第20話 粘着PK 12
あかりの配信はその後滞りなく盛り上がり、最後は平和に終わった。
翌日、結果の報告や報酬を受け取るためにキララは再び、鉄靴の魔女の洋館を訪れていた。キララが応接室の扉を開けると、応接室では、既にノワールとあかりとヤマモトが談笑をしていた。
「あっ! キララさん!」
「キララ様」
「やぁやぁ」
あかりがキララの元へ駆け寄ってくる。
「キララさん、本当にありがとうございました! おかげでSOO配信を続けられそうです!」
「ごめんね、光学迷彩を解かれるまで頭の位置が分からなかったから撃てなかったんだ。配信を邪魔してしまったね」
「そんな、とんでもないです!」
そう言って顔をぶんぶんと振るあかりに、キララは顔を寄せた。互いの吐息がかかるほどの距離に、赤面して慌てるあかり。
「キ、キララさん!?」
キララは、あかりの耳元でそっと囁いた。
「今、自分の部屋で1人でゲームしてる?」
「へ? あ、はい、そうですけど……」
「そ、ならいい」
キララは顔を戻すと、突然ヤマモトの両膝をラストトリガーで撃ち抜いた。
「っ!」
「きゃああぁっ!? ヤマモトさん!!」
倒れるヤマモトにあかりが慌てて駆け寄る。ノワールは眉ひとつ動かさずにそれを見ていた。
「実戦では使えなかったけど、このラストトリガーって銃、気に入った。ノワールさん、報酬の割り引きはこの銃に使わせて欲しい」
「かしこまりました」
「何するんですかいきなり!」
あかりは半泣きでキララのことを睨んだ。
「無駄な抵抗をされないようにね。……で、
あかりは怯えたような目でヤマモトの方へ向き直った。ヤマモトはじっとうずくまっていたが、静かに口を開いた。
「……そうです、私がUNKNOWNです」
◆◇◆
「え……」
状況が飲み込めないあかりは、立ち上がって後ずさった。キララは、相変わらず眉ひとつ動かさないノワールを見つめる。
「……その様子だと、ノワールさんはやっぱり気づいてたんだね」
「はい。予想が確信に変わったのは、光学迷彩の話を聞いた時ですが。……光学迷彩の迷彩効果は、走る、攻撃する、ワープするなどのアクションをした時に解除されます。つまり、ワープ直後は必ず実体が見えるんです。しかし、ワープポータルを監視していたカガミ様はUNKNOWNの実体をご覧になっていない」
「つまり、UNKNOWNはワープポータル以外の場所から現れたことになる。けど、SOOにそんなことが出来るスキルやアイテムは存在しない。やはり、ワープポータルを経由しなければUNKNOWNはあの場に現れることは出来ない」
「そ、それは矛盾してるんじゃ……」
キララは首を横に振る。
「UNKNOWNは、事前にあのワープポータルを使って、あの池の近くの安全な場所まで行き、そこで一度ログアウトしたんだよ。もっとも、ログアウトした詳細な位置までは分からなかったけど」
「そしてあかり様の配信開始と同時にゲームにログインし、光学迷彩を使って背後に忍び寄り、襲いかかった」
キララがナナホシに『室内の監視』なんてことを任せたのは、UNKNOWNが廃墟の中でログアウトしており、ログインと同時にまずキララを襲う可能性を恐れてのことだ。
「それこそ絶対におかしいです! そんなの! まるで最初から私の配信場所を知ってたみたいじゃないですか! 私は『釣り配信をする』としか告知していません、私の配信場所を─────」
あかりの配信場所を知っていたのは、あかり、キララ、ノワール、カガミ、キララに声を掛けられたナナホシ、そしてヤマモトの6人だけである。
あかり、キララ、そしてキララと一緒に監視作業をしていたカガミ、ナナホシを除けば、UNKNOWNになれるのはノワールとヤマモトの2人だけ。そして、ただでさえ小柄なキララより更に小柄なノワールを、大柄のUNKNOWNと見間違えるのはあまりに無理がある。
「私はその時間、別の商談をしておりましたのでアリバイもございます……もっとも、監視作業なら誘っていただければ喜んで時間を作ってお手伝いしましたのに」
「ノワールさんは足音がうるさいからだめ」
ノワールはそれを聞いて『それはそうだ』と、くすくす笑った。
「じ、じゃあプレイヤーネームは! 『ヤマモト』と『UNKNOWN』を見間違えたりしませんよ!」
「SOOでは、プレイヤーネームの変更はいつでも何度でも自由に行うことができます。変更できないのはIDだけでございます」
「そして、キルログにはIDではなくプレイヤーネームの方が表示される」
あかりは、悲しげにヤマモトを見つめた。
「なんで……」
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