第28話 無差別PK 6
「銀華、銀華の意味だと!? そんなもの知るか、それは、私が適当に考えたプレイヤーネームだ!」
「そうなの? かんざしだけじゃなく、着物にも
バイクを止めたカガミは、キララと銀華の会話に耳を済ませた。
「こ、こしらえ?」
「拵っていうのは、鞘とか鍔とかの刀の外装具の総称だよ。……意外。こんなSF調のゲームで袴着て刀振ってるんだから、刀剣オタクだと思ったのに」
銀華は刀を構えてキララを睨んだ。
(意味のわからないことを……それよりこいつ、どうやって背後を……最近噂の光学迷彩は、足音までは消せないはず……!)
銀華はその時ふと、キララの足元に、さっきまでなかった白い大きな布が転がっているのを見つけた。
(なるほど……バイクには2人乗っていたのか! 布をかぶり、タイヤに巻き上げられた白砂に紛れてバイクを降り、エンジンの轟音に紛れて忍び寄ったのか……小賢しい真似を……!)
「その通り、私はバイクを囮にして君の後ろをとった」
「ッ!」
銀華は視線をキララに戻す。
「今回は見逃してあげるから、逃げるといい」
「見逃す、見逃すですって!? ふざけないで! あんたもまとめて─────」
キララはかんざしを空高く放り投げると、それをラストトリガーで撃った。銀色の破片になって砕け散るかんざし。
(こいつ……投げたかんざしを……しかも、あの銃は確か実弾銃のラストトリガー……!)
「獲物を横取りすると、そこのクロウ君が怒るから……今回は見逃してあげる」
「おい! 何を勝手に決めてるんだ! この俺が、悪人を見逃しなどするものか!」
「……弾切れのくせに」
「ぐうっ!?」
クロウは、弾切れのM19をポケットに隠した。クロウと長い付き合いであるキララは、クロウの悪癖を知っていた。発砲を我慢できないのだ、残弾がある限り弾は全て撃ち尽くす。そのクロウが、発砲もせずにただキララと銀華のやり取りを聞いているということは、間違いなく弾切れである。
銀華は周囲を見渡す。10人程のレイドパーティー、恐るべき戦闘センスを持つリボルバー男、小汚いバイクの男、ラストトリガーを使いこなせる謎の少女。さすがに分が悪いと感じたのか、銀華は刀を仕舞う。
「ふん! 勘違いするんじゃないわよ……」
そう言って、銀華は足早に歩き去っていった。
◆◇◆
歩き去る銀華の後頭部に、キララは立て続けに3発の弾丸を撃ち込んだ。キララの視界の端に流れるキル通知。その光景を見ていた全員が、意味が分からず口を開ける。
「キィラァルアアアアアアアアアアアア! 貴様アアアアアアアアアアアア!」
キララにM19を向けながら、クロウがドスドスと歩いてくる。
「貴様! 人の真剣勝負を────」
「自分だって割り込み参戦したくせに」
クロウは、レイドパーティーの皆様へ土下座した。ペストマスクの嘴が、白砂の大地に深々と突き刺さる。
「……勝負を邪魔してしまい、すいませんでした。その、銀華さんの言動が許せなくて……」
「この卑怯者! 卑怯者め!」
死体になった銀華は大声で喚きちらした。
「え? ほんとに見逃すとでも思ったの? ばかじゃないの?」
キララは銀華に『ぷぷぷー』と嘲笑を投げかけた。キララの挑発に銀華は激昂する。
「卑怯者! ブス! リアルがブスだからネットでオタクの姫してるんだろこのドブスが! 死ねよ! 死ね────ッ! 卑怯者卑怯者卑怯者!」
キララは無視して銀華の死体を漁った。無差別PKをしている最中に手に入れたのだろう、3本のドロアンプルを見つけたので、ドロアンプルと奪えるだけのクレジットを奪って懐にしまう。
「クソブスが! 次会ったら、ぶっ殺……え?」
何かに気づいた銀華が静かになる。そして、今度は悲鳴を上げた。
「嘘、嘘嘘嘘嘘! いや、いやああああああっ! なんで、レベルが! レベルが! そんな、私は、レベル90のはずなのに! な、78、そんな、なんでなんで、嫌、いやあああああああああっ!!」
悲鳴を無視してキララは歩き去った。しかし、違和感に立ち止まる。
(あれ? 懸賞金は?)
◆◇◆
キララ、カガミ、クロウは白砂の砂漠を歩いた。
「ねぇ、賞金ってどのタイミングで貰えるの?」
キララはカガミに尋ねた。銀華は1000万クレジットの賞金首だ。それを倒したキララには賞金が支払われるはずである。
「ん? 確か『懸賞金が銀行に振り込まれました』って旨の通知が来るはずだが。来ていないのか?」
「……見逃したのかも、確認してみる」
カガミは珍しくマップを見ながら歩いた。マップには自分の現在位置の座標が表示されるためだ。目的の座標にたどり着いたカガミは辺りを見渡す。
「あの……別に俺に付き合わなくてもいいんだぞ、知人に頼まれた雑用だ」
「さっき通話してた人?」
「そうだ、銀華の無差別PKに巻き込まれたらしいんだが、その時に実体化させていた貴重なアイテムを落としてしまったそうで、その回収を頼まれたわけだ。……お、あったあった」
カガミは、1枚の輝くカードを拾い上げた。
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