トップクラン編

第44話 番外編:ある陰気な酒場での一幕

 自由都市フリードの郊外、およそ200kmほど移動した場所には、ごつごつとした岩肌が露出した荒れ地が広がっており、その岩陰にひっそりと佇むように小汚い酒場が建っていた。酒場の付近にはワープポータルが存在しないため、徒歩でこの酒場にたどり着くのはかなり無理がある、しかし、宇宙船を使えばフリードにある宇宙船発着場からほんの2分程の距離だ。もっとも、宇宙船というのはエンジンの音が大変うるさいので静かにこっそり……というのはかなり無理があるが。


「後をつけられていないだろうな」


「そのはずですよ……へへ」


 モヒカン男は、先に席に着いていた軍服の男にペコペコと頭を下げながら、向かいの席に座った。


「では、買い取りの方を……」


 そう言って、モヒカン男はテーブルに20本程のドロアンプルを並べた。軍服の男はそれを見て怪訝な顔をする。


「……ふむ……また少なくなっているな、宇宙警察の奴らはそんなに手強いか」


「え、えぇ、なかなか。言い訳がましくて申し訳ないんですが、奴ら、何だかんだで大規模クランなんで、装備がいいんスよ……それに────」


「それに?」


「それに最近は、初心者狩りを狩りまくってる、おっかないプレイヤーも居てですね……あっしらのチームも一回全滅させられたんスけど、そしたら、レベルが10も下がってしまいまして……ほらアレです、経験値ロストペナルティって奴です」


 軍服の男は前のめりになってモヒカン男の話を聞いた。同様の話を、他の初心者狩りからも聞いていたからだ。男はホログラムウィンドウを開き、メモパッドを起動する。


「チャットでも最近有名になってるんスけど……『キララ』って名前のプレイヤーなんですけどね、皆、声を聞いたことはあるんスけど顔を見たことはなくって」


「それは何故?」


「そりゃ、皆そいつに殺された時には頭がないからっすよ。アレは実弾銃でしょうかねぇ、見えないところからズドンと一発。頭を吹き飛ばされてしまうんスよ。姿を見る前にパーティー全滅させられて、バカにされながらドロアンプルをあるだけ奪われて、しかもレベルも10も下げられて、ほんと、やってらんないっスよ……」


 軍服の男はメモを取り終えると、モヒカンの男のグラスに酒を注いだ。


「初心者狩りをするプレイヤーは減っているのか?」


 モヒカンの男は酒をあおる。


「そりゃあ……まぁ……だって……その化け物とは確かに滅多に出会わないっスけど、そうじゃなくても宇宙警察の連中がウヨウヨしてるんスから! あっしは、初心者狩りが楽しいからまだ当面は辞めるつもりないっスけど、金目当てでやるプレイヤーは……これからどんどん減ってくでしょうねぇ」


 軍服の男はため息を着くと、ジュラルミンケースを取り出し、中からいくつか札束を取って、男に差し出した。


「では、今回は1本160万クレジット、20本合計で3200万クレジットで買い取らせて貰おう」


 モヒカンの男は思わず立ちあがる。


「そ、そんな! 10万も買い取り額を上げてくれるなんて! いいんスか!?」


「あぁ、俺の裁量でどうにかなるのはプラス10万までだからな、上にも掛け合ってみよう」


「ってことはもっと高く買取ってくれると!?」


「それは上の判断次第だ」


 男はそう言ってジュラルミンケースを閉じると、ドロアンプルを回収した。


「他の連中にも教えてやるといい、帝国がドロアンプルの買い取り額を上げたとな」


「それはもうもちろん! 任せてくださいよォ!」


 モヒカン男は嬉しそうに、札束をアイテムボックスにしまった。


「我ら『失われし帝国ロスト・エンパイア』は大量のドロアンプルを必要としている。これからも初心者狩りに励んでくれたまえ」


「うおお! 『帝国』万歳! 一生着いて行くっス! これからも初心者共から搾り取りまくるっスよォ!」

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