第31話 無差別PK 9

「あっ、あっははははははは」


「キララ殿──────ッ!」


 真っ赤になって涙目で刀を抜こうとする銀華を、キララはなだめた。


「ご、ごめん……ちなみに、フリードに帰ってきたのは何故?」


「あぁ……それは……」


 銀華は少し顔を赤らめながら、あのかんざしにそっと触れた。


「……このかんざしは気に入っているが、少し飽いた。他のものも欲しい」


 そんな銀華に、キララは穏やかに微笑んだ。


「それ、フリードで買ったの?」


「いかにも。和風の服や小物を売っている店があってな、そこで買ったのだ……そうだ! それで思い出した! こなたはフリードに入れずに困っているのだ!」


 銀華はPKのやりすぎでNPCからの信頼度が下がっており、街に入れないどころか懸賞金までかけられている。キララは、銀華に辛い真実を伝えなければならなかった。


「……銀華さん、無差別PKって知ってる?」


◆◇◆


 キララは、銀華がやっていることが無差別PKと呼ばれる行為で、皆から好かれるようなことでは無いこと。そして、銀華は無差別PKerとしてSOOで有名であることを端的に説明した。


「PKをしすぎると、NPCからの信頼度が下がって、街に入れなくなったり、懸賞金が掛けられたりするの。銀華さんには、今1000万クレジットの懸賞金が掛かっている。フリードに入れないのは多分そのせいだね」


「1000万……!」


 銀華は、ショックを受けていたようだった。


「そうだったのか……こなたは、皆の迷惑になるようなことをしていたのか……」


「そうだね……でもあんまり気にしなくてもいいと思うよ。所詮はゲームなんだから、好きなことをすればいい」


「しかし……!」


 露骨にショックを受けた様子の銀華を見て、キララは少し反省した。


 しかし、銀華のこの反応を見るに、銀華が意図せず無差別PKをしていたことは明らかだった。


「なんでPKをしてたのか聞いても?」


「……構わぬが……どこから話したものか」


「長くても平気だよ」


 銀華は、昔のことを話し始めた。


「こなたは、昔から剣術の修行をしている。友人の勧めもあり、ゲームの中でならより実戦的な修行が出来ると考えてゲームを始めた」


「剣術? 剣道じゃなくて?」


「いかにも。こなたの流派では、稽古の際に真剣を使う」


 それを聞いてキララは驚いた。


 剣術と剣道は全くの別物だ。どちらが上、ということはないが、剣道を心身の鍛錬のためのスポーツだとするなら、剣術は相手との戦いを制するための戦闘術だ。流派にもよるが、剣術では、剣道では反則の足などへの攻撃や、殴る、蹴る、投げる、極める、絞めると言った攻撃、及びそれに対する防御の方法も学ぶ。


「剣術に特化したゲームとかもあるけど……SOOを選んだのは何故?」


 SOOは、アクション要素が強いとはいえあくまでMMORPGだ。リアルな銃撃戦が楽しめる硬派VRFPS『HELL ZONE』が存在するように、リアルな剣の戦いを楽しめるゲームも存在する。


 銀華は顔を赤らめて言った。


「……こなたは、機械に疎い。よく分からなかったから、近所の電気屋でおすすめのものを見繕って貰ったのだ」


 2年間ひとつの惑星を彷徨していた、という銀華は少なくとも2年前にはSOOを始めている。2年前には、SOOはすでに大人気VRMMOとしての地位を確立していたため、その電気屋も悪気なくSOOをおすすめしたのだろう。


「なるほど」


 銀華らしい、キララはそう思った。


「しかし、ゲームを始めたのはいいものの、こなたはさっぱり勝手が分からなかった。だから、皆の真似をしていたのだ。……言い訳がましいかも知れないがな。皆と同じように、もんすたーや人を斬っていたのだ」


 勝手が分からない以上、周りの真似をするというのは責められた行為ではないだろう。しかし、キララにはそれが少し引っかかった。


 自由都市フリードの周りには初心者狩りがウヨウヨしているので、確かによくPKを見かける。しかし、大半のプレイヤーはモンスターを倒したり、宇宙を探索したりして楽しんでいるのだ。それを真似すれば、『PKなんて当たり前』という発想には至りにくいだろう。


「……なるほどね、ちなみに、銀華さんがプレイを始めたのっていつ頃?」


「ふむ……2年と半年ほど前だろうか。まぁとにかく、こなたはそうして修行に明け暮れていた。このかんざしを買った店を見つけたのもその時期だ。まだ店が残ってるといいのだが」


「情報通の知り合いが居るから今度聞いてみるよ」


「本当か! ありがたい!」


 銀華は嬉しそうに目を輝かせた。


(私は、2年以上前のSOOがどういう状況だったのか知らないから、この話の真偽を判断できない。……今度カガミにでも聞いてみるしかないね)


 キララがそんなことを考えながら顎に手を当てていると、少し元気になっていた銀華が、またしおしおと落ち込んでしまった。


「……そして、同じ景色に飽いたこなたは、皆の真似をして適当な星にワープしてみたのだ。……後はそなたも知っての通りだ」


「ありがとう。とりあえず、銀華さんに悪気がなかったって知って安心したよ」


 銀華はそれを聞いて少し嬉しそうにしたが、すぐにまた視線を落とした。

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