第26話 無差別PK 4
「別に、何となく何か引っかかるだけ……そんな無差別PKしてるプレイヤーが、どうして一つの惑星に籠っていたんだろうって」
「さぁな、賞金首の考えることなんてわからないさ」
◆◇◆
ナナホシは、キララが持ってきた様々な品物を、『これは150クレジット』『これは最近人気だから220クレジット』と、丁寧に買い取っていった。カガミは、別に特段売りたいものなど無かったがそれを静かに聞いていた。
ナナホシのアイテムの価格相場を読む力はSOOでも指折りだ。カガミは、相場が気になるアイテムをナナホシのところで売ったり買ったりして、相場を聞き出している。ナナホシは『別に、相場くらいタダで教えますよ』と言ってはくれるが、それでは筋が通らないだろうと、カガミは頑なにアイテムを売り買いしていた。情報屋として、情報提供者であるナナホシの信用を勝ち取ることは極めて重要だからだ。
そんな時、カガミのもとに着信が届いた。SOOではフレンド同士であれば音声通話が可能なのだ。
「失礼」
そう言って、カガミは壁の方を向いて通話を始めた。カガミの口の前に、マイクのマークのホログラムが現れる。
「カガミだ……あぁ……え、今から? 俺は情報屋で、雑用係じゃないぞ……はぁ……あーもう、わかったわかった……座標を送ってくれ」
カガミが通話をしている横で、ナナホシは会計を済ませ、キララにクレジットを渡した。
「え、なんだって? 今なんて言った? ……銀華、銀華だと、今そこにいるのか?」
カガミの表情が険しくなる。銀華、という言葉にキララとナナホシが反応する。
「何! ペストマスクをした黒ずくめの男と銀華が戦ってるだと!?」
◆◇◆
自由都市フリードの周囲は、荒野、廃墟街区、森林、砂漠に囲まれている。砂漠エリアは、『隕石の衝突でガラス化した大地が、風化によって砂漠になった』という設定で、真っ白なガラスの砂に覆われており、息をのむほどの美しさだ。
その美しい白砂の大地に、悲鳴が響き渡っていた。
「うわああああっ!」
「クソ! ダメだ! 強すぎるっ……!」
「馬鹿な! こっちはレイドパーティーなんだぞ!」
「あっははは! 弱い! なんて弱いの!」
銀の髪を振り乱しながら太刀を振るう少女を、20人ものプレイヤーが囲っている。5人のフルパーティーを4つ合体させた、計20人のパーティー。普通のパーティーでは倒せない『レイドボス』と呼ばれる強力なボスを倒すためのパーティー、『レイドパーティー』だ。
長い銀の髪をひとつに結わえたその少女は、氷の結晶の飾りの着いたかんざしを刺し、水色と濃紺の袴姿に身を包んだ美しい少女であった。
「こいつ、化け物か……!」
「こいつが例の無差別PK『銀華』だ!」
「確かに、酒場に貼ってあった人相書きとそっくりだ!」
1人対20人。本来であれば覆しようがない戦力差だが、その少女はたった1人でレイドパーティーを圧倒していた。少女が刀を振るう度にプレイヤーの死亡通知が鳴り響く。白い砂を巻き上げながら舞う刃が、砂漠の日差しを受けて銀色に輝く。
「ねぇ! なんでそんなに弱いの! あんたら揃いもそろって雑魚ばっかり! 負けてネトゲに逃げてきた社会不適合者共が! ゲームの中でまで負けて恥ずかしくないの!?」
「クソアマがッ! 『ダブルスラッシュ』!」
男は、目にもとまらぬ速さで少女に突進しながら二回の斬撃を放つ。SOOには数多くのスキルが存在し、『ダブルスラッシュ』などの攻撃スキルを使えば、たとえ現実で剣の心得が無い者でも剣の達人のような剣捌きを見せることができるのだ。
しかし少女は男のダブルスラッシュをひらりと飛んで躱し、嘲るような笑みを浮かべた。
「だから弱いんだよ! この雑魚! 『ダブルスラッシュ』!」
少女はまるでそこに足場があるかのように、空中で男の方へ突進し、二回の斬撃を浴びせた。
「物理法則の範疇でスキルを使うなよ! 頭使ってゲームしろよ! だからあんたは負けんのよ!」
「がぁッ!?」
斬り伏せられて男は死体になる。スキルを使えば物理法則を無視した動きが可能だ。現実であれば不可能な空中機動も、スキルを上手く使えば容易く行うことができる。
「うわあああっ!」
「きゃあああッ!」
レイドパーティーを端から死体に変えていく少女は、歪んだ笑みを浮かべながら叫んだ。
「あっははははは! なんであんたらがこんなゲームしてんのかよく分かる! 弱いからね! 弱くて役立たずだから、現実逃避してんでしょ! ホントに無様ね! 笑ってあげる!」
「────そこまでだ!」
怒りに満ちた声と、轟くリボルバーの銃声。少女は声の方に振り向く。
白い砂が風で舞い上がる。そこには、ペストマスクをした黒ずくめの帽子の男が立っていた。空に掲げられたリボルバーの銃口が、陽光を照り返して銀色に輝く!
「無意味な殺生を繰り返すだけでは飽き足らず、汚ぇ喚き声まで上げやがって、このヒステリー野郎! お前のような奴はこの、クロウ様が粛清してくれるッ!」
「何あんた、ペストマスクなんか被りやがってこの中二病。現実の顔にさぞかしコンプレックスがあるんでしょうね、可哀想に」
「黙れ、貴様こそ『銀華』という名前で氷のかんざしなんて刺しやがって! お前こそ中二病だ!」
「は? それのどこが中二病なの?」
「……は? ええい、無駄話はもう十分だ! お前たち! 手を出すな! コイツは俺一人でやる!」
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