全員に手渡した。


「船外活動用複合アンプルっス。SOOでは、生身で宇宙空間に居るとスリップダメージを受けてしまうんスけど、それを飲んでおけば10分間はスリップダメージを無効化できます。船外活動をする際にはお使いください」


「おお、ありがたい! よくわからないが、これを飲んでおくといいことがあるんだな!」


「はい、あ、今飲んじゃダメっスよ?」


 キララはアンプルを収納する。


「さすがはナナホシさん……でも、ナナホシさんがこれだけ準備してるってことは……」


 ナナホシはキララに頷いた。


「はい、今回は荒事が予想されるっス。……一応、心構えだけお願いします」

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