第30話 無差別PK 8
「ね、寝落ち? 寝ているということか? 違う! こなたがしているのは瞑想だ! 精神集中だ! ね、眠りなどするものか!」
「いや寝落ちだよ! いい? ゲームを辞める時は───」
そう言ってキララは指を振ってホログラムウィンドウを起動する。すると、それを見て銀華は目を輝かせて立ち上がった。
「おお! そなたは
キララは呆気に取られる。
(間違いない……この子ポンコツだ!)
キララは、ホログラムウィンドウの起動方法、そして、ホログラムウィンドウからログアウトをする方法を銀華に説明した。
「なるほど!
瞑想の語気がやたらと強い銀華。キララは目眩がする思いだった。
(この子……今までどうやってゲームしてたんだ?)
キララは思い切って尋ねてみた。
「ねぇ、私とフレンド登録してくれない?」
「ふれんど……こなたと友誼を結びたいということか? いいぞ、そなたは親切だからな」
「そりゃどうも、じゃあ────」
キララは四苦八苦しながら懇切丁寧に銀華にフレンド登録のやり方や、フレンド登録することで相手に勝手にプロフィールなどを見られるリスクがあることを教え、銀華をフレンド登録した。
キララはフレンド欄から銀華のプロフィールを開く。
銀華 Lv90 ID:Ginka
キララの目が見開かれる。
(レベル90……!)
「おお! ゲームではこうやって友誼を結ぶのだな!」
そんな風に喜んでいる銀華の隣で、キララは顔を険しくした。
(間違いない……なりすましだ……)
◆◇◆
キララがキルした銀華は、経験値ロストペナルティによりレベルが78になっている。しかし、キララがフレンド登録をした銀華はレベルが90であった。つまり、別人である。
(懸賞金が支払われないのも当たり前だね、だって、私がキルしたのはただのなりすましなんだから)
何か用事があったらしく、ログアウトしなければならない銀華に明日またここに来るように伝え、キララもログアウトした。
翌日。キララが待っていると、銀華がログインしてきた。
「こんばんは、キララ殿」
「うん、こんばんは」
「さぁ、キララ殿。こなたとゲームだ」
そう言って銀華は突然鯉口を切った。キララは慌ててそれを止める。
「ちょっと待って、今日は君に頼みたいことがあるんだ」
「頼み? こなたにか?」
銀華は刃を収めた。
「うん。君に、君の偽物を倒して欲しい」
キララのその言葉に銀華は首を傾げた。
◆◇◆
キララと銀華は、倒木に座って話を始めた。
「こなたの偽物、と言ったな? どういうことだ?」
「ごめん、その前に、君にいくつか聞かなきゃ行けないことがある」
キララは銀華に聞かなければならないことが多すぎた。
「銀華さんは、ひとつの惑星に籠っていたんだよね? でも最近君は自由都市フリードに帰ってきた。それはなぜ?」
「な、何故その事を!」
「君は有名人だからね」
銀華は怪訝な顔をしたが、顔を赤らめて話し始めた。
「……こなたはあの星に籠っていたのではない、出たくても出られなかったのだ」
やはり、と、キララは目を細めた。
「それはもしかして、ワープの方法が分からなかったから?」
先日、カガミとクロウの会話を聞いた時にキララは考えた。もし仮に、銀華がクロウと同じくらいポンコツで、ワープの仕方が分からなかったら、ひとつの星から出られないのではないだろうか……と。……その場合そもそもどうやってその星に移動したのかという疑問が残るが、SOOにはワープ以外の移動手段などいくらでもあるためそれらを使ったのだろうと考えるしかない。
「ち、違う! こなただってさすがにワープの仕方くらい知っている! 分からなかったのはワープポータルの場所だ!」
「ワープポータルの場所?」
「そうだ、ワープをするには、まずワープポータルを見つけないといけないだろう?」
二人の間に沈黙が流れる。キララと銀華は互いに首を傾げた。
「……普段、どうやってワープしてるの?」
「普通にワープしているぞ? まず、ワープポータルに直接触れるだろう? そうすると、地図と行き先一覧が出てくるから、行きたい場所を選ぶとワープが出来る。他にどうしろというのだ?」
キララはその返答として、カガミが先日クロウに見せたようなマップからのワープの方法を見せた。キララのマップに表示された『ワープする』のボタンを見て銀華は驚愕の表情を見せる。
「そ、そんな! ワープポータルの所まで歩いて行かなくてもワープできるのか!?」
「うん……むしろ私、銀華さんみたいなやり方でワープしてる人見たことない……」
「あぁ……なんということだ……なんのためにこなたは2年間もあの星をさ迷っていたのだ……!」
「……2年間?」
頭を抱える銀華の顔を、キララは覗き込む。銀華は半泣きで頷いた。
「そうだ、こなたはワープした先の星でワープポータルを見失ってしまい、2年間放浪の日々を送っていたのだ」
それを聞いて、キララは思わず吹き出してしまった。
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