第46話 トップクラン2

 銀華なりすまし事件から程なくたったある日のこと。キララは初心者狩り共から押収したアイテムを売却すべくまねきねこを訪れていた。


 キララがまねきねこの中に入ると、そこには先客が居た。ナナホシの気の抜ける挨拶がキララを出迎える。


「らっしゃっせー」


「お、キララ殿! どうだ、似合うか?」


 先客の銀華は、先日ナナホシが言っていた『雑貨屋小町の在庫』を見ていたようだ。三度笠を被ってキララの前で『似合うか? 似合うか?』とクルクル回ってみせる。


 和装をしているだけのことはあり、笠はばっちり似合っていた。


「うん、似合ってる、風来みたいだね」


「そうだろう、かんざしも新調したのだ」


 そう言って銀華は笠を少し持ち上げて見せた。銀色に輝く、鋼のかんざしがちらりと覗く。当然、雪の結晶の形の飾りが施されている。


「似合ってる。かっこいいね」


「うんうん、そうだろうそうだろう」


 銀華は満足気にグルグルと回って見せた。


「笠は私の提案なんス、人目対策なんスけど……ちょっと大袈裟すぎるっスかね?」


 銀華は、つい先日まで顔写真付きの手配書が出回っていた元賞金首だ。おまけに、最近は偽物が暴言を吐きながら初心者狩りじみたことをしていたせいでその悪評はさらに酷くなっている。残念ながら、悪い噂は暫く消えないだろう。そのため、銀華を余計なトラブルから守るために、笠などで顔を隠してはどうかとナナホシは考えたのだ。しかし、ひねくれた捉え方をすればそれは『銀華を腫れ物扱いしている』とも取れる。そのため、ナナホシは自分の判断に迷っていた。


「いや、私は仮面でもいいくらいだと思う。SOOで和装ってそれだけで目立つし。銀華さんも気に入ってるみたいだし、当面は笠を被っておいた方がいいよ」


 そう言って、キララはカウンターにごちゃごちゃとアイテムを並べた。


「あ、そうだ、買い取りお願い」


「また随分持ってきましたねぇ……軽く20人分と言ったとこっスか」


「ナナホシ殿の店では、個人からも買い取りをしているのか?」


「はい。銀華さんも、不要なものがあるなら買い取らせてもらうっスよ」


「私、銀華さんのアイテムボックス気になる……見てみたい」


「あいてむぼっくす?」


 キララとナナホシは、アイテムボックスについて懇切丁寧に銀華に説明した。


「なるほど、しかしこなたは、そんなものを操作したことが無い。何も入っていないかもしれないぞ」


「いや、アイテム自動拾得機能はデフォルトだとONになっているはずなんで、多分何かしら入ってると思うっスよ、もしかしたらすごいお宝を拾ってるかも知れません」


 SOOでは、ホログラムウィンドウを操作して、手に持っているアイテムを選択し『拾う』ボタンを押すことでアイテムボックスに収納することが出来る。しかし、これはあまりに面倒なので、手に持っているアイテムを強く握り込むことで自動的に収納する『アイテム自動拾得機能』というものが存在する。運営の気遣いで、自動拾得機能は初期設定でONになっているため、銀華が知らず知らずのうちにアイテムを拾っている可能性は十分にある。


「ほう! そのナントカ機能のことはわからぬが、一度見てみよう」


 そう言って、銀華は慣れない手つきでホログラムウィンドウを操作し、アイテムボックスを開いた。


◆◇◆


 結論から言えば、銀華のアイテムボックスの中身は宝の山であった。


 それを見たナナホシは思わず音を立てて立ち上がる。ナナホシの反応を見て銀華は目を輝かせる。


「すごいのか? すごいのか?」


「……す、すごいなんてものじゃないっス……ちょっと意味がわからない。概算っスけど、今見えてるこの範囲だけで数千万クレジットの価値があります」


 部屋の中に沈黙が流れる。銀華はナナホシが何を言ってるのか理解出来ず、首を傾げる。キララは顎に手を当てて何か考え始めた。


 ナナホシは震える手で銀華のアイテムボックスをスクロールしていく。


「うっ……うわうわすごいすごい……信じられない。銀華さん、一体どうやってこれだけのアイテムを集めたんスか?」


「わからない、こなたは今初めてこなたのアイテムボックスを見たからな」


「……そうか……もしかしたら……」


 キララが目を見開いてそう零した時だった。


「ん……え? ────は……はぁあああああああああああああああ!?」


 ナナホシが、かつて聞いたことがないほどの大声を上げて、じたばたと後ずさり、倒れる。そして、急に起き上がったかと思うとカウンターを飛び出し、店のシャッターを下ろし始めた。


「アイテムボックススクロールして! 早く!」


 銀華は言われた通りにアイテムボックスをめちゃくちゃにスクロールする。


「おいおい、なんの騒ぎだ?」


 気づけば、下ろしかけのシャッターの下から、カガミが顔を出していた。ナナホシはカガミを乱暴に店に引きずり込むと、そのままシャッターを閉めて鍵をかける。


 ナナホシは無言で例の巨大肉球ハンマーを実態化させ、『安全第一』と書かれたヘルメットを被る。ナナホシの慌てっぷりを見て、キララは事の重大さを理解した。


「……いいっスか、落ち着いて聞いてください。今から言うことは、絶対に他言してはいけません。口止め料が欲しいなら、私が言い値で払います」


 銀華は思わず固唾を飲む。ナナホシは銀華の方へ歩きながらカガミをジト目で睨んだ。


「カガミさん、叫ばないでくださいよ」


「な、何だよ……」


 そう言って、ナナホシはゆっくりと銀華のアイテムボックスをスクロールした。その場の全員が、銀華のアイテムボックスを固唾を飲んで見つめる。


 そして、ついにそのアイテムが姿を現した。アイテムの縁には、アイテムのレア度に応じて、茶色、灰色、緑、青などの色が付けてあるが、そのアイテムの縁の色は、白。プリズムのような虹色の光を放つ白であった───最高レアリティ、『スターレア』だ。


 その輝く白い枠の中に鎮座する、煌めく白い宝石。


 叫び声を上げそうになるカガミの口を、ナナホシが塞ぐ。


「……このアイテムの名前は『ハート・オブ・スター』。SOOのサービスが始まって以来、10です」

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