第29話 無差別PK 7

「キャラクターリメイクカードか……確かにとんでもない貴重品だな」


「リメイクってことは、それがあればキャラメイクをやり直せるの?」


「そうだ、課金アイテムだがな。1枚3000円もする。貴重品だろう?」


「そんなに大事なものなら、アイテムボックスにしまっておけば良かったのではないか? それに、課金アイテムなら安全な街の中で買えば良かっただろうに」


 クロウが珍しく真っ当なことを言ったのでキララはくすくす笑った。


「くすくす、クロウがマトモなこと言ってる、くすくす」

 

「なんだと貴様ァ!」


「……そうだな、これは覚えておいて損は無いテクニックなんだが、死ぬ直前に貴重品を実体化させる……というテクニックがあるんだ。キララ、PKした敵からアイテムを奪う時どうしてる」


 キララは『あぁ』と零した。


「なるほど、アイテムを実体化させる……つまりアイテムボックスから出しておけばPKされた後奪われるリスクが減るんだね」


 死体からアイテムやクレジットを奪う場合、死体のアイテムボックスを漁ってその中からアイテムを奪うことになる。貴重品をアイテムボックスの外へ避難させておくのは有効な強盗対策だ。もちろん、一番良いのは、そもそも貴重品を持ち歩かないことであるが。


「そうだ、ただし、実体化させたアイテムは死体が消えた後もフィールドに残り続けてしまうがな。だから慌てて回収を頼んできたわけだ」


「では、街の外で課金をした理由は? 街の外はそれこそ無差別PKなんかがうろついていて危険だろう」


 カガミは大きなため息をついた。


「俺もそう思うよ、本人に説教してやってくれ」


◆◇◆


「俺はこのカードを届けないといけないからフリードへ帰る、あんた達はどうするんだ?」


「俺も街へ帰るぞ! 弾が切れたから新しく買わなければならない」


「お金あるの?」


「そんなもの、稼げばいいだろう!」


「そうだね」


 キララは2人に背を向けて歩き始めた。


「私はやることがある。じゃあね」


「そうか、じゃあな」


 そう言ってカガミはマップを起動し、自由都市フリードの中にあるワープポータルを選択し、『ワープする』と書かれたボタンを押そうとした。


 その様子を後ろから覗き込むクロウ。こっそり覗き込んでいるつもりなのだろうが、ペストマスクの嘴が大きすぎてこっそり出来ていない。カガミは尋ねた。


「……ワープの仕方を知らないのか?」


「ち、違う! そんなわけないだろう!」


 2人のそんなやり取りを聞いて、キララは足を止めて振り返った。


 クロウはマップを起動し、モタモタとワープポータルを探している。カガミが、クロウのマップに指を指す。


「これだ、このマークがワープポータルだ。これをタップすると……」


「う、うるさい! そんなことは分かっている!」


「なんで俺たちに着いてきているのか分からなかったが、ワープの仕方が分からなかっただけか。素直に聞けばよかったのに」


「だ、だから違うと言っているだろう!」


 キララは顎に手を当てた。


(まさか……いや、でももしそうだとしたら……)


◆◇◆


 キララは、銀華について様々な違和感を覚えていた。違和感の正体を探るべく、調査を行った。


 自由都市フリード周辺のワープポータルに片っ端からワープし、ワープポータルの周囲200m程を徹底的に調べた。丸1日調査をしたが、望んだ成果は得られなかった。


 2日目。


 6個目のワープポータルにワープした時、キララは目的の人物を見つけた。


 長い銀髪をひとつに結わえ、雪の結晶のかんざしを刺した袴姿の美しい少女。銀華だ。後ろ姿だけで顔はよく見えないが、森林エリアによくある倒木の上で、じっと座っている。


 キララは、十分に距離をとって銀華に声をかけた。


「こんにちは」


 しばらくして、凛々しい声で返答が帰ってくる。


「申し訳ない、こなたはこれからゲームをやめる。そなたに付き合うことは出来ない」


 その返答の仕方で、キララの目が少し見開かれる。


 キララが感じていた様々な違和感が、ある1つの可能性を映し出す。


(なんてことだ……いくらなんでも悪質すぎる……いや、決めつけるにはまだ早い。少し詰めてみよう)


 キララは銀華との距離を詰める、ゆっくりとその周りを歩き、顔をのぞき込む。


 見れば見るほどに端正な顔立ちであった。穏やかに目を閉じて、瞑想をしているようだ。


「ゲームをやめるんじゃないの?」


「……そうだ。だから瞑想をしている」


「それは……ルーティーン的な?」


 銀華は静かに目を開いた。強く真っ直ぐな蒼い瞳がキララを捉える。


「申し訳ないが、瞑想の邪魔だ。それに、るーてぃーんとは何だ」


「普通にログアウトするのじゃダメなの?」


「ろぐあうと?」


 キララは困惑した。キララは頭を抱えて思考をめぐらせる。


(意味がわからない、ログアウトの意味を知らない? いや、瞑想って……まさか……)


 SOOをプレイするためのVRヘッドギアには、安全のため睡眠時にゲームから自動ログアウトする機能が搭載されている。


「ゲームを辞める時は、いつも瞑想を?」


「そうだ、そして、気づいた時には現実世界に戻っている」


「それは─────」


「それは?」


 キララは柄にもなく大声を出した。


「それは寝落ちだよ!」

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