第34話 無差別PK 12
「は? 銀華が2人居る!?」
キララから伝えられた衝撃の事実に、カガミは素っ頓狂な声を上げた。アイリも思わず手を止めてしまう。
「銀華が2人居ると判断した根拠は主に2つ、まず、私がキルした偽物銀華は経験値ロストペナルティでレベルが78まで下がっているはずだけど、私が会ってフレンド登録した銀華はレベル90だった。ただ、私が偽物をキルしてから本物に会うまで約36時間のタイムラグがある。その間にレベルを78から90まで上げることができるなら、これは根拠にならない」
「36時間でレベル78から90はさすがに無理じゃないかなぁ……『レイドボス』、あるいはさらに上位の『レギオンボス』っていう超強いボスを高速周回し続けたらギリギリ間に合うかも? あ、いちごミルクお待たせ~」
「ん、ありがと」
「現実的には不可能だな。レイドボスを高速周回するには20人、レギオンボスに至っては40人のプレイヤーが必要だ。36時間も周回に協力してくれるプレイヤーを20人以上集められる人間は……有名配信者とか、トップクランのクランマスターくらいだろうな。ちなみに、一人でできる経験値稼ぎだけでレベルを上げようとすると……そうだな、どんなに急いでも100時間は掛かるだろうな」
レイドボスは、レイドパーティーと呼ばれる20人パーティーでの挑戦が前提の強力なボスで、レギオンボスに至ってはレギオンパーティーと呼ばれる40人パーティーでやっと倒せるか怪しいボスだ。それを高速周回となれば生半可なプレイヤーでは務まらない、凄腕を20人以上集める必要がある。
「もう一つの根拠は、私が偽物をキルした時には懸賞金の獲得通知が出なかったけど、本物の方をキルしたら懸賞金を獲得できたこと。どっちが本物なのかは懸賞金で判断した」
そう言ってキララはプロフィール画面の『総保有クレジット』の欄を2人に見せた。総保有クレジットにはプレイヤーが持ち歩いているクレジットと、銀行に預けてあるクレジットの合計が表示されるため、銀行に振り込まれた懸賞金もすぐに反映される。
カガミは思わず感嘆の声を漏らす。
「1000万と飛んで20万5000クレジット……色々ツッコミどころが多いが、あんたが懸賞金を獲得したのは間違いないらしいな」
「へぇー、知らなかったよ、銀華って2人居るんだね……」
キララは頷いた。
「そして、ここからが問題なんだけど」
キララは、本物の銀華が機械に物凄く弱いポンコツサムライガールで、真面目に剣の修行をしていたらSOOで知らぬものは居ない恐ろしい無差別PKerになっていたということを話した。
「銀華さんに曰く、『皆の真似をしてPKをしていた』らしいんだけど、私は今のSOOで皆の真似をしても『PKが当たり前』なんて発想には至らないと思う。ただ、銀華さんがSOOを始めた2年と半年前は状況が違ったのかもしれない、当時のSOOの状況を教えて欲しい」
「2年半前……っていうと、多分『一周年記念イベント』の前じゃないかな?」
カガミはアイリに頷いた。
「『一周年記念イベント』はSOO初のクラン対抗ランキングイベントだった、初のクラン対抗ランキングイベントでの優勝、という栄誉を巡って、当時は熾烈なクラン同士の戦いが起こっていたんだ。SOOで最もPKが横行した時代……と言っても過言じゃないな」
「つまり、銀華さんがPKを当たり前だと勘違いしても仕方ないってこと?」
「そう考えていいと思うよ。『一周年戦争』って名前がついてるくらいには、どこもかしこもクラン同士の紛争だらけだったからね」
それを聞いて、キララは安心したようにいちごミルクに口をつけた。
「そっか……話の裏が取れて良かった。教えてくれてありがとう」
「いやー、でもあの頃は良かったね。当時はまだマップからのワープが出来なくてさ、バイクとか宇宙船みたいな乗り物の需要が沢山あったんだ、今は皆ワープでひとっ飛びだから、よほどの物好きじゃない限りバイクには乗らないんだ」
「その発言、老害臭いぞ。……まぁ俺も同意するが。仕方ない、乗り物は個人で持つには維持費用が高すぎる。その費用分で装備やアイテムを買いたいってプレイヤーの方が多いさ、あのアップデートはやっぱり良いアップデートだったよ」
そう言って、アイリとカガミは店内に展示されたバイク達を見つめた。その話を聞いていたキララは目を見開く。
「あ、そっか……」
キララは、マップからのワープ方法を知らなかった銀華が、ワープポータルを見失って一つの惑星から出られなくなっていた話を2人にした。その話を聞いた2人は思わず笑い出す。
「くっ……はははは! なるほど! そういうことか! やっぱり何事も理由はあるもんだな」
「皆の真似をしていた本物銀華さんは、当時主流だったワープポータルからのワープは知っていたけど、その後のアプデで来たマップからのワープは知らなかったわけだね。へー、ホントに機械が苦手なんだね」
「フリードにある和風小物の店で新しいかんざしを買いたくてフリードに戻って来たんだって。2人はそういうお店に心当たりある?」
カガミは顎に手を当てて考え始めた。アイリは嬉しそうに目を輝かせる。
「へぇー! サムライガールもおしゃれをしたがるんだねー! ……けどごめん、フリードってなんだかんだ激戦区だから、色んなお店が現れては消えてくからね、私はちょっとわかんない。けど、ウチの近所にはなかった気がするな」
「情報屋として不甲斐ないが、俺もわからない。フリードには3000近いプレイヤー商店があるからな、さすがに把握しきれん。アイリやナナホシみたいな、老舗の店主に聞いて回るしかないだろう。或いは、フリードを拠点にしている大きな商会系クランなら情報を持っているかもしれない……」
「ありがとう、銀華さんに伝えておくよ」
キララがいちごミルクのグラスを傾けて残りを飲もうとしたところで、カガミとアイリは顔を見合わせた。キララは首を傾げる。
「……キララ、銀華さんが危ないかもしれない」
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