第43話 番外編:第六回HELLZONE全世界大会決勝

 HELLZONEは全世界で大ヒットした硬派VRFPSだ。様々なゲームモード、例えばキャンペーンと呼ばれるストーリーモードや1対1の対戦形式、5対5のチーム戦などがあるが、一番人気のメインコンテンツとも言えるゲームモードがこの『DEATHZONE』だった。


 100人のプレイヤーが武器を持って1つの島に降り立ち、最後の1人になるまで殺し合うのだ。時間経過と共に島の外周から内側に向かって、『DEATHZONE』と呼ばれる触れれば即死のエリアが迫ってくる。島が全てDEATHZONEに飲み込まれる前に決着をつけなければならないのだ。


 DEATHZONEルールはHELLZONEの言わば花形であり、世界大会などもこのルールで行われる。そして今、第六回目のHELLZONE世界大会が終わろうとしていた。


「"あーっとCr0w選手強すぎる! またもや2対1を制してしまったーッ!"」


「"残り生存人数は2人! 何度目だこの場面を見るのは! 一昨年と去年に引き続き、またもや最後に残ったのはCr0w選手とkillerla選手です!"」


【Cr0w勝ってくれー!】

【うおおおCr0w!!】


 直径20m程の狭いエリアには瓦礫が散乱しており、視界が利かない。クロウはM19を素早くリロードすると叫んだ。


「キィラァラアアアアアアア! そこにいるのは分かってるんだ! 出てきやがれ────ッ!」


 カメラがキララに切り替わる。キララは瓦礫に張り付いてクロウから隠れていた。


「"さあどうするkillerla選手、逃げ場はないぞ! ん? あ? これは……"」


「"ああっとこれは! killerla選手、服を脱────装備を外し出したぞおおお!?"」


 キララはなんと服を脱ぎ始める。全ての装備を外し、1枚、また1枚と脱いでいく。露わになる少女の白い柔肌。システム的にこれ以上外せないインナーを除いた、全ての装備をキララは外した。


 突然のストリップショーにコメント欄はかつてない盛り上がりを見せる。


【うおおおおおおおお!?】

【えええええええ!?】

【はあああああああああ!?】


「"あああああもう! なんでこの選手はこういうことばっかり……"」


「"カメラ変えて! 放送止まっちゃうから! Itubeの規約的に放送止まっちゃうかもしれないから!"」


 キララは瓦礫の影から立ち上がる。そして、胸を両手で隠し、顔を赤らめて瞳を潤ませて、甘い声を零した。


「ク、クロウ君……」


「そこかアアアアアアア! キラ────」


 声に振り返ったクロウの瞳に飛び込んでくる、あられもない姿のキララ。クロウの脳が一瞬思考を停止させる。それを見逃すキララではなかった、邪悪な笑みを浮かべると、演技をやめてクロウ目掛けて猛ダッシュをする。


「う、うわあああああああああ!?」


 クロウはキララを狙ってM19を撃つが、弾は明後日の方向へ飛んでいく。


「"ああああ! 当たらない! 当たらない!"」


「"うーん、Cr0w選手コレ動揺してますねぇ……"」


 残り3m程まで一瞬で近づいたキララが、地面を蹴って飛び上がる。


「っ!?」


 開かれるキララの脚。飛びつきながら太ももでクロウの頭を挟み込み、そして身体を捻って───


「───くす、えっち」


 ───そのまま脚でクロウを投げ飛ばした。DEATHZONEに触れてしまったクロウの身体が消滅する。


「"フ、フランケンシュタイナーだああああああっ!"」


 音楽と共に出現する『WINNER killerla』のホログラム。システム的に透明になっていたカメラドローンが姿を現し、キララはカメラに向けて手を振る。


【Cr0wうううう!】

【知 っ て た】

【やっぱ今年もkillerlaか】

【すげぇエロい】

【誰か止めろよアイツ】


「"なんということだ! 試合時間20分13秒! まさかのフランケンシュタイナーで決着だあああっ!"」


「"いや、銃使えよ!"」


「"VRFPSの世界大会にあるまじき結末です! ん、今速報が入りました、なんとkillerla選手、この試合で1度も発砲をしていないそうです! 逃げて隠れて最後はフランケンシュタイナー! なんという縛りプレイ! 最早銃など必要ないということでしょうか!"」


「"許し難い暴挙ですねぇ"」


「"カメラが切り替わります"」


 現実世界。VRヘッドギアを外したキララが、拍手と歓声、そして大ブーイングの中ステージに登壇する。小さく可憐なシルエット。観客席に手を振りながら長い黒髪を揺らすこの清楚な美少女が、あの悪魔だと誰が信じられようか。やる気のない拍手をする3位の選手と、半ばスタッフに取り押さえられるようにして2位の表彰台に立っているクロウ。キララは、クロウに手を振りながら1位の表彰台に登る。オランダ人のクロウはキララよりもずっと背が高く、1位の表彰台に立っているはずのキララより頭の位置が高い。


 クロウは、カタコトの日本語でキララに対して文句を言う。VRゲームの中ではリアルタイム自動翻訳機能のおかげでお互いに簡単に意思疎通ができるが、現実ではそうはいかないのだ。


「killerla! この悪魔メ! 地獄に落ちロ!」


 キララは、流暢なオランダ語でクロウに応える。


「くすくす、クロウ君、日本語上手になったね。この日の為に練習してきたのかな?」


「きっ、貴様アアアアアアア!」


 キララはクロウの頭をよしよしと撫でた。クロウは顔を真っ赤にしてジタバタと必死に抵抗する。


「"優勝したキララ選手には賞金1000万ドルと優勝トロフィーが授与されます!"」


「"運営は涙目でしょうねぇ"」


 1000万ドル、と書かれた巨大な板とトロフィーを掲げるキララ。第六回HELLZONE全世界大会はこうして幕を閉じた。


 なお、キララの大会出禁が発表されたのはこの翌日のことである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る