第38話 無差別PK 16
「撃て撃て────ッ 撃ちまくれ────ッ!」
クロウは襲い掛かる光線銃の弾幕を華麗に避けながら、目に映る敵を狙ってM19の引き金を引く。弾丸は吸い込まれるように、額を目掛けて飛んでいく。
「ぐあっ!?」
「なんだこいつ!?」
「弾が当たらねぇ!」
クロウが制裁部隊の真ん中に飛び込み、大乱闘が始まる。他のプレイヤーを盾にしながら、クロウはM19を撃ち続ける。撃ちだされる弾の全てがヘッドショットだ。スピードローダーで矢継ぎ早に弾をリロードしながら、敵という敵に片っ端から弾を当てていく。
「こいつ……!」
「気を付けろ! 同士討ちを狙ってるぞ!」
「光線銃は使うな! 味方に当たるぞ!」
SOOでは、最大5人のパーティーを組むことができ、同じパーティーの人間になら攻撃が当たってもダメージ判定はない(グレネードなどの一部例外はある)、しかし、違うパーティーの人間には当然ダメージが発生してしまう。20人のレイドパーティーや40人のレギオンパーティーであっても『ダメージが発生しないのは最小単位パーティーの5人まで』という制約は変わらない。それが、レイドボスやレギオンボスの攻略の難しい部分でもある。
制裁部隊のプレイヤー達はお互いにできるだけ攻撃を当てないように戦い方を工夫していたが、クロウが同士討ちを誘発しようとしていることもあり、お互いに攻撃を一切当てないというのは不可能であった。クロウの貧弱なM19のダメージを遥かに上回るダメージを、互いに与えあってしまう。
近づく敵をM19のグリップで殴る。スネやヒザを蹴りつける。敵の顔面に砂や廃薬莢を投げつける、クロウの戦い方はまさにやりたい放題であった。
「うわあああっ! 目があああっ!」
「くそ! 化け物めッ!」
「お前ら落ち着け! こんな奴無視して銀華を────」
「この野郎おおおッ!」
冷静なプレイヤーの声も混乱の中にかき消える。
「どうしたどうしたァ! 偉そうなコト言って、宇宙警察ってのはこんなもんかァ!」
クロウは制裁部隊のプレイヤー達を挑発した。
「クソ! 妨害役は何やってるんだ! 多少味方に当たってもいいからデバフ撒けよ!」
「やめろ! そんなのコイツの思うつぼだ!」
「じゃあどうやってコイツに攻撃を当てるんだ! いいから誰か早く『スピードダウン』のスキル使えよ!」
「なんで攻撃が当たらないんだ!」
◆◇◆
混乱の戦場からおよそ1400mの地点、キララはスコープ越しにその様子を見て笑っていた。
「くすくす、だめだよ……クロウは敵の数が多ければ多いほど強くなるんだから」
クロウがペストマスクを被っていることもあり、クロウが一体多数戦を圧倒する様はよく『死の舞踏』と恐れられた。クロウが導くがままにプレイヤー達は死に向かって歩いて行く、同士討ちを止める術はない。クロウの真の実力を知るごく少数の者達は、『悪魔のキララ』になぞらえて、クロウのことを、ただ存在するだけで周囲を破滅させる『死神』と恐れた。
第六感じみた勘の鋭さ、『弾の方が避けてる』と言われる程の弾避けのセンス、大暴れしながらでも敵の頭を正確に射抜ける技術力、これらを併せ持つクロウは当然、正面戦闘でも他に類を見ない程に強い。もしクロウがマトモな銃を持っていたら、制裁部隊はとっくに壊滅していただろう。
放っておいてもクロウなら大丈夫かも知れないが、キララは一応クロウの援護をすることにした。
使い慣れない銃、風向きや距離を判断する指標の少ない砂漠という地形、夜間と昼間の気温差は弾の軌道の変化を生む。しかしこの悪条件でも、キララは全く物怖じしなかった。理由は単純────
「嫌がらせ、開始────」
そもそも正確に命中させる必要がないからだ。混沌を糧とするクロウのために、キララは小さな混乱を起こすだけでいいのだ。狙うのは、万が一キルしてしまっても、経験値ロストペナルティが発生しにくい初心者集団。乱闘中の上級者部隊から少し離れたところでそれを見守る初心者達に、キララはダル絡みを始める────!
◆◇◆
「うわあっ!?」
乱闘を見守っていた初心者の一人の足元に突然大きな砂煙が上がる。
「な、何!?」
「まさか狙撃!?」
周囲に目を凝らす初心者達、すると、遠くの稜線で小さく何かが光った。────発砲炎が見えやすいように、キララはあえてサプレッサーを外していたのだ。その数秒後、再び足元に砂煙が上がる。
「くそっ! 狙撃だ!」
「あんな遠くから!?」
再び光る稜線、今度は初心者のうちの一人に弾が命中する。腹部に命中した対戦艦用弾は、その初心者の身体を真っ二つに叩き折った!
「うわああああああああっ!?」
「きゃああああああああああっ!?」
「隊長! 隊長! 狙撃です! 狙撃されてます!」
クロウとの戦闘で手一杯の隊長の頭がついに限界を迎える。
「な、何!? 狙撃だと!?」
真っ二つになった初心者の死体を見て、隊長の目は驚愕に変わる。
(聞いたことがある、対物狙撃銃みたいな大口径の銃で撃たれると、撃たれた部分は木端微塵に砕け散ると────! しかし、今それを言えば混乱がさらに酷く────)
「気を付けろ! 対物狙撃銃を持ってる奴がいるぞ!」
初心者達の様子を見て、キララの存在に気づいた別のプレイヤーが声を上げる。隊長は焦った。混乱の炎が燃え広がる。
「狙撃、狙撃だと!?」
「どこだ! どこから撃たれた!」
「あっちです! あっちから撃たれました!」
「誰か索敵スキル撃てよ!」
「あっちってどっちだよ!」
「何だ! 何がどうなってる!」
「何よそ見してんだァ!」
焦って周囲を見渡してしまったプレイヤーをクロウは蹴り飛ばす。蹴り飛ばされたプレイヤーが別のプレイヤーにぶつかり、小競り合いが始まる。
「おい! お前何してんだよ!」
「っ何だよ! 仕方ないだろ突き飛ばされたんだから!」
(キララだな……余計なことを……スナイパーのくせに自ら居場所をさらすようなマネしやがって……だが────)
大混乱に包まれた戦場の真ん中でクロウはほくそ笑んだ。
(不本意ながら……あの悪魔より頼もしい味方はいねぇ! ……敵に回すと地獄だがな)
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