第40話 無差別PK 18

「ゼィ……ゼィ……どうしたァ……もう終わりかァ……!」


「ハァ、ハァ、クソ、まだまだァ!」

「化け物めぇえッ!」


 とっくに弾切れを起こしていたクロウは、M19を打撃武器代わりにして制裁部隊と戦っていた。FPSと違って、キャラクターのHP量が多く、回復手段も豊富なMMOでは完璧な同士討ちを狙うのはかなり無理があり、数人のプレイヤーが大事故に巻き込まれて倒れていったが、大半のプレイヤーはまだ万全の状態であった。


「はぁ、はぁ、よく考えたら俺たち、なんでコイツと戦ってるんだ……」

「俺たち……何しに来たんだっけ」


 まずい、クロウはそう思った。M19があれば、クロウはどんなに遠くの敵にもちょっかいを掛けることができるし、うるさい銃声で意思疎通を阻害し、混乱を大きくすることができる。しかし、弾切れになってしまった以上、クロウがちょっかいを掛けることができるのはクロウの近くのプレイヤーだけだ。より遠くのプレイヤーは、戦いの輪から外れてしまい、段々と冷静になってくる。


(クソ……キララの援護射撃も止んだ……せめて隊長格だけでも潰してくれりゃこっちも楽なのによ……)


 その時、集団に近づいてくる少女がいた。銀華だ。


「……おいアンタ……もういいのか」


「あぁ、感謝する、ぴすとるの御仁」


「なぁに、お安い御用さ」


 そう言うと、クロウは地面に座り込んだ。


「さぁ! 煮るなり焼くなり好きにしやがれってんだ!」


 制裁部隊の隊長はクロウを無視して銀華に武器を向けた。


「この男の始末は後だ! 最優先目標! 無差別PKer銀華! 総員、攻撃用意!」


 プレイヤー達が銀華に一斉に銃を向け、銀華が静かに目を閉じた。その時だった。白砂を巻き上げながら、一台のバイクが銀華達の間に割って入ってきた。


「待て! 待ってくれ!」


「うぅータイヤが砂にハマっちゃってひどい目にあったよー」


 バイクから降りてきたのはカガミとアイリだった。アイリはすぐさま銀華の手を取ってバイクの陰に隠れる。


「やっほ、君が銀華ちゃんだね。私はアイリ。キララさんから話は聞いてるよ。いきなりで申し訳ないんだけど、やって欲しいことがあるんだ。いいかな」


「キララ殿の……わ、わかった、何をすればいい」


 銀華はアイリの指示に従ってホログラムウィンドウを操作していく。


 隊長はカガミに銃を向けた。


「どけ! 公務執行妨害でしょっ引かれたいのか!」


「話を聞け! 銀華にこれ以上の経験値ロストペナルティは必要ない、彼女はすでにレベル5の初心者に一度キルされており、十分な経験値ロストペナルティを受けている! 本人だって過去の行いについて反省している! しかも、彼女はただ悪気なくゲームを遊んでいたら無差別PKerになってしまっていただけだ! それに! ここ最近フリードの近くで暴言を吐きながら初心者を巻き込んで無差別PKをしていたのは偽物の仕業だ! 彼女は悪くない!」


 ざわめく制裁部隊。隊長は大声を張り上げた。


「黙れ! そんなもの知るか! 罰を受けていようが、悪気なくだろうが、悪人は悪人だ! 貴様まさか宇宙警察に楯突く気じゃないだろうな! 我ら宇宙警察はSOOの正義だ! 秩序だ! 我々はより良いSOOのために悪質プレイヤーを裁く義務と権利がある! これ以上抵抗するなら、お前も制裁部隊の恐ろしさを知ることになるぞ!」


 カガミはそれを鼻で笑った。


「なんだ、俺はまともなキャラ育成もしてないからな、経験値ロストペナルティなんか痛くも痒くもないさ! やりたきゃ勝手にやればいい! だがな、あまり出過ぎた自治行為をすると、悪魔の反感を買うかもしれないぞ……!」


 それを聞いたクロウは突然立ち上がり。空に向かって砂を放り投げた。夜の微風に砂が流れる。


「……言いたいことはそれだけか。まずはこいつからだ! 全員! 攻撃開─────」


 突然、隊長の頭がポリゴンとなって砕け散った。制裁部隊のプレイヤー達の視界に、隊長の死亡通知が流れる。何が起こったのかわからずざわめくプレイヤー達。プレイヤー達の疑問に答えるように、重い銃声が夜空に木霊した。


「な、一体何が……! ばっ……馬鹿な! 俺のレベルが……! な、78だと!? こっこれはまさか……!」



「……悪魔はお前のことが気に入らなかったようだ」



「う、うわああああああッ!?」

「逃げろ────ッ! 逃げろ────ッ!」


 悲鳴を上げながら逃げ惑う制裁部隊のプレイヤー達。カガミは安堵のため息を漏らした。




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※近況ノートで登場キャラクター達のイラストを公開中です。よろしければどうぞ。

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