第27話 無差別PK 5

 クロウと銀華の戦いの火蓋が切られた。


「あんた! 一人でだなんて無茶だ!」

「俺たちと協力して戦おう!」


「ええい黙れッ!」


 クロウはリボルバーS&W M19を構える。


(馬鹿な中二病! ……SOOで実弾銃なんて当たるわけないでしょ!)


 右へ、左へ、不規則に動きながらクロウとの距離を詰めにかかる銀華。クロウがM19のトリガーを引き絞る。立て続けに5発、M19の銃声が轟く。クロウの放った弾丸は、まるで吸い込まれるように銀華の額に全弾命中した。


「ッ!?」


 飛び散るダメージエフェクト。微かに削られる銀華のHP。観衆たちの間にどよめきが起こる。


(馬鹿な! コイツ、現実で射撃訓練でも受けていたの!?)


 怯みこそしたが銀華の脚は止まらない、クロウは後ろに飛びのきながらスピードローダーで素早くM19をリロードする。


 再びクロウがトリガーに指を掛ける。銀華は目を凝らす。


 6発の銃声、銀華は激しく横に動くが、4発がその頭に命中する。


「馬……鹿なッ!?」


「うおおおおッ! すげえええッ!」

「あのプレイヤー、何者!?」


 クロウは再び大きく飛びのきながらリロードをする。その隙に、銀華は必死に思考を巡らせた。


(落ち着け、ダメージは大したことないんだから、弾を受けながらでも突っ込んで近接戦に持ち込めば!)


 再びの銃声、銀華は腕で顔を守りながらクロウに突進する。ダメージを表す赤いポリゴンの破片が飛び散る。クロウは、もう一度後ろに飛ぼうと膝を曲げる。


「させないッ! 『ダブルスラッシュ』!」


 しかしクロウの屈伸はフェイントだった。膝を曲げるフリをして、砂に深く沈めた脚を高く蹴り上げる。舞い上がる白砂が煙幕のように立ち上がり、スキルの行動中でブレーキの効かない銀華はそのまま煙幕に突っ込む。


「クソッ!」


 空振りに終わるダブルスラッシュ。銀華の背後でクロウはぽつりと零す。


「物理法則の範疇でスキルを使うな」


「貴様アッ!!」


 乱暴に振り抜かれる刃。しかし銀華は刃を振り向き様に、煙幕の向こうに黒い影が横切るのを見た。


「そこかああああッ! 『ラッシュエッジ』!」


 現実で考えれば限りなく不可能である全力の大振りのキャンセル。スキルの命令に銀華の身体が躍動し、影に向けて一気に襲い掛かる。


 しかし、銀華の刃が切り裂いたのは、脱ぎ捨てられたクロウのコートであった。


 攻撃スキルの後には、動きが止まる『スキル硬直』という時間が存在し、その間は身体の自由が効かなくなってしまう。


 スキル硬直で一瞬動きが鈍った銀華の頭に、すかさず6発の弾丸を打ち込むクロウ。クロウの赤いネクタイが風になびく。


「ぐっ!」


「おい! このゲームのリボルバー不遇すぎるだろ! なんでこれで死なんのだ!」


 無理もない。クロウのリボルバーは、自由都市フリードのぼったくり商店街で売っていた攻撃力2400の貧弱リボルバーである。Lv90の銀華のHPを削るにはあまりに力不足だ。


「くっ……くくくく……あんたのステータスじゃあたしに勝ち目はないわ! キャラ育成もまともにできない馬鹿のくせに、よく大見得きれたわね!」


 頭に何発も弾丸を受けながら、銀華は顔をゆがませた。周囲のプレイヤー達が罵声を飛ばす。


「何だと! どこからどう見たってリボルバー男が圧倒してたじゃないか!」

「もしお前がクロウさんをキルできたとしても、そんなの、お前の負けも同然だ!」

「手のひらで踊らされただけのくせに!」


 その時、轟音と砂煙を上げながら一台のバイクが近づいてきた。


◆◇◆


 小汚いバイクに跨るのは、これまた小汚いコートの男、カガミだ。バイクのタイヤが白砂を巻き上げ、猛烈な砂煙が後に引かれる。


 クロウ達の居る場所まであっという間にやって来たカガミは、プレイヤー達の傍を通り抜け様に銀華に向けて光線銃を乱射した。銀華は身を小さくしたが、数発の光弾をもろに受けてHPを削られる。


「おい貴様! 真剣勝負に手を出すんじゃない!」


 クロウが叫ぶが、その声はバイクのエンジンの轟音にかき消される。銀華はカガミを睨みながら刀を構え直した。


 その時、銀華の髪が突然解けた。


「雪の結晶のかんざし……君が銀華だね」


 慌てて飛び退く銀華、振り返ると、そこには銀華のかんざしを手のひらで回す少女が立っていた。キララだ。


(コイツ……いつの間に私の背後を……!)


「君のこと聞いた時意外だったよ、無差別PKなんて無粋なことするくせに、こんな風雅なプレイヤーネームをつけるなんてね」


「風雅ですって? 訳の分からないことを……!」


 キララは首を傾げた。


「うん? ……君、銀華という言葉の意味を知らずにプレイヤーネームにしたの?」

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