第36話 無差別PK 14
「宇宙警察だ! 全員手を上げろ!」
40人程の集団が銀華達に向けて一斉に武器を向ける。クラン『宇宙警察』の制裁部隊だ。
「宇宙警察だ!」
「助かった! これで安心だ!」
さっきまで銀華に襲われていたプレイヤー達は両手を上げながら安堵の声を漏らす。
制裁部隊のプレイヤーの一人が声を上げる。
「たっ隊長! 通報と内容が異なります!
「問題ない! 悪質プレイヤーなぞ、何人いようが全員まとめて取り締まるだけだ! 無差別PKer銀華! これから我ら『宇宙警察』が貴様らに正義の鉄槌を下す!」
銀華は、正面の敵を見つめたまま静かに返答した。
「……この勝負が終わるまで待ってくれ。その後でなら、こなたはどんな罰でも受け入れよう」
「問答無用! 第一波、かかれ────ッ!」
隊長の号令により、20名程のプレイヤー達が一斉に銀華達に襲い掛かる。
────その時、黒い影がプレイヤー達の前に立ちはだかった。
「てめえら全員止まりやがれッ!」
夜空に轟くM19の銃声。風で白砂が舞い上がり、黒いコートが風になびく。月に向けられた銃口が、月光を照り返し銀色に輝く!
「なんだ貴様! 邪魔をするな!」
「黙れッ! お前たちこそ、真剣勝負の邪魔をするんじゃねぇ! どうしてもアイツらの邪魔をしたいというのなら────!」
ペストマスクの暗い双眸が宇宙警察のプレイヤー達を睨む。
「この! クロウ様を倒して行きやがれッ!」
◆◇◆
「今の……! M19の銃声……!」
砂漠のワープポータルにたどり着いたキララは、ほんの微かに聞こえた聞き馴染みのある銃声に目を見開いた。
「え、何? 何か音した?」
「何も聞こえなかったが……M19?」
「クロウが使ってる銃。クロウは、宗教上の理由でM19以外の銃が使えないの」
「あのリボルバーか……! 自由都市フリードであれを使ってるのは多分クロウだけだ、きっと本人だろう」
「クロウの性格だし、どっちかの銀華を見つけて襲い掛かったのかも……!」
キララはヤトノカミを実体化させ、スコープを覗き込んで辺りを見渡した。アイリとカガミも周囲を見渡す。どのマップでもそうだが、ワープポータルはそのランドマークとしての特性上、周りから見つけやすい小高い丘の上に設置されていることが多い。この砂漠のワープポータルも周辺より5m程高い場所に設置されており、周囲をよく見渡すことができた。
「いた……北北西、クロウの身長がHELLZONE時代と変わってないなら1400m地点……まずい、銀華さんと銀華が戦ってる。40人くらいの集団も見える」
「それかなりまずいね、その規模なら多分宇宙警察の制裁部隊だ、急がないと」
アイリはそう言ってカプセルを取り出し、バイクを実体化させた。キララはカラスのぬいぐるみを実体化させると、そのまま地面に寝そべり射撃体勢に入る。
「クロウは、多分宇宙警察と戦おうとしてる。私はここからクロウを援護する、二人は制裁部隊の元に急いで欲しい」
「援護……ってこの距離から!? 目視できないくらい遠いよ!?」
「アイリ、キララは硬派FPSのチャンピオンだから大丈夫だ。サイドカーを外してスピードを上げよう」
カガミが何を言っているのか分からなかったので、アイリは思考を放棄してとにかく話を飲み込んだ。
「わかった!」
アイリはバイクの設定画面を素早く操作して、サイドカーをカプセルに収納する。カガミがバイクに乗ると、アイリもその後ろに跨った。
「キララさん! 制裁部隊の要は、トドメ役の初心者達だ! 多分部隊の後方で待機してるはずだから、彼らを狙うといい!」
そう言ってアイリは『ばちーん☆』とウインクを飛ばした。
「────初心者相手なら、経験値ロストペナルティもほとんど発生しないしね!」
キララはアイリに頷いた。2人が乗ったバイクは轟音を上げて銀華達のもとへ走って行った。
◆◇◆
「……どうやら、ただならぬ事情があるとみた。お前たち、ここは俺に任せて場所を変えろ」
クロウは銀華の方を見ずにそう言った。
「……かたじけない、ぴすとるの御仁」
「勘違いするなよ中二病男! この偽物を倒したら次は警察の連中諸共お前を殺してやる!」
歩き去る銀華達。クロウは黙って制裁部隊と睨みあった。
「貴様……! 自分が何をやっているのか分かっているのか! 公務執行妨害だ!」
「隊長! この男の特徴、最近フリードで噂の不審者の特徴と一致します!」
「誰が不審者だッ!」
「なにィ!?」
隊長はそう言ってクロウを睨みつけた。
「むっ! 確かにッ! 貴様ァ自らのこのこと我々の前に姿を現すとは! 全員! あの男を始末しろッ!」
「やれるものならやって見やがれッ!」
クロウは白砂を蹴り上げると、その煙幕を盾にして40人の中に突っ込んで行った。
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