第50話 トップクラン6
まねきねこを出て、キララと銀華は街を歩いた。銀華は新調した装備に気づいて貰えたのがよっぽど嬉しかったらしく、上機嫌だった。
「よし、ではさっそくアイリ殿に装備を見せびらかしに行くとしよう、キララ殿、それでいいか?」
「うん、カガミのお兄さんのお使いもあるし」
カガミにしては気の利いた事をする、と、キララは若干感心していた。誰だって、新調した装備は見せびらかしたいものだからだ。
プレイヤー達で賑わう大通りを2人は歩いた。
「初心者応援セット! 安いよ安いよー!」
「お嬢ちゃんフォトンロッド使いかい? いいねぇ! 同じフォトロ使い同士、安くしとくよー! 回復アンプル10本セットで本来1200クレジットの所に、回復アンプルを1本おまけしてあげよう!」
「わぁー、いいんですかー!」
「おうよー! 初心者は大事にしなくちゃいけないからな!」
初心者達がぼったくりに遭っている様を、キララは横目で見つめた。
(……今アレを止めても焼け石に水だね。今度まとめて潰そう)
その時だった。初心者の少女に話しかけるローブの女が現れた。
「お嬢ちゃん、大通りの店はぼったくりの店だからね、こんな店で買い物しちゃいけないよ、裏通りの店なら、ちゃんと適正価格で販売してくれるからね」
「えぇっ!? そうなんですか」
「おいお前! 根も葉もないコト言って営業妨害するならただじゃおかねぇぞ!」
店主はローブの女に怒鳴り散らす。ローブの女はクスクスと笑うと、突然、大袈裟にローブを脱いでその姿を現した。ローブの下から出てきた少女の姿を見て、店主は顔を引きつらせる。
「お! お前は───!」
「宇宙怪盗アルセーニャ! 華麗に参上♡ いただきまーす♡」
アルセーニャは巨大な掃除機を取り出すと、店主が店先に並べていたアイテム類を全て吸い取った。ついでに、近くの店も片っ端から襲ってまわる。
「うわああああああっ!?」
「泥棒猫が出たぞ───ッ! 捕まえろ───ッ!」
大通りの店中から、網を持ったプレイヤーがゾロゾロと出てくる。それを見たアルセーニャは、一息に屋根に飛び乗ると、ビラをばら撒きながら逃げて行った。
「にゃはははは! おっそーい♡ だっさーい♡ ほんとに捕まえる気あるのかにゃあ? じゃ、またねー♡ ばいばーい♡」
「くそッ! 逃げ足が早すぎる!」
「二度と来るなこのクソアマ!」
「ビラを拾うな! ビラを拾うな───ッ!」
落ちてきた一枚のビラを銀華がそっと手に取る。
「"大通りの店はぼったくり!"か……ふむ、しかしあの身のこなし、ただ者ではないな」
「うん……なんだったんだろうね、今の」
◆◇◆
キララと銀華は、アイリのバイク屋『ラバーキャット』にたどり着いた。しかし────
「閉まってるね」
「閉まっているようだな」
巨大な猫人形の首に掛けられた『CLOSED』の文字。店の中の照明も消えている。SOOがゲームである以上仕方ないのだが、プレイヤーが経営している商店が必ず開いているとは限らないのだ。
「開いていないのであれば仕方ない……か。どうする、茶屋にでも行くか?」
「いや……アイリさんは今日ゲームにログインしているはず……」
カガミは自分のフレンド欄……つまり、フレンドのオンライン状況を確認してから銀華にメモを渡した。しかも、カガミは以前アイリと通話をしていた、つまりフレンドであるため、アイリのオンライン状況は確認できたはずだ。アイリがオフラインだったのに銀華にお使いを任せたのなら、カガミは割と鬼畜だということになる。もちろん、キララ達が歩いているうちにアイリがログアウトしてしまった可能性はあるし、カガミが確認したのがアイリのオンライン状況ではなく、『ターミナルオーダー』や『反乱軍』の知り合いのオンライン状況である可能性も十分にある。
「アイリさん、どこかでバイクを乗り回してるのかも……」
「確かに、バイク屋をやっているくらいだしな。少し待ってみるか」
その時、店の照明が付いて、バックヤードからアイリが出てきた。キララと銀華に気づいたアイリが、店の扉の方へトコトコとやってくる。
「やっほ! え、何々、遊びに来てくれたの?」
アイリは店の扉を開けてそう言った。
「うん、カガミのお使いついでに」
「わーい! 入って入って~!」
キララに続いて、銀華は笠を脱いで店に入る。
「銀華ちゃん、装備新しくしたのー? この前言ってた雑貨屋小町さんのやつ? 可愛いね!」
「ふふん、そうだろうそうだろう」
そう言って銀華は満足気に、例のごとくクルクル回って装備を見せびらかした。
「なんか飲むー?」
そう言って、アイリはバーの戸棚からグラスを取り出そうと手を伸ばす。キララは、バーの椅子に座りながら口を開いた。
「私、いちごミルクで。……そういえば、アイリさんもまたキャラクターリメイクカードを使ったみたいだね」
アイリの動きがぴたりと止まる。銀華は首を傾げる。
「─────ほんの、ほんの少しだけタレ目になってる」
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