第51話 トップクラン7

「そうなんだよ〜! 実はちょっっっとだけ目尻下げたんだよね! でもよく気づいたね!」


「ごめん、それ嘘。ホントは、ほんの、ほんのちょっとだけツリ目になってる」


「────え」


 キララは突然椅子から立ち上がると、カウンターから身を乗り出し、互いの吐息がかかるほどの距離でアイリの顔を見つめた。


「どどどどしたのキララさん~、私、女の子も全然イケるけど、ちょっと積極的すぎるんじゃないかなぁ~」


「いや……違うね……目だけじゃない、それぞれのパーツの位置関係が、若干、ほんの若干変わってる。まるで、まったく同じ顔を1から作り直したみたい。くすくす、私じゃなきゃ見逃しちゃうね」


 そう言って、キララはチラりと横目で銀華を見た。銀華は顔を真っ赤にして汗を飛ばしながらおろおろと慌てている。キララは目線をアイリの方へ戻すと、銀華に聞こえないように囁いた。


「────くすくす、皆には内緒にしておいてあげる。何を隠しているのか知らないケド」


 そう言って、キララは顔を引っ込めて椅子に座った。アイリは完璧に平静を装っていたが、内心かなり慌てていた。


(カガミ────ッ! この子をナナホシさんやノワールと一緒にしないでよ……! いくら何でも化け物すぎでしょ……!)


 アイリはドリンクを作りながら話題を変えた。


「そういえば、カガミのお使いが~って言ってなかった?」


「そ、そうであった。忘れるところだった。これを、アイリ殿に渡すように言われていたのだ」


 銀華は懐から折りたたまれたメモを取り出し、アイリに手渡した。


「ありがと~! まったく、普通にメッセージ送ればいいのにねー」


 そう言って、メモを見たアイリの目が微かに見開かれる。その仕草を見逃すキララではなかった。それに気づいたアイリは、降参だと言わんばかりに肩をすくめて見せた。


◆◇◆


 3人は各々好きなものを飲みながら雑談をした。


「────なるほど、つまり試合をしたければ『決闘申請』をすれば良いのか」


「うん、『決闘』中は他に邪魔も入らないし、死んでもペナルティないし、好戦的なプレイヤーなら試合をしてくれると思うよ」


 剣術の修行のためにSOOをやっている銀華にとって、無差別PKができないのは死活問題であった。しかし、SOOには『決闘』という機能があり、これを使えば特定のプレイヤーと一対一の真剣勝負ができるのだ。決闘中は専用ステージに転送されるため邪魔も入らないし、何よりデスペナルティがないのでお互いノーリスクで戦うことができる。


「まぁ、最近は決闘やる人ほとんど見かけないんだけどね。でもたしか、決闘好きな人達が集まってるチャットルームがあったはずだから、そこで募集かければ相手が見つかるかも。チャットルームナンバーは……ごめん、さすがに覚えてないや、カガミなら知ってるかも」


「なるほど、勉強になった。感謝する」


 そう言って、銀華は目を輝かせながらキララの方を向いた。


「キララ殿────」


「やんないよ?」


「何故だ!」


 銀華は立ち上がる。


「いや、私正面戦闘苦手だし……」


 銀華は信じられないと言った顔で目を丸くする。


「なっ! そんなわけが無いだろうキララ殿! こなたの目は誤魔化せないぞ! さぁキララ殿! こなたと勝負だ!」


 頬を膨らませてキララに詰め寄る銀華を、どうあしらうべきかキララが考えていると、キララのもとに着信が届いた。


「あ、ちょっとごめん」


 キララは電話に出る。電話の主はカガミだった。


「くすくす、銀華さんとフレンド登録するの忘れてたんでしょ」


「"ぐっ……ああその通りだよ! こっちの交渉は済んだから、銀華さんさえよければ今からでも取引を始められる。できればあんたにも取引に付いてきてほしい"」


「それ、大体何時間くらいかかりそうな見込み?」


「"そうだな……順調に進めば1,2時間で済むはずだ"」


「銀華さん、今から2時間ゲームできる?」


「こなたか? こなたは明日、休日だから何時間でもゲームができるぞ」


「銀華さんも私も大丈夫」


「”それはよかった、じゃあ今からメッセージに送る場所に来てくれ”」


 通話を終えたキララは、カウンターに2人分のドリンク代のクレジットを置いた。それを見てクレジットを取り出そうとする銀華を、キララは『ここは私が』とハンドサインで制止した。


「良いのか? 感謝する」


「私と銀華さん、呼び出されちゃったから行かなきゃいけない。ご馳走様、お釣りはいいよ」


「ホント? じゃあスタンプおまけしといてあげる」


 そう言って、アイリは2人分のポイントカードをレジから取り出すと、スタンプを2つずつ押して2人に手渡した。クレジットカードばりにしっかりと作られた分厚いカードだ。デザインもやたらと凝っている。


「ラバーキャット特製ポイントカードだよ〜。溜まったらドリンク1杯無料!」


 そう言ってアイリはニッと笑って見せた。キララはポイントカードをしばらく見つめていたが、それをわざとらしく右の胸ポケットに仕舞うと、くすくすと笑った。


「くすくす……カードありがと、じゃあね」


「アイリ殿、またな」


 2人が店を出ていった後で、アイリはどっと息を吐き出し、カウンターに突っ伏した。


「はぁ……90%くらいはバレてそうだね、アレは。たまたま見かけたからちょ~っとからかうだけのつもりだったんだけど……あーあ、アルセーニャの面目丸つぶれだにゃー」

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