第49話 トップクラン5

「申し訳ない、こなたはさっきからずっと話についていけてないのだが……"さしゅう"とは何だ」


「サービス終了の略称っスね。要するに、二度とSOOで遊べなくなるってことっス」


 銀華は目を見開いて口を両手で塞いだ。キララは顎に手を当てる。



「SOOって……もしかしてクソゲー?」



「クソゲーじゃない」


「クソゲーじゃないっス」


 キララは怪訝なジト目でカガミ達を見つめる。上級者二人組は目を逸らした。


「……ごめん、ちょっとにわかには信じられない」


「俺もそうだった。『ゲームを盛り上げるための運営の煽り文句』だと考えるのが自然だからな。だが────いや、これ以上は話が脱線しすぎるな」


「……そうだね。でもまぁ、帝国が、重要なクエストの最中にトロールしてみんなの足を引っ張っているってのは分かった」


 トロール行為……という言葉は迷惑行為の総称であったりする場合もあるが、SOOでは主に『わざと負けるようなプレイをする』行為を指す。頑張っても上手くプレイできないのは仕方ないが、わざと負けるようなプレイをして周りの足を引っ張るのは、オンラインゲームにおける最悪の悪質行為の一つだと言えるだろう。


「そうだ。帝国が現在保有している宇宙戦艦は5隻、これ以上帝国に宇宙戦艦を建造させたら、次の終末任務ターミナル・クエストはいよいよクリア出来ないかもしれない。帝国にだけは、ハート・オブ・スターを渡してはならない」


「逆に、『ターミナルオーダー』というクランは終末任務ターミナル・クエストのクリアを目標にした少数精鋭クラン。そして『反乱軍』は帝国の悪事を止めるために結成されたクランっス。この2つのクランはSOOでも指折りの実力があるので、ハート・オブ・スターを渡しても帝国に強奪されるリスクが少ないと言えます」


「この2つ以外のクランだと……帝国がハート・オブ・スターを強奪しに来た時に抵抗出来ない恐れがある。……もしくは、せっかくのハート・オブ・スターをくだらないことに使う恐れがある」


 キララは首を傾げる。


「さっきから『強奪』って言ってるけど、帝国にバレなければ強奪も何もないんじゃないの? 帝国のスパイがそこら中に蔓延ってるとでも?」


 カガミは強く頷く。


「その通りだ。帝国の諜報員、スパイは至る所に居る。反乱軍の中にさえも帝国のスパイが居ると言われている。逆に、帝国にも反乱軍のスパイが居たりするがな」


「ハート・オブ・スターの取り引きを、帝国に察知されないように行うのは現実的には不可能っス」


 カガミとナナホシはいつになく真剣な面持ちだった。銀華が静かに口を開く。


「こなたは、SOOの情勢も分からなければ、ハート・オブ・スターの価値も分からない。カガミ殿、ナナホシ殿、もしよろしければ、こなたに代わってハート・オブ・スターの受け入れ先を探してくれないか? 報酬が欲しいのであれば─────」


 銀華は自分のアイテムボックスをスクロールする。


「この中から好きなものを好きなだけ持っていくと良い。よく分からないが、これらもそれなりに価値があるものばかりなのだろう?」


「それは構わないが……」


「私も喜んで協力するっスけど……」


 カガミとナナホシは目を見合せ、そしてキララの方を見つめた。銀華もキララを見つめる。


「え、なんで私を見るの」


「……何となく」


「あんたはどう思う」


 キララは腕を組んだ。


「いいんじゃない? 私も正直よく分かってないけど、今回は状況が状況みたいだし。2人なら、その『ターミナルオーダー』にも『反乱軍』にもパイプがあるんでしょ?」


「よし、なら決まりだな。早速、会議をセッティングする。銀華さん、申し訳ないが、受け入れ先が決まるまではこのフリードから出ないで欲しい」


「あい分かった。二人とも、感謝する」


「キララさん、良かったら銀華さんにボディガードとして付いていてあげてくださいっス。銀華さんの腕前なら何も問題ないとは思うんスけど、都市の中って一応PK可能なんで」


「ん、分かった。あ、あと、私の買い取りは急ぎじゃないからまた今度で」


そう言って、キララはカウンターに広げていた自分のアイテムをしまった。


「助かります」


 多くのMMOには存在する、PK不可能な『安全地帯』と呼ばれるものがSOOには存在しない。自由都市フリードのような都市の中で他プレイヤーを攻撃すれば、ダメージもキルも普通に発生してしまう。しかし一度攻撃行為を行えば、化け物じみた戦闘能力を持った衛兵NPCが取り締まりにくるので、誰も攻撃行為を行おうとはしない。ちなみに、衛兵NPCにキルされると、所持アイテムの全ロスと、キララのそれとは比較にならない程の膨大な量の経験値ロストペナルティが発生する。


 カガミはホログラムウィンドウを操作して、自分のフレンド欄をざっと確認する。すると、紙とペンを取り出して何かを書き殴ると、その紙を畳んで銀華に手渡した。


「事情が事情だからな、すぐにでも会議が始まるだろう。だが、会議が終わるまでフリードに閉じ込められていると暇だろう? 暇つぶしと言ってはなんだが、良かったらそのメモをアイリに渡しておいてくれないか? ついでに、新調した装備を見せびらかしてくるといい」


 そう言って、カガミは自分の頭の後ろをつんつんと指さした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る